第7話


あの日から、連絡は毎日取り合った。


通知が来ていないか、スマホを手に取ってしまうことが増えたが、

メッセージのやりとりは嬉しい。


けれど、それは同時に、私の胸を締め付けた。


電車が同じになることもなく、

休みも合わない。


ただ、ただ、想いを募らせる日々が続く。


「会いたいな」


書いたメッセージに、気持ちをのせる。

彼がいない日常は、とても長く感じた。




そんな、ある日。


「暫く忙しくなる」


彼から、そう連絡があった。


それでも私は、

「会いたいな」と、また気持ちをのせて返事をした。


既読がついた私の気持ちは、

何日もそのまま、時を止めていた。


気持ちを押し込め、手を握る。

毎日、「頑張って」と玄関を出る度に、声をかけた。


私と、彼に。




それなのに。


彼は海外へ飛び立った。

どんどん離れていく距離。


偶然、同じ飛行機に乗ってしまいたい。

一人で可笑しくなって、涙を零した。


彼を応援したくて、局のアプリを教えた。

毎日、私の声を聞いて、頑張ってね。


……違うよ。


私が、頑張れるんだ。




いつもの時間。

いつものタイミング。


彼に届いてほしくて。

声をあげた。


はっきりと。 


『リスナーの皆さん、今晩は。

 宮下佳菜子です』


聴こえたかな。私の声。

褒めてくれたよね。





彼女が、頭の中で書いていた小説は、


彼女の、物語(ラブストーリー)。


――『綺麗な声だな』


あの時から。ずっと。


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声から始まる恋愛小説 第2部〜頭の中の小説 茄子と塩 @NAS_SHIO

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