不思議の国のアリス症候群
「なぁ、子供の頃の記憶ってあるか?俺はない」
「僕もあまり覚えてないね」
「だろ?でも、たまに不意に思い出すんだよな」
知らねぇ世界にワープした時のことを。
「……はぁ?」
学食の広く、大衆食堂のメニューが並ぶ方で昼飯の(ゲロの匂いがすると専ら噂の)甘酢味餡掛け(単品)を頬張りながら
「んだよ
「だってそれお前、前にその話した時『あれは不思議の国のアリス症候群だったんだ〜』とかなんとか言ってなかったか?とうとう難しい言葉使いたいシンドローム卒業できたのか。よかったでちゅねぇ」
「あ゙?ナメてんとテメェの飯今後全部平べったくすんぞその握り飯みてぇに」
「これは今日袋代ケチっただけで偶然だから落ち着けって、んで?」
どうどうと諌めると少し恥ずかしそうにしながら、三田が一度箸を置いて真剣な面持ちで話し始める。
「不思議の国のアリス症候群が」
「ほらお前!まだ治ってねぇじゃねぇか!」
「うるせぇ!いいだろ別に長い名前使ってもよ!」
「わかった、反射で脊髄した僕が悪かったから続きを話してくれ」
「ンン゙ッ……じゃあ話すぞ、」
そう言って三田が話し始めた内容はにわかには信じがたいものだった。
「実はな…………長ぇから略すけどアリス症候群ってのは、全部『
「……はぁ?」
本日2回目、声量は最大の呆れ声が口から出る。
「分かるぜその気持ち……俺もつい最近再現した時には言葉が出なかった」
「えっそれ再現していいものなんだ?!」
「いやツッコミどころ違うだろ」
それはそうなんだが……と独りごちながら潰れたツナマヨ巻きを頬張る。だって確か、アリス症候群って確か――――
「……お前いくつだっけ」
「お前と同じだよバカがよ」
三田の口は軽やかだが目は真っ直ぐこっちを見つめている。
「んで?あれって頭痛とかの副作用だろ」
「正確には夢没界が干渉してくると頭痛が起きたり調子を崩したりする。まぁ鶏が先か卵が先かみたいな話になるから省くぞ」
「僕は再現性について聞きたいんだが」
僕はツナマヨ巻きの最後の一口を頬張る。
「まぁ、OD時に擬似的にな。もちろん医者の先生には怒られたよ。私が処方してんのは治す為であって容態を悪くするためではない〜ってな。まぁ偶然に遭遇できる天然物とは持続時間も認識範囲も大分違う」
若干バツの悪そうな顔をして三田が頭を掻いた。
「でもまぁ、収穫はあったぜ」
いいか、見てみろと人差し指を出されたので僕はその先端を見つめる。すると────
「
声と同時か一拍置いて蝋燭程の大きさの炎が灯る。
「…………ッ!」
僕は、声すら出なかった。
いや、出さなかったと言うべきか……
だって大分面白くないか?
メンがヘラってODした友人が退院後第一声 「良いもん見つけたから教えてやる」 って見せてくれたのが『独自の世界観と火を使った手品』だぞ?僕じゃなかったらもう1回入院させる。
それらをなんとか収める、収め、お……
「ばひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」
「人の渾身の暴露を笑うな!!!!!」
「ふふっ……ヤン○ミ乙」
「いや真似してねぇよ」
あーおもろ、とひとしきり笑ったあと試しに聞いてみる。
「どっからどこまでが錯乱中に思いついたネタだ?」
「だからネタじゃねぇって、証拠にお前も使えるように教えてやるよ」
「へぇ、どうやるんだ」
僕が挑発すると、三田が俺の背中側から両手首に手を這わせて握ってきた。
「……僕そっちのケはないんだけどなぁ」
「いいから黙っとけ。いいか、
耳がこそばゆい。握られる手首がひんやりとしている。眉根を顰めて瞼を固く閉じると三田の手がじわりと熱を帯びてきた。
「1つは身体と周囲の境を意図的に曖昧にし、夢没界とのアクセスを容易にする。下世話な例え方をすると催眠音声に没入する時のアレだ」
……例え方がキモい。だがこいつの例えは的を得てる。だんだん手首から腕、肩、背もたれに当たっているはずの肉体、伝って足までもがふわふわと歪みながら解けていく感じを味わう。
「2つ目は媒介者が普通の奴の肉体を夢没界と繋げる方法だ。多分こっちは成功率が……………」
─────あれ?
こえが、ないぞうが、ひふが、
あいまいにとけてゆるんでひろがってぜんぶがじぶんにじぶんがぜんぶにまるまってちぢんでゆらいでふるえてまじってわかたれていたくてにぶくてにじんでそまってさわいでしずまってそれでそしてそれから───────────
「今だ」
「─────
瞬間、四肢をゾワゾワゾワゾワと空気が這い上がり体内を循環した感覚と共に正面へ放出されるのが、手のひらからわかった。
Alima-夢想断片集- 烏賊卒 @sin_dragon2
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