配信者俺vs美少女VTuber幼馴染――コメ『付き合ってんの?』俺「なわけねええだろおお」
ゆりきんとん
第1話配信者俺 vs 美少女Vtuber幼馴染
「おつおつ! 今日は“次やるゲーム決める枠”やってくわ!!」
カメラに向かって雑に手を振る。雑でいい。配信は勢いだ。俺、織本一笑(おりもと いっしょう)。高二。
中二の時に「なんか配信やってみっか」で始めて、気づけば四年。人生どこで狂うか分からん。
今日の同接、1,205人。
……よし。
……よし?
いや、よくねえ!
悪くはない。だけど、俺のカラカラに乾いた承認欲求は、こんな数字じゃ満たされない。
それでも、俺のコメント欄は今日も絶好調だ。
『ホラゲやれ、ゴミ』
『イナイレ新作やってください。イナイレ新作やってください。イナイレ新作やってください。』
『今日も部屋汚ねえな』
「おまえらもどうせ汚部屋だろ!! てかホラゲは先週やったよな?」
コメント欄との「殴り合い」それこそ配信の肝と言ってもいい。面白いコメントを掬い上げ、俺が刺す。
『初見です、コメ失礼します』
「お、初見さんこんちは。ゴミ溜めにようこそ」
ここはTwitch。俺のステージ。
他の大手配信者よりも(少しだけ)コメントは汚い自信がある。でも嫌いじゃない。
むしろ最近、このカオスがないと落ち着かない。配信なんて汚くてなんぼだろ。
「ほら、これとか面白そうじゃね?」
有名どころのFPSを映してやる。
こいつらはこれが好きだ。
『は?』
『はい解散w』
『義務ぺクス乙』
ほらな。俺が沸かす、俺の舞台。
なら、お見舞いしてやる。必殺の一撃。
「冗談ですやん」
フッ。決まったぜ。
『w』『うおww』『きっつw』
……まあでも、全肯定される配信に憧れがないわけでもない。
「ほら、じゃあおまえら次やるゲームの候補出してみろ」
『このホラゲ飛ぶぞ htttps://xx……』
『このエロゲおすすめ htttps://ero……』
『イナイレ新作やってください(以下略)』
「ホラゲ却下! エロゲは規約で俺が死ぬ! 何回言わせんだよマジで」
……なんて言い合ってた、その時だ。
妙に丁寧なコメントが流れた。
『一笑さん、これおすすめです。まだ大手が触ってなくて、今なら起源主張できます htttps://you……』
「お?」
IDを見る。三ヶ月前からいる常連。
バンした経歴はなさそう。
……なら大丈夫か?
それに。
「起源主張、か。アリだな」
俺はその単語に弱い。めちゃくちゃ弱い。
だってかっこよくね?
もし俺が発掘したゲームがブームになれば、一躍スターだ。目の前に美味そうなニンジンがぶら下がってる。それに食いつかずして何が配信者だ。
それが俺、一笑の配信美学。
さあ、Let's クリック!
『うっわー!できてるできてる!ぷるっぷる!みんな見て~ ナノの手作りプリン♡♡♡♡』
は?
画面が切り替わって、何故かYouTube。
そこに映ったのは、馬鹿でかいプリン。
青いビニール手袋越しの両手に抱えられた、黄色いプルプル。画面右下には、宇宙服を着た美少女アバターが左右に揺れて笑ってる。
「……おい」
俺のコメント欄をチラッ。
『ナノトラップきたぁぁぁぁ』
『おまえナノ好きすぎだろwww』
『うおwww』
「おい、おまえらさっきの雑談より元気じゃねえか!!!」
こいつが出ると、うちの視聴者は雑に湧く。
俺の配信が俺の手を離れていくみたいで、少しムカつく。
『美味しそうじゃない? ナノプリン!』
このVTuberは、宙町ナノ。
設定は「NANO星から来た寂しがり屋の女の子」らしい。よく知らん。ガワと声は、まあ可愛い。
で、登録者は……約、二八万か。
また増えてんじゃん、、、
まあ、問題は同接だ。……同接。
さあ、見せてみろ。
おまえの同接の全てを……
18,292。
「……は?」
え、プリンで?
プリンで一万八千?
俺が殴り合って稼いでる千二百人が、プリンに負けた……だと?
「クソォォ!!!!!」
マウスを握る右手に思わず力が入る。
悔しい。悔しいが、理由がまた腹立つ。
俺がここまで伸びたのも、結局こいつと一回コラボしたのがきっかけだ。
感謝はしてる。めちゃくちゃしてる。
でも感謝と嫉妬は両立するだろ?なあ?
