異世界症候群
藤原くう
異世界症候群
最強魔王のパイ包み焼きアントワーヌ風。
今しがた討伐したばかりの新鮮な魔王をつかった料理を、
サクサクのパイ生地を食めば、マンズフィールド家に代々伝わる秘伝のソースと弾力のあるヘビ肉から肉汁がじゅわっとほとばしる。私の渾身の一品。
手を合わせて、神様が食べはじめました。その勢いたるや、いつぞや
「あの」
神様の顔が私を向きます。ほっぺたには赤いソースがついています。何千何万と生きてきた神様とは思えない無邪気さに、心がときめいてしょうがありません。ですけれども、ちょっと聞きたいことがありました。
「これで元の世界へ戻していただけますのよね?」
私はかねてから抱いていた望みを口にしました。
そう。私、勇者とかコックとか言われていますけれども、この世界の住人ではありません。
もとはココよりもシビアである意味過酷な世界に生きてました。
灰色のジャングル、似たような姿をした敵、年々増える税金……。
ええ大変でしたとも。大変すぎて、私、キッチンで首をくくってましたの。
そうしたら、この世界へ転生しておりました。
で、ここにいる神様に、魔王を討伐してほしいと言われたのです。
――今でも思い出すのですけれど、私にはできませんと言ったのです。
そりゃあ、コックでしたし男でしたから力には自信があります。でも、剣なんて振ったことがありません。あるとしたら中華鍋くらい。
しかし、神様はできるとおっしゃられて――本当にできてしまいましたの。
「約束していただけましたよね。『魔王を討伐した
神様が頷きました。
どうやら嘘ではないようで一安心。
ですけど、もうひとつ頼みたいことがあります。
「私はどうなってしまいますの? この姿は? この能力は?」
今の私はどこからどう見ても
しかも、念じるだけで調理道具が出てきちゃう。
フライパン、包丁、まな板に鍋。鍋だって雪平から
調味料だって自由自在。手のひらからコショウのシャワーを降らせることだってできますのよ。
こんなの最高ではありませんか。
元の世界へはそりゃあ戻りたいです。でも、この能力は捨てがたい。どこからともなくコンロが出せて、鉄串でケバブが楽しめるだなんて。
しかも、カワイイとチヤホヤされます。いや、どうでもいいのですけれど、チヤホヤされます。
あっちでもカワイイって言われたいです。
そのような想いをこめ神様を見つめていましたら、あちらも見つめ返してきました。
「いいのですか。このまま? あっちでも?」
小さな頭がこくんと縦に動きます。
続いて小さな手が空を掴んだかと思えば、そこに光が現れました。
長方形の光の膜。虹色に光っていて、なんだか神秘的。
神様の透きとおった瞳がちらりと光を見ました。
「この中に入れば戻れる……と。わかりました」
私は食事を続ける神様に頭を下げ、光の中へと駆けだしました。
目を開けると、そこはベッドの上でした。
まず確認したのは胸でした。そこには柔らかな感触がありました。女です。
男ではなく、女ですの。
続いて、空中に手をかざします。念じるだけで、手のひらの中には銀のフライパンが現れました。
「能力もある――」
体中に喜びが膨れあがって、飛びあがります。その拍子に、からだに刺さっていたらしいケーブルがいくつもブチブチ切れた。
部屋中に鳴りひびくビープ音。駆け寄ってくる看護師たち。彼らはやってくるなり、目をぱちくりさせていたのが面白かったですの。
それも当然ですわね、だって、患者がフライパンを持って踊りくるっていたのですから。
「お名前を教えてください」
目覚めた
「アントワーヌ・マンズフィールドと申しますの。マンズフィールド家の第2子女で――」
「設定はいいですから。本名は?」
「失礼ですわね。設定ではなくれっきとした、お父様から頂いた名前ですのよ」
男性の眉間にしわが寄りました。視線はますます疑り深くなりました。
ため息を漏らし、手元のタブレットに何事かを記入していますの。覗きこもうとしましたけれど、まったく理解できません。
そもそもここは、私が生まれ育った日本なのかしらん。言葉が通じるってことは日本の可能性が高いのでしょうけれど。
「私は誰だと思いますか」
「ヒトですわね。お医者様でしょうか?」
「では、ここの首都は?」
「バカにしてますの――東京」
「目覚める前にいたところを教えてください」
「魔王城ね。倒した魔王を食材に、神様に手料理をふるまったかしら」
