殺人犯Aの思い
流山忠勝
独房にて
俺は兄を殺した殺人犯だ。今は独房にいる。
記憶にはほとんど残っていないが、俺は裁判を受け、ここに閉じ込められることとなったのだろう。
日が差す窓はあるが、ここには、スマホがなく、パソコンもないため、外との連絡は不可能だ。
ある程度生きられるように整われてはいるが、俺からすれば、ここは地獄と言ってもいい。
体は、まともには洗えないし、ここにはタバコもない。
たまに食料を入れられるが、不味くて食えたものではない。
そんな地獄に、私は閉じ込められている。
入れられている理由は、分かる。俺は最低な人間でもあるからだ。
何故なら兄から金を借りていた、頼りっぱなしで嫉妬に塗れた、クズだったからだ。
兄は俺にいつも金を出していたが、内心は俺のことをバカにしていたのだろう。
働かない俺を、いつも罵り、嘲笑っていたのだ。
そうだ。
日常的に不自然に笑っていたし、監視でもしているかのように、執拗に俺に連絡を求めてくるような奴だった。
兄には仕事があるが、俺にはなかった。
兄はしつこく私に構ってきた。
口うるさく、私をこっぴどく何度も笑いながら叱った。
食事の時も、寝る直前も、風呂前も。
私は鬱陶しくて仕方がなかったはずだ。
だからだ。だから殺したのだ。
俺がこの手で!
いつの間にか時が経ってしまうほどに!
兄は床に倒れて死んでいた!
俺が首を絞めたのか、朝食に毒を盛ったのかで殺したのだ!
夢中でやったから覚えてはいない。
だが、こうして捕われているということは、俺はたしかに兄を殺したのだ!
ああ!俺は殺人犯になったのだ!
実の兄貴を俺は殺したのだ!
いつかこの独房から出たとき、俺はきっと自由を手にし、旅立つのだろう!
そしたら、二人で飲むワインを高らかに飲むのだ。
~
響く奇声。
「…大野先生。あの病室の方って」
「あの患者さんか…精神に異常があったそうでね。少々特殊な病室に入れてあるんだ」
「異常ですか…」
「ああ。なんでも、心臓発作で突然死んでしまったお兄さんを殺したのは、自分だと思い込んでいるようでね。同居中だったそうだし、仲はかなり良かったらしいんだけど…」
「…自分のせいで死んだと思わないと。受け入れ難いんだろうね。今も、思いを描いているんだよ」
殺人犯Aの思い 流山忠勝 @015077
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