第10話 私がモデルですかっ!?【ざまぁ】

「ぷ、ぷろ……?」


 なにそれ美味しいの? 私はミナの勢いに圧倒された。


 だけど、二人の中ではうんの呼吸があるらしく、キョウヤさんは肘をついて考え込む。


 手に持っていた小瓶のジェルと私を、交互に五回くらい往復して見ていた。その目は、さっきまでの「カビを見る目」じゃない。宝くじの当選番号を照らし合わせるような、必死すぎる眼力。


「……君。その髪、自分で切ったのか?」


「ひ、ひぇっ!? あ、はい、そうですけど……。手持ちのシザーでジョキジョキっと……」


 キョウヤさんは私の髪を一房すくい上げると、指先で感触を確かめるように滑らせた。


「……なるほど。素材はいい。技術もある。だが、化粧品が〝旧世代の遺物〟というわけか」


 キョウヤさんの口元が、ニヤリとした。



 ♢ ♢ ♢



 次の日。


「……まず、その『前時代的なファンデ』をすべて剥ぎ取る。話はそれからだ」


 なぜか、どういうわけか、


 モブ女の私がモデルをやることになってしまった!!


 ヨレヨレの激安服が、グッ〇やディ〇ールと並んでいる場違い感。もしや、キョウヤさんは「モブ専」なのだろうか?




 キョウヤさんの手が、私の肌に触れる。冷たい。けど、そこから伝わってくる「プロ」の圧がヤバい。




 まずは洗顔。


 見たことのない高級ブランドのクレンジングクリーム。ママに見せたら、こんな高級なもの買って!とはつてんが落ちるレベルだ。


 洗われている最中、私の肌から「今までごめん、今日から本気出すわ」という細胞の声が聞こえた気がした。



 次に保湿。


 いい匂いのする謎液体を塗り込まれる。「君の肌は、水分を失いすぎてゴビ砂漠だ」とか言われながら、丁寧に施術される。



 保湿が終わったらメイク。


 ベースメイクから始まって、コンシーラー、ファンデーション、ハイライト。ミリ単位の精度で施された。





「……よし。目を開けていいぞ」


 恐る恐る鏡を見た私は、言葉を失った。


「……は? 誰、この美少女」


 そこにいたのは、クマのひどい引きこもりJKじゃない。 透き通るような白肌に、吸い込まれそうな瞳。


 ミナが隣でピョンピョン跳ねる。「やばっ! わたしの目に狂いはなかった! さすがアカネ!」


「これが、君の本来のスペックだ。自信を持て」

「ありがとうございます……!」


「……なぜ礼を言う?」

「へっ?」

「これからが本番だろう」


 えっ、まだ続くの!?





 連れて行かれたのは、この辺りで一番大きなショッピングモール。ジャージが制服の私にとって、ここはラスボスが住む「空中庭園」みたいな場所だ。


 周囲の視線が痛い。


「見て、あのカップル……美男美女すぎてヤバい」 「あの子、モデル? それともアイドル?」「でもジャージだよ?」


「ちょ、キョウヤさん。私、こういう場所、HPがドレインされるんですけど!」


「君は僕にとって大切な存在だ(仕事上)。黙って僕の隣にいろ」


 キョウヤさんは私の腰に、ごく自然に手を回した。


「っ……!!」


 心臓、バックバク。


 何この漫画みたいな展開! キョウヤさんの手の温かさが伝わってきて(ジャージ越しだけど)、私のキャパは限界寸前。


 さっきまで「空気」だった私が、今は世界の中心にいるみたい。


 服を選び、ネイルを整え、キョウヤさんにエスコートされるたびに、私の中の「自尊心」が、スライムみたいにぷくぷくと膨らんでいった。



 ♢ ♢ ♢



「あーあ、フォロワーが減るとか、マジでダル。どっかにイケメンでも落ちてないかな~」


 買ってもらった服に着替え、ネイルサロンから出てきた時、


 聞き覚えのある、不快な高笑いが響いた。


 エレナだ。取り巻きを引き連れて、スマホをいじりながら買い物中だった。



(やばっ、隠れなきゃ……!)


 反射的にキョウヤさんの背中に隠れようとした私。その反応にキョウヤさんが気づき、状況を理解したとばかり頷くと、


 彼の強い腕が私を引きとめた。「堂々としていろ」



 エレナが、こちらに気づく。正確には、隣に立つ「超絶イケメン」なキョウヤさんに釘付けになってるだけだけど。



「何あのイケメン、ガチで国宝級!」


 エレナは速攻で「一軍の笑顔」を作り、こちらへ歩いてきた。隣にいるのが私(アカネ)だとは1ミリも気づいていないっぽい。


「あの~、すみませーん! もしかしてモデルさんですかぁ? 私、エレナって言います! 地元でインフルエンサーとかやってて……」


 必死の逆ナン。クラスの女王様が、尻尾を振ってキョウヤさんに媚びている。


 キョウヤさんは、エレナを氷のような目で見下ろした。その視線は、道端の石ころを見るような冷たさ。


「……誰だ、君は。僕の視界を汚さないでくれるか」


「えっ……? あ、あの、インフルエンサーやってて、わりと地元じゃ活躍してて、フォロワーも5000人いて」

「興味ない。君のような『三流の素材』が隣に立つのすら、僕の美的センスが拒絶している」


「さ、ささささ、三流!?」

 エレナの顔が、怒りと恥辱で真っ赤に染まる。


 滑稽すぎて、笑いが込み上げてくる。


 私は、キョウヤさんの腕に甘えるように寄り添いながら、エレナの目を真っ直ぐに見つめて、最高に慈悲深い笑顔を作ってあげた。


「そ、その、笑い声……」

 エレナとその取り巻きたちが後ずさり。瞳が、恐怖と混乱で見開かれる。


「嘘……アカネ!? なんで……あんた、あの引きこもりの……ゴミみたいな……!?」

「僕のパートナーを不快な目で見ないでくれ」


 今や、キョウヤさんの目は、路地裏に落ちている生ゴミを見るよう。


「……アカネ、行くよ。雑音(エレナ)がうるさすぎて、耳が腐りそうだ」


 キョウヤさんは、エレナを存在すらしていないように通り過ぎ、私の肩を抱いてエスコートした。


「意味わかんない!! なんでよぉぉぉ!!」


 エレナの悲鳴が、ショッピングセンター中に響き渡った。



 ♢ ♢ ♢



 こうしてわたしは、悲願の万バズ+ざまぁを成し遂げた。


 学校への距離が、少し近くに感じた。さすがに引きこもってばかりじゃ退学になる。


「アカネ! 権田原さんの角刈り! 手伝って! それから、モフ太ちゃんには髪の毛を食べてもらうから! あーヨシヨシ! モフ太ちゃん! 今日も一杯食べてくだちゃいね~!」

「キュッ!」


 今日も母の怒号がサロン・ド・ヨシコに響く。


 母はモフ太の存在に目をぱちくりさせたが、髪の毛の掃除係だと知って、私以上にモフ太を愛でるようになった。


 あれからというもの、私は化粧品のモデルをさせてもらった。たった一回だけだけど、良い経験になったと思う。


 でも同時に学んだ。目標のためには、いっぱい知識を付けて、誰にも負けない自信が必要なんだって。そのためにはある程度賢くないと駄目っぽい。




 今は初心に戻って、夢のために腕を磨く。いつか、キョウヤさんみたいな美のカリスマになる!