恋して、デスって
藤原くう
恋して、デスって
先輩なんかひとりで死んじゃえ!
さっき言いはなってしまった言葉が頭の中でリフレインして、思わず「うへ」と声が漏れた。
式見イザナ。
1個上の先輩。
お付き合いしている人。
その関係も、今回で終わりなのかもしれないけれど。
ブルーな吐息が何度も出ていく。ほとんど何も入ってないカバンが重たく感じられる。
道行く人たちが幸せそうに見えて、またため息。
ちょっくら死にたい気分だったけれど、死ぬ気にもなれない。
『死んで前向きなりたいならプレデスまで!!!』
そんなCMが耳に入るけれど、デスる気分じゃなかった。
思考はグルグル回りまわって、これまでの先輩とのやり取りが頭の中でよみがえる。
他人には他人の死に方がある。
母さんは眠っているうちに死にたくて、父さんは酒の海に溺れて、いや酒と一体化して死にたいらしい。
わたしは好きな人の隣で死ねたら――。
コホン。とにかく、好きな死に方っていうのがあって、プレデスはそれを再現する装置。
生きているうちに死ねる装置。
ヘッドギアをかぶるだけで入れる世界。そこでは、自由な死に方ができる。
日本酒に溺れて酒とともにこの世を去るのだって、眠っているうちに死ぬのだって。
圧殺暗殺殴殺に絞殺、バラバラ斬殺、撲殺に
先輩とケンカしちゃったのは、死に方の方向性がまるきり違ったから。
わたしはオーソドックスな死に方が好きで、先輩はとびきり変わったのが好き。
そりゃあ、バズるような死に方が羨ましくないかと問われたら、口をもにょもにょしちゃう。
わたしだって賞が取れるような死に方がしてみたいし、モデルになれるならなってみたい。
だからって、チャリにジェットブースターをつけるなんてどうかしてる。
「どうして?」
先輩は心の底から不思議に思っているかのように首を傾げた。
「空飛べるのに」
「そのまま宇宙へ行ったらどうですか」
「じゃ、マナカちゃんはカゴの中ね」
「宇宙人じゃないので遠慮しておきます」
残念、と先輩は言うなりブースターを点火。青い炎をおしりから噴き出しながら道路を走っていった自転車は、まもなく大地を離れ、ねずみ花火のように空中を暴れまわったかと思えば、ビルに激突した。
当然、先輩は死んだ。それはもうこなごなに。
次の日の先輩は、水たまりにスワンダイブをしようとしていた。これまた見事に死んだ。
先輩の死に方はこんな感じで、何やってるのかよくわからない。
「偉大な先人がいるんだよ」
なんて先輩は言った。そんな先人、いないほうがマシじゃない?
「マナカちゃんのは普通過ぎるよ」
「それがいいんじゃないですか」
わたしは先輩をぎゅっと抱きしめる。このまま、世界の終わりが来ればいいのに。――いや実際、来るんだ。B級映画的急展開によって、小惑星が地球へ激突するんだ。
好きです。
なんてコテコテの愛の言葉をささやきあって、空が明るくなり、小惑星が母なる大地にキスをする。
衝撃波と熱と光で、わたしたちの意識は仮想空間から現実世界へと吹っ飛ばされる。
隣を見れば、不満げにヘッドギアを外している先輩が見えた。
時刻は午後六時。時間的余裕はあるから、もう一回デスりに行きそうな勢い。
1プレデス=500円。
ピーンと硬貨を弾き飛ばした先輩は、すぐに投入した。体から力が抜けて、死の世界へ。
わたしは穏やかな顔つきの先輩の頬をつつく。
「置いてくなんてひどい」
ちょっぴり胸がチクリとしたから、お返しに頬をつねる。赤くなった先輩のほっぺたで、わたしは満足することにした。
先輩が死ぬまで暇だから自慢話につき合ってほしい。
なぜ、わたしは先輩とお付き合いできたのか。
廊下を歩くだけで黄色い悲鳴が上がる上がる。いや、春風に髪がゆられるだけで気を失う生徒がいるほど。
……説明してるだけなのに、自慢してるみたいになっちゃうな。
とにかく、そんな美少女と付き合えたのはひとえに偶然。
たまたま行った屋上に先輩がいたんだ。
屋上にはフェンスで仕切られている。落ちないようにするためらしいんだけど、そのてっぺんに先輩は座っていた。
これを見て、自殺しようとしていると思わない人間はいないだろう。