お医者様が再びタブレットに入力。
その目が、じいっと私を上から下まで見てきますの。恥ずかしくって、思わず取り出してしまったまな板で体を隠してしまいました。
ちらりと世界樹製まな板の向こうをのぞきますと、お医者様がユルユル首を振っています。
「もしかして、私、不治の病に侵されて、1年もしないうちに石化して――」
「あなたは異世界症候群です」
異世界症候群。
お医者様が言った病名を繰りかえしてみます。なんて不気味な言葉でしょう。体中がかゆくなりそうです。
「それは一体……?」
「異世界からやってきたと錯覚するようになる病気です。山田太郎さん」
「山田太郎? 私はアントワーヌ・マンズフィールド。マンズフィールド家の――」
「それですそれ。自分が貴族の娘だと思いこむのは、異世界症候群の典型的症状なのですよ!」
お医者様が身を乗り出してきたものですから、キャッと悲鳴が出ちゃいました。入り口のカーテンが開いて、看護師が現れます。その目はお医者様を
壁に貼られたポスターには、ドクハラに注意、とありました。
ドクターがコホンと咳払い。
「とにかくだね。君は仮想空間にいる時間が長すぎた。そのせいで、デジタルな現実を日常だと思い込んでしまった」
パステオンを支配する魔王と、それに抗う人々。
冒険と料理の日々が脳裏に浮かんでは消えていきます。
これが仮想だなんて、信じられないです。
「間違いなく現実でしたわよ」
「そうだろうそうだろう。みんなそう言うんだ」
お医者様が生温かい目をして言いました。ツチノコを見つけたとはしゃぐ子どもを眺める父親みたいな顔でした。
信じていませんわね。
いや、別に信じてもらいたいわけではありませんのよ。あのかくも過酷で奇妙でスリリングな冒険を信じてもらえないというのはいささか残念ではあります。
けれど、ドラゴンを素揚げにし、マンドラゴラをサラダにし、魔王をパイに包む――味わった至高の食材たちを、私の舌は確かに覚えていますもの。
……いや、やっぱり腹立ちますわね。
私は空中から中華包丁とお玉を取り出して、お医者様の喉元に突きつけます。
「どうです? 貴方の喉仏をカエルみたいに捌いてご覧に入れましてよ?」
「暴力反対」
すうっと、お医者様の両手が上がってホールドアップ。
私は満足いたしました。この能力が存在する限り、私を、あの世界をバカにすることは決して許しません。それに、この退屈な世界に、似たような能力があるわけがございません。
つまり、あの世界は確かに――。
不意に、お医者様の手が光を放ち、L字型の機械の
「嘘……」
「余剰次元のちょっとした応用でね。襲いかかってくる患者を沈める注射器もほらこの通り」
注射器とやらが光の中へと消えていき、代わりに現れたのはホカホカのカップ。湯気とともにコーヒーの香りが
「朝淹れたコーヒーだが、どうだい」
「……結構です」
「そうかい。時間とは隔絶しているから、酸化はしてないよ」
私は首を振ります。お医者様が淹れたコーヒーが飲めないわけではありません。
能力のことだって知っています。あの中に入れた食材は、いつまで経っても腐りません。包丁だって錆びないのです。いつまでもピカピカのまま。
だとすると、私の能力と、お医者様の能力は同じということになります。
「私は転生者じゃないよ。貴方がいたというパステオンという国出身でもない」
「なぜ国の名前をご存じなのでしょうか」
「貴方が体験していた仮想世界の情報を見させてもらいました」
お医者様がタブレットを操作する。
空中に写真が浮かびあがりました。神様のような所業に、私、はしたないことにあんぐりとしてしまいました。それはもう、ツバメがいたら巣をかけそうなほど大きく。
その写真は動いていました。緑豊かな景色そのものを平面に閉じ込めたみたいに。
「これってパステオンじゃなくて……?」
「貴方だけにつくられた仮想世界の映像です」
「世界をつくっただなんて神様みたいなことをおっしゃられるのね」
その言葉には、ハリセンボンばりのトゲをこめたつもりだったのですけれど、お医者様はにこりと笑いました。
「オーダーメイドですよ。貴方の場合、料理好きの令嬢に転生して魔王討伐――というものだったようですね」
映像に、私が現れました。
スライムをフライパンで叩きのめし、原形がわからないくらい煮込む私。
ダークエルフとしのぎを削った料理コンテスト。