『織本監視中www』
ナノの配信が少しだけ荒れ始めた。
「……チッ」
『帰れ織本w』
『ナノちゃんの枠を汚すな』
『@mod 荒らし注意』
でもナノ本人は一切触れない。
にこにこしながら淡々と仕上げていく。
『じゃあ最後にクリームかけて~~。はい!完成!どうどう?みんなも食べたくない?』
『ナノちゃんの料理ならなんでも食べたい』
『でかいプリンで草、ほんとに一人で食べるの?』
『指きれいすぎ』
「指きれいすぎって何だよ! こいつ手袋してんじゃねえかよ!!!」
ナノは完成品を寄せて、満足そうにぷるぷる揺らして見せた。
『じゃ、今日はこれでおしまーい。……えっと』
っく、くる。
いつもの挨拶が、来る。
コメント欄がざわつく。
『乙ナノン』
『おつナノン~』
「オツナノン」――これがナノの締め。
……のはずだった。
最近までは。
『——おまえら、悪夢みんなよ~。バイバイ』
「……」
「……は?」
「……おい!!!!!!!!」
それ、俺の締めだ。
俺の台詞だ。俺の文化だ。
俺のアイデンティティだ。
「それは俺のものだ!!!!!」
俺は呆然としたまま自分のTwitchに戻った。
『www』
『今のどっかで聞いたことあるな』
『一笑さん、匂わせっすか?』
「ちげえからマジで!!! あれは俺が先!!! 俺が先に言ってた!!! おまえらも知ってんだろ!!!」
――その時。
ピンポーン。
インターフォンが鳴った。
「は?」
いや、まさか。
まさか、な。
『今のインターホン?』
『誰!?彼女!?』
『おい、終わるなら“いつもの”やれよ』
『織本、やるんだな? 今ここで!』
「クソ、こいつら……」
でもここでやらないと、また「意識してる」って言われる。ここの視聴者はそういうやつらの群れ。最高にバカな奴らの集まり。
だがそれでいい。
おまえたちはそうでなくちゃな。
俺は息を吸って――
「……おまえら、悪夢みんなよ」
『wwwwwwwwwwwwwwww』
『うわ、ナノのやつw』
「だからちげえっつーーーの!!!」
『やっぱ付き合ってるだろ?』
「なわけねええだろおおおおおお!!!!!」
ブツッ。
配信終了。
……静寂。
ピンポーン。
もう一度、インターフォン。
「……だれだよ」
舌打ちして玄関へ向かい、扉を開けると――
そこにいたのは背の低い女。帽子とマスク。
ニッコニコの丸い目。
その手には――馬鹿でかいプリン。
「ハローいっちゃん! 差し入れ持ってきたよーん♪」
「だれですか? 俺は今大事な用がありまして……」
「はぁ。ひどいなぁ。いっちゃんが私の配信来てくれたの知ってるんだよ~ コメント盛り上がってたよね~?」
「……しりませんね、プリン片手に急に人の家に訪ねてくるような不審者なんて」
その女が一歩内側へ、俺の家の玄関に当然のように入ってきた。そして、帽子とマスクを平然ととる。
――現れたのは、やたら顔が整った女。
アバターとは対照的な、青紫のインナーカラーのショートヘア。ニヤニヤ笑う口元から、八重歯が見え隠れして、それがまたちょっと可愛い。
「あれ~もしかして悪夢でも見ちゃったかなぁ?」
「――っそのいじりは反則だろ!!」
「冗談ですやーん」
「うおw それリアルでいうやついたんだ、きっしょ」
「いっちゃんもね。『うお』なんてリアルで言わない方が良いよ〜? 私だから普通に聞き流してるけど、それ別の人にやったら十分引かれるよ」
この態度のデカい女、コイツの名前は、
舞薗 華菜乃(まいぞの かなの)。
「で、あなた誰ですか? プリン専門のウーバーイーツの方ですか?」
そんで、その正体は――
「忘れたの? こんなに可愛い幼馴染のこと」
「はぁ」
そう、こいつは俺の幼馴染。
「おまえさ、そのプリンってまさか」
「そ、さっき配信で作ったやつ」
そして、さっきのVtuber、宙町ナノの中身。
「同接一万八千のプリンね……」
「いっちゃんには一生無理だね」
「この野郎……」
……そして、俺が一番越えたい配信者。
「一笑だけに一生無理って? ねぇこれウケない?配信で使いなよ」
「……そう言ってられるのも今のうちだぞ」
「え?」
「いつかお前を越えてやる、この俺がな」
これは俺、底辺配信者。織本一笑が、トップVtuber、舞園華菜乃を倒すまでの物語だ。
配信者俺vs美少女VTuber幼馴染――コメ『付き合ってんの?』俺「なわけねええだろおお」 ゆりきんとん @yurikinton
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