【掌編作品】彼は私の王子様

下田 空斗🌤

お食事デート

 職場の昼休み、私はスマホのメッセージ履歴を眺めていた。


【金曜の夕方、二人でどこか食事に出掛けようか】

〖うん! 嬉しい!!〗


 たったそれだけの短いやり取り。けれど私は何度も何度も目に焼き付けるように読み返し、その都度口元を緩めていた。


 ——ああ、久しぶりに二人きりのデート! 思い切り堪能しなくっちゃ!


 彼は近頃、どんどん私への気配りが上手くなってきている。付き合いが長いとマンネリ化してくる、なんてよく言うが、私たちの場合はむしろ逆。日を追うごとに彼の取り柄は増えていっている。


 今日が待ちに待った約束の金曜日。浮き足立ち、心ここに在らずなせいで、午前の業務にミスが無かったか少し不安ではある。


 ——このままじゃ仕事が手に付かなくなりそうだし、いっそ半休もらって早上がりしちゃおうっと!


 独り合点し、私は上司に申請することにした。


 急いで帰って、何を着ていくか考えなくっちゃ!


   ◇ ◇ ◇


 ブレーキ音を鳴らし、車が門のそばに停まる。


 ——うん、時間通りね!


 近くを通り過ぎる子たちが「すごい車!」「カッコいい!」と口々に褒めていて、それを聞いた私も少し誇らしくなる。


 やがて、彼が私を見つけ、手を振りながら駆け寄ってきた。


「待たせてごめんね!」

「ううん、今来たところだから大丈夫よ!」


 本当はほんの少し待ったけど、些細なことよ。


「その服、気合い入ってるね」

「あ、わかる? ちょっと派手かな?」

「ううん、似合ってるよ」


 なんだか言わせちゃった気もするけど、褒めてもらえて良かった!


 やや離れたところで、女の子たちが私と彼の方を見て何か話している様子。残念だけど、今日の彼は私だけのものだからね!


「じゃ、そろそろ行こっか。何食べたい?」

「うーん、そうだなぁ……」


 そう言って、口に指を当てて考え込む。


 しかしすぐ、パッと明るい顔に変わった。


「回転寿司がいいっ!」


 元気良く答えると、彼は助手席のドアを開いた。


「オッケー! パパには内緒で、たくさん食べちゃおっか!」

「やったー! 僕、サーモン食べたーい!」


 笑顔溢れる横顔に今日も癒されながら、私はハンドルを握った。

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【掌編作品】彼は私の王子様 下田 空斗🌤 @Ku_Mo99

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