ドラゴンのお排泄物――黄金でなかなか砕けない――で飲み物をつくれと言われた頭をかきむしる私。
いろいろな私がそこにはいました。
いや、実に綺麗で可憐で美しいですわね。どの角度で見ても隙がない。
「綺麗ですわね……」
思わず口に出ちゃいました。
お医者様が
「貴方の願望を形にしていますので当然と言えば当然です」
「貴方貴方って先ほどから思っていましたけれど、
「性転換したとはいえ、生物学的にはオスですから」
「……時代遅れですこと」
私がそう言っても、お医者様は特に気にしていないようです。まるで、似たような視線はこれまで何度も受けたと言わんばかりです。
とはいえ、性転換など妙ちくりんなことはした覚えがありません。私のこの体は、神様のミスであり不手際。そのおかげで、どこからともなく調理道具を取り出せるコックのスキルを頂戴したのです。
私たちは顔を見合わせてため息をつきました。互いが互いを納得させられませんでした。まったくの平行線でした。
「どうやったら信用してもらえますか。私がTSマシンにでも入ってくれたら信じてくれますか」
「なんですのそれ」
「女に改造してもらえる機械です」
「貴方が? 女に?」
失礼ながら、私はお医者様のことをとっくりと眺めます。頭頂部の輝く小太りなおじさまです。いくら命を救うお仕事をなさっているとはいえ、カッコいいとは程遠い。
神様であっても、女に変えられるかどうか……。
「……失礼なことを考えていませんか」
「そのようなこと、
そうですか、とお医者様はまな板のような声を発しました。
何かをタブレットに書き殴り、それから私に向き直りました。
「入院です」
「こんなに元気ですのに?」
「入院といったら入院です。この病気は健康な方が厄介で――」
私は生命の危機を感じました。この方たちは、私の能力を危険視し、病院という名の監獄に閉じ込めておくつもりなのでしょう。
そうと決まれば、やることは1つです。
玉ねぎとレモンをマリネした汁を無からお医者様へぶちまけます。「目がぁ目がっ」ともんどりうってる彼を尻目に私は診察室を飛び出しました。
その時ですの。がっしと何者かに首根っこを掴まれたかと思うと、首筋に鋭い痛み。
眠りの神様に見つめられたような、強烈な眠気。
最後に見えたのは、鬼のような形相の白衣の天使でした。
目覚めるとそこは病室でした。けれど、最初のものと違って窓がありません。部屋に角という角がスポンジみたいなやわらかいもので埋められていました。
そんな白い部屋には、ベッドが1つ。
体を起こしますと、真っ白な病衣を着ているのが目に入りました。それ以外には、改造人間にされているとか、そういうこともなさそうです。
それにしても、いつの間にここまで運ばれてきたのかしら、と記憶の糸をたどってみます。
……頭が痛い。
ゴリラみたいな白衣の天使に何かされたみたいです。きっと、麻酔薬でも打たれたのでしょう。
「私は動物じゃありませんのに……」
抗議の1つでもしたくなってきて、空中からフライパンとお玉を取り出し、カンカン音を鳴らします。
光源もないのに不思議と明るい部屋の中に、こだまする金属音。いつだったか料理をふるまったドワーフのごとく、踊りくるうことにも飽きてきて、私は叩くのを止めました。
と、その時、部屋の一部に切れ込みが入りまして、プーッと音がします。続いて、横に開いていきます。
どうやら、巧妙に扉が隠されていたようです。どうして開いたのかはわかりませんけれども、これを逃す手はありません。
ひょいと部屋の外へ。もちろん、右手にフライパンを構えて。
誰かがやってくるのが見えました。私は一度部屋へ隠れ、その誰かさんがやって来るのをじっと待ちます。
目の前へやってきたところで、フライパンを思いっきりスイング。
カーン、と小気味いい音がして、誰かさんが倒れます。
その誰かさんは怪物でもなければ、憎きお医者様でもありません。
私と同じように病衣を着た男性でした。
「本当に申し訳ありませんの」
謝罪とともに
目の前には、先ほどフルスイングしてしまった男性。その頭は包帯でグルグル巻きになっています。
「気にしなくていい。これくらいの傷、昔と比べたらなんてことない」
手を振りながら彼はそう言ってくれますけれど、ぷっくり膨れたタンコブが痛々しいです。気にしないで言われたって、気になります。
「本当なら、タンコブくらい私が治して差し上げますのに」