わたしは駆け出して、先輩の脚をぎゅっと掴んだ。
見上げると、パンツが見えた。
顔を背けたら笑い声が降ってきた。
「死にやしないよ」
「そうじゃなくても危ないです」
「はじめて言われた」
なんて、先輩が空を見上げる。
くらりとからだが傾いて、20メートルかなたの花壇へ近づく。
脚がフェンスの向こうへ吸い込まれそうな気がして、わたしはなおのこと強く握りしめてしまう。
「痛いよ」
「だって、落ちるかも」
「心配性なんだから」
先輩はくすくす笑って、わたしの頭に手を乗せる。
離していいよ。
そう言われても、心配でなかなか掴むのを止められない。やっと決心して離した。
先輩は墜ちた。
フェンスの向こう側ではなく、わたしの方へ。
それだけじゃなくて抱きつかれた。
「1年生?」
わたしが頷けば、だからか、と小さな呟きが返ってくる。
その言葉の意味がわかったのはちょっと後のこと。
この時は、わけがわからなかった。
いい匂いはするし、抱きしめられてるし。
先輩の顔が間近にあって、ドキドキするってこういうことなんだな、と。
「あ、じゃあ彼女になってよ」
「へ?」
彼女。
頭がフリーズする。やけにはっきり聞こえたくせに、とっさに意味が思い出せない。
彼女ってなんだっけ?
こちとら生まれたときから彼女なんだけど。
「そうじゃなくて、付き合ってほしいな」
「え、わ、わたしと? はじめて会ったのに?」
思い出しただけで恥ずかしくて火を噴きだしたくなっちゃうくらい、わたしはテンパってた。
先輩はいつものように余裕たっぷりな顔して、頷く。
「はじめて会ったからこそ、やってきてくれたわけだしね」
「……?」
「ま、頑張ったで賞ってことで。イヤだったらいつでもどこでも振っちゃってくれていいからさ」
――どう?
先輩はずるい。選択権をわたしにゆだねてくるんだから。
そんなこと言われちゃったら、ノーなんて言えるわけないじゃない。
押し切られるようにして先輩の彼女になったわけだけど。
まさかこんなにアブノーマルな人だとは思わなかった。先輩ほどの美少女が
ただの先輩だったら、その彼女さんの不幸でメシウマだったかもだけど――不幸なヤツはわたしなのだった。
付き合わされるわたしの身にもなっていただきたいものですな。
もしかして、格ゲーしてる彼氏を待っている彼女の気分ってこんな感じ?
天を見上げると、プレデスルームの潔癖な天井が目に入る。見回せば、近くの人たちはみんな眠ってる。
死ぬ夢を見ている。
ここはそのための場所で、起きてるわたしの方が珍しいんだけども。
暇なので宿題でもするかとプリントを取り出すけれど、まったく集中できない。
先輩に教えてもらうと、すんなり解けるのに。
「おーい先輩」
呼びかけても起きることはない。今すぐに停電でもして、プレデスが強制終了しちゃえばいいのに、と思うのはちょい不謹慎か。
でも、しょうがないじゃん。
暇だし、二次関数は解けないし。
妄想でも弄ぶか……? よくある妄想、この場にテロリストがやってくるヤツ。自分がヒーローヒロインにならなくてもいいんだけど、できるなら逮捕の手助けとかできちゃったりしちゃったり――。
はあ。
どれもこれもできます、プレデスなら。
先輩なら、テンプレだね、って言いそうだけど。
「テンプレ上等」
なんてわたしは思う。
ケンカした理由もこの辺にあるような気がしてならない。
だとしたら、先輩はどうしてわたしと付き合うことにしたのやら、どうして気が付かなかったんだろう。
わたしたち、水と油みたいに正反対だっていうのにさ。
先輩の家は、超高級マンションの最上階近くに位置している。
ようするにすごい金持ちってこと。
だってさ、部屋はバカみたいに広いし、ジャグジーあるし、ベッドはふかふか。
そして、プレデスがある。簡易的なものだけど、わたしのお小遣いが100年分あったって買えないやつ。
「別に、ワタシがお金持ちってわけじゃないよ」
なんて先輩は遠い目をして言う。その目はきっと、世界中を飛び回っている両親の影を追いかけている。
式見といえば、プレデスの生みの親。
先輩の両親はコンピュータ関係の仕事とか脳科学とかの仕事で忙しいらしい。