「医者なのか」
「あんな下劣な方と一緒にしないでください。私は、アントワーヌ――コックですの」
フライパンと純白の帽子を取り出して、見栄を切ります。
パチパチと男性が手を叩きます。それから首を捻りました。
「俺はデュクスだ。コックがどうやってタンコブを……?」
「私が作った料理を食べれば元気になりますの。具体的にはHPが回復いたしますわ」
などと私は料理を説明するように言ってしまいましたけれど、まずかったかもしれません。HPなんて、ステータスが見える方にしか通じませんの。頭おかしいやつだと思われてしまいかねませんの。
私は、恐る恐るデュクス様の様子を窺います。
そこには疑いも
「なるほど……貴女もそうなのか」
「貴女も、ということは貴方も転生を」
デュクス様が重々しく頷きました。
なんて奇遇なのでしょう。この監獄のような病院で、転生者に出会うなんて。
アイツらが言っていたことは、まったくの嘘だった。
私たちは、正真正銘、あの世界に生きていて、この世界へ戻ってきた。
きっと私は淑女にあるまじきはしゃぎようだったに違いありません。大量の食材が今この場にあったのならば、満漢全席を、フルコースをふるまったことでしょう。仮に私たちのほかに看護ロボしかおらずとも。
「デュクス様も力を?」
「指揮することでステータスを向上させられる。もっとも、転生者は信じられないってんで、ゴミ扱いだったが。ここだとさらに悪い」
「わかりますわっ。妄想扱いですもの」
「アイツらは全部機械がやってることだって言ってたが、そんなわけがない。食べただけで治療ができるわけがないし、機械でステータスが向上するか?」
私はデュクス様と固い握手を交わします。
違う世界にいたにせよ、私たちは異世界転生者、仲間みたいなものです。
「あの人たちが何を考えてるか知りませんけれど、ここから出ませんと」
「その前に仲間を探してみましょう」
「この建物のことも知りませんといけませんしね」
建物の中にはいくつかの扉があり、入れるものと入れないものがありました。入れる部屋はほとんどが病室です。ほかには遊戯室やトイレ、食堂といったところ。
そのほかにも扉はあるのですけれども、ナイフで傷が入らないほどに頑丈で、しかも鍵穴さえありませんでしたからどうしようもありません。
遊戯室には窓がありましたけれど、押せども切れども刺せども傷1つつきませんでした。
人はたくさんいました。
そのだれもが、自らを転生者と名乗っています。
異世界症候群と宣告されたとも。
「ここはそういう人間を集めたところのようですわね」
「アイツら、俺らをどうするつもりなんだ?」
考えても見ましたけれど、よくわかりません。
もしかしたら、魔王のように、目障りなニンゲンを排除しているのかも。であるならばなおのこと、ここから逃げださなくては。
そのために、
ありとあらゆる存在にモテる能力あり、ワープできる能力あり、なんでも取り出せる能力あり……。
後ろ二つがあればこんな建物、簡単に脱出できそうでしたけれども、そう簡単でもありません。
ワープ能力は建物の外へは使えませんでしたし、なんでも取り出せる能力――私の上位互換では?――は建物を破壊できるようなものは取り出せません。モテる方は変わらずモテモテでしたけれども、機械には無視されていました。
理由は皆目わかりません。何かしら、大いなる力が働いているように思えてなりません。
神様が私たちの妨害をしている、とか。
「どうやったら脱出できるでしょうか……」
「アイツなんかどうだ?」
デュクス様が指す先には、一人で本を読む小柄な少女。とんがり帽子を目深にかぶったその子は、私よりも幼げでどことなくリスのような印象があります。
近づいてくる私たちに気が付いて、プルプルふるえているところなんか。
「な、なんですか。いじめるつもりですかっ」
「そうじゃなくてよ。貴女の能力がききたいの」
「どどどっどうするつもりですかぁ。もしかして能力を使えるだけ使って捨てるつもりなんだボロ雑巾みたいに」
みたいに、と繰りかえしながら、彼女は私とデュクス様を交互に見てきます。
すごい怖がりで疑り深い方のようですの。安心させようと手を乗せようとしただけで、看護ロボが駆けてくるほどの悲鳴を上げました。
「落ち着きなさい。私たちは聞きたいことがあるだけなの」
「聞かれたって魔法のことは絶対話しませんからぁ!」
魔法?
そう言われてみると、この子ったらどことなく魔法使いみたいな恰好をしているような……。
「貴女、魔法が使えますの?」
「ぎくっ」
「そんなに怯えなくてもいいじゃない。魔法なら、私見たことがありますのよ」
ダークエルフとのお料理対決が目に浮かびます。エルフたちの彼に対する数々の妨害……食材は腐り、道具は壊れ、火はなかなかつかない。どれもこれも魔法のしわざでした。
あまりに腹が立ったものですから、魔法のコーティングがなされたフライパンで妨害してきたやつらを殴ったほど。
とにかく魔法はありますし、信じます。
「ほ、本当に?」
「ええ。私には才能は有りませんでしたけれどね。貴女は才能がありそうね?」
「リーベラまだまだ全然で」
リーベラと口にした少女がブンブン両手を振るたび、頭の帽子が右に左に揺れました。
「ちょっと見せていただきたいの。もしかしたら、ここでは使えないかもしれないから」
「そうなんですっ!」
リーベラちゃんが大きな声を上げて身を乗り出します。
その大きな目は、盃に映りこむ月のように揺れていました。
「なんでかここじゃリーベラ、魔法が使えなくて……使い魔もあんな感じだし」
少女が指さす先には、地面でビクンビクンと跳ねるむさくるしい男。
……見なかったことにいたしましょう。
「お姉さんたちもなんですか?」
「残念なことにね。こちらのデュクス様も能力が使えなくなったみたいで」
「どうにかしてここを出ようかと思っていてね。君の魔法ならもしかしたら、と思ったのだが……」
「お役に立てずすみません……毒を飲んで死にます……」
「ダメだからね? というかどこから毒を仕入れてくる気なのよ」
ここは徹底的に安全につくられている。怪我しないようになっているし、料理だって、紙でできたへにょへにょスプーンで食べなくちゃならないし。
いや――ありかも。
「リーベラちゃん!」
「ひゃっぷ」
私、思わずリーベラちゃんに抱きついてしまいましたの。その冷たくて薄っぺらい体は、ちゃんと栄養がとれているのかちょっと心配になりましたけれども、それもこれも脱出してからの話ですわね。
「1つだけ、手がありますわよ!」
私の言葉に、デュクス様とリーベラちゃんがこっちを見ました。
「一応聞いておきますけれど、どうやって転生しましたの?」
「44連勤による過労だ」
「えっと、手首をちょっと……?」
「そして
「それは話を聞いて回ってぼんやりとは気が付いていたが、ここでどのように?」
「その方法については、ここにいるリーベラちゃんが妙案を出してくれました」
「り、リーベラは何もしてないよっ」
「毒を飲みたいって言ったじゃない。毒を飲めばいいのよ」
「ですが毒はどこに?」
私は能力を用いて調味料を取り出す。
緑色のチューブ。
「ワサビではありませんか」
「これだけじゃないわ。カラシ、唐辛子、ハバネロ、ジョロキアにニンニクも追加で」
それらすべてを出現させて、つにする。
ヒトを燃やし尽くすためだけに生まれたような調味料が手のひらに爆誕した。
「それぞれを1スタック分集めたから、多少は苦しむかもしれないけれど、効果はピカイチよ」
「それで死ねなかったら?」
「あら、私の能力を疑っているのかしら?」
「……わ、わかりました」
私は、劇薬と化した激辛調味料詰め合わせを3つ作って、2人に差しだします。
乾杯のようにチューブをぶつけ合い、一息に食べました。
舌が焼け、喉が融けおちて、胃が壊れる。トイレへと駆け込み、滝のような汗を流し、心臓が速くなったり遅くなったりを繰り返し、フッと視界が真っ暗になりました。
そうして、3人は異世界にたどり着く。
彼らは幸せだった。
異世界症候群 藤原くう @erevestakiba
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