すごいなあ、とわたしが言うと先輩は頬を膨らませる。
「マナカちゃんのご両親がつくるメンチカツの方がすごいけれど」
「250円の価値しかありませんってば」
「いつもあれが出るんでしょ。いいなあ」
「だったら今度わたしがつくりますよ」
勉強は赤点すれすれだけど、唯一誇れる教科は家庭科だったりする。
手伝いするしね、たまに。
「いいの? じゃあお泊り会だね」
いつもよりも弾けた声が、大きなリビングによく響く。
先輩の部屋には、わたしたち以外には誰もいない。いや、ロボット掃除機のペロがいるか。
勉強を教えてもらったり、プレデスをやったりする。
カップルらしいことは……多分してない。
「そういうこと、したいの?」
意地悪な笑顔で先輩が言うものだから、わたしはブンブン首を振るので精いっぱい。
からかわれてるなあ、と感じつつも悪い気はしなかった。
変な死に方するよりかは、じらされた方がずっといい。
というか、別にわたしは死ななくたって別に構わないんだけど。
先輩と一緒にいられたら。
なんて考えるようになってて、ビックリした。ブンブン振った頭がぼんやり熱くてイヤになっちゃう。
「きょ、今日はもう帰りますからっ」
「え、ちょっと早くない? 折角、おやつとか用意してたのに」
「じゃあね!」
韋駄天になった気分でわたしは先輩の家を飛び出した。
外へ出た途端吹き寄せてきた風が心地よかった。
この頃が、一番の絶頂期だった。
山のてっぺんに来たら、後は転がり落ちるだけ。倦怠期、なんて緩やかな反応は存在してなかった。
わたしたちの間に生まれる問題は常にプレデスで――今回は先輩のご両親だった。
両親と水入らずの旅行ということで、式見先輩は数日学校を休んでいた。
当然、わたしは一人。
プレデスに行く気はしないし、ぽけーっと授業を受ける。
暇だなあ。
先輩がいないとこんなにやることがないだなんて。
「はやく帰ってこないかなあ」
そんなわたしのちっぽけな願いが叶ったのか、先輩が予定よりも早く帰ってきた。
でも、様子がおかしかった。
いつもよりも言葉数が少なくて、目を見てくれない。放課後になったら、プレデスに直行して、死に続ける。
面白くなかった。わたしは先輩と一緒にはいたいわけだけど、針のむしろみたいな気分になりたいわけじゃない。
しかも、いつも以上におかしな死に方をしたがるし。
「先輩」
両替してまで続けようとする先輩のセーラー服をちょんとつまむ。
ビクンとその体が震えて、先輩が睨んでくる。凪いだ湖みたいな瞳が、この日は大荒れだった。
わたしの心も揺さぶられずにはいられない。あとちょっとで離しそうになったところを、ぎゅっと力をこめる。
「もうやめましょうよ。わたしに勉強とか」
「……イヤだったらしなくていいけど」
「先輩のことが心配で――」
「ワタシのこと何も知らないくせに」
吐き捨てるような言葉だった。
わたしの心の中で何かがぐさりと突き刺さって、全身から力が抜ける。
叩きつけるように先輩の手を離す。
先輩の目が一瞬、小さくなって。
その手がわたしへと伸びようとして、空中で止まった。目の前に張られた透明な壁にぶつかったみたいに。
先輩なんて。
「先輩なんてひとりで死んじゃえ!」
気が付けば、わたしはプレデスルームから飛び出していた。
どこをどう走ったのかわからない。
気が付けば外にて。
世界は涙色に染まっていた。
そうして、今だ。
なんで言っちゃったかなあ。
前が見てられなくなる。自分の言葉とか、先輩のあの時の表情とかから目をそらしたい。
でも、わたしの頭は心を傷つけるのに憑りつかれてる。
光景を、情景をただただ繰り返す。
ベッドの上で膝を抱えるわたし。毛布の上には、スマホが転がっている。
空白に何かを打ち込もうとするんだけど、今の気持ちみたいに消えては現れ、現れては消える。
ため息とかいう非生産的なものだけが、出ていく。
1人で死ねと突きつけたやつが、ひとりでいることに苦しんでる。
「笑える……」
笑い事じゃなかった。
スマホを手に取る。何度そうしているだろう。
いつしか暗くなった画面には、わたしのひどい顔が映りこんでいる。
鏡よ鏡、わたしはいったいどうしたらいいの?
などと尋ねても答えてくれるわけがなく。もし答えてられるとしても、あっちのわたしだって困ってるに違いないわけで。
「やることなんて1つしかないよなあ」
ごめん。
そう伝えるだけでいい。
それが、お経を取りに行くのよりもずっと長い旅路のように感じる。
ゴソゴソもぞもぞ毛虫のように這いまわってていいのかわたし。
よし。
わたしはスマホを手に取り、勢い打ち込み、見ないで送信。スマホを放り投げ、布団の波間にうずめる。
ひっくり返ったスマホを見ながら、大きく息をつく。
「送っちゃった」
ゴメン。
その三文字を転送しただけなのに、こんなにも心臓がうなっている。
なんて返事が来ただろうか。
スマホをひっくり返したりつついたり。
そうしている間に電源が入って、返事なんて来てないのがわかる。なーんだ。
ホッとすると同時にちょっと悲しくもある。
いつもなら、すぐに既読がついて、秒で返信があるはずなのに。
「まだ、怒ってるのかな」
わたしはスマホ片手に待った。いくら待てども返事はやってこなかった。
陽は暮れ、夜の帳が街に下りた。
もしかして、まだ、プレデスをやってるんだろうか。
それとも、ホントに――。
ブルブルと頭を振る。
「そんなわけない」
呟いてみたら、ますますそんな気がしてきて手が震えた。
どうしよう。
わたしのせいで、先輩が死んだら。
そう思ったら、いてもたってもいられなくて部屋を飛び出していた。
客足の少なくなったプレデスルームに先輩はいなかった。
店員さんに聞いてみたら、ずいぶん前に出ていったらしい。
ひどい顔をされていましたよ。
その言葉に、目の前が真っ暗になった気がした。大丈夫ですか、と心配されたけれど、なんとか返事をする。
店を出て、空を見上げる。
星が見えないほどに分厚い雲が、空を覆っていた。
雨が降りそう。
そんな曇天の中で、ひときわ輝いている建物があった。
先輩の家があるマンション。
誘蛾灯へ吸い寄せられる蛾のように、わたしの足はマンションへと向いていた。
自動ドアの前に立って、さてどうしようと悩む。
先輩を呼び出さなきゃ中へは入れない。
インターホンの前でどうするべきかともじもじしていると。
「あら」
そんな声とともに、女性が近づいてくる。胸には管理人の文字が輝いていた。
「あなたって式見さんのところの娘さんと仲良くしていた子よね」
「はあ……」
ついさっき、破局しましたけどね。――そう言いかけて口をつぐむ。
女性はじいっと見てくるなり。
「あの子ね、いっつも一人でいるみたいだから心配でねえ。ほら、御両親が共働きでなかなか帰ってこないらしいじゃない」
「らしいですね」
「ご飯とかも一人で食べてるみたいだし、あなたみたいなお友達ができて安心したのよ」
なんか知らない間に、知らない人を安心させていたらしい。
それにしても、この人はなんでわたしに話しかけてきたんだろう?
わたしはちらりとインターホンを見る。
「何かあったんでしょ」
「……そう思います?」
「思うわよ。ひどい顔してたから、あの子」
「…………」
「何があったか知らないし聞かないけれど、応援してるわ」
バシンと背中を叩かれた。めちゃくちゃ痛くて、転びそうになった。
痛みにうめいているうちに、悲しみも申しわけなさもどこかへ消えてしまっていた。
女性は笑いながら自動ドアへ近づき、鍵穴にキーを差し込む。
ドアが開いていく。
「ここは開けたげる。家のドアが開くかはわからないけれどね」
「ありがとうございます」
「いいってことよ」
そんな気風のいい返答とともに、女性がサムズアップ。
わたしは彼女に見送られてエレベーターへと乗り込む。
ボタンを押して、扉が閉まる。
ずずんと鋼鉄製の箱が身じろぎする。かすかな、でもはっきりと感じる圧迫感。
重力に逆らっているからか、それとも先輩との距離が縮まっているからか。
気が付けば、チンと音が鳴っている。目的の階についていた。
エレベーターを降りる。背後で扉が閉まって、静かに消えていった。
取り残されたわたしは、廊下を歩く。
先輩のうちの前に立って、頑丈そうな扉を見る。
この向こうに先輩がいる。きっといる。いてほしい。いてくれなきゃどうすればいいかわからない。
期待と不安が入り混じって吐きそう。この不安定な感情が早く終わるように、わたしはチャイムを鳴らした。
ピンポーン。
間の抜けた音が一枚の扉を隔てた向こうで鳴りひびく。
ややあって、扉が開いた。
カチコチと時計の針の音がはっきり聞こえる。
真向かいには先輩がいる。
窓の外に広がる夜景を眺める先輩の顔は、LEDに照らされてるせいか、青白い。
カチコチと一秒また一秒と時が過ぎていく。
わたしは口を開けずにいる。
先輩を見ていると、固めていた決意がサラサラと解けていった。
暗い空を見つめる瞳には、わたしは映ってないんじゃないか。
わたしの言葉になんか耳を傾けてくれないんじゃないか。
それでも、言わなきゃ。
ごめんって。
「――別れようか」
わたしよりも先に出てきた言葉が、稲妻のようにわたしを撃った。
別れる。
どうして?
そうだよね、あんなことを言っちゃったんだから、嫌いになるよね。
血の味がした。唇をぎゅっと噛みしめていた。
先輩がわたしを見る。笑ってた。必要以上にあがった口角のせいで、先輩の笑顔は不格好にゆがんでいた。
「勝手だよね。勝手につき合ったかと思ったら、勝手に分かれるだなんてさ。でも、キミには迷惑をかけたから」
八つ当たりしちゃったし。
ぽつりとこぼれた先輩の言葉が、床へ転がっていく。
先輩の部屋にはいろんなものが散らばっていた。
教科書、本、バッグ、割れた写真立て……。
台風みたいな怒りが吹き荒れたに違いなかった。
その怒りの矛先にいたのは、きっと、ここにはいない人。
なにがどうしてそうなっちゃったのかは、わたしにはわからないけれど。
「ううん、こっちの方こそごめんなさい」
頭を下げれば、先輩がびっくりしたかのように目を丸くさせていた。
「どうして君が謝るんだい」
「あれは流石に言いすぎでした」
「そんなことないよ。……ワタシは一人がお似合いさ」
「お似合いじゃないですっ!」
言って、わたしは先輩へ近づく。
床に転がったいろんなものを踏み越え、先輩を抱きしめる。
小さく震えていたからだを強く。
今、理解した。
わたしはこの人のことを――。
「好きです、先輩。だから、そんなこと言わないでください」
先輩は信じられないとばかりに何度も瞬きする
「本当に?」
「じゃなければ……ここには来ませんよ」
先輩の顔がコロコロと目まぐるしく変化し、そして、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「本当にするのかい?」
わたしはコクリと頷く。
手にはいい感じの拳銃。ピンク色のぶっそうなキューピットが持ってそうなやつ。
仲直りの印。
これで互いの心臓を撃つというのはどうだろうか。
わたしの趣味と先輩の趣味をミックスした折衷案だ。考え付いた次の瞬間にはいかにもバカップルが考えだしそうなことだったので、赤面してしまったけど。
なにより恥ずかしかったのは、先輩が受け入れちゃったこと。
先輩もいつになくそわそわしている。空へ撃って、落ちてきた弾丸で死ぬ、なんてことをしてた先輩には朝飯前だろうに。
「自分を殺すのは慣れてても、他人を殺すのはやっぱりね。それに――」
「それに?」
「……好きな人を殺すのはためらっちゃうな」
顔を背けながら、先輩が言った。黒髪の間からのぞく真っ赤な耳がかわいらしくて、わたしの胸は高鳴った。
こんな先輩はじめて見た。
「はやくやりましょう」
「なんでそんなにやる気なんだい」
「い、いいじゃないですかっ」
話をそらすべく、わたしは銃を構える。
先輩も銃を構える。
互いが互いのハートへ突きつける。
見つめ合った視線が絡みあう。
射線と射線がぶつかりあう。
わたしたちの間に言葉は必要なかった。
トリガーを引く。
ファンファーレのように、2つ分の銃声が鳴りひびいた。
恋して、デスって 藤原くう @erevestakiba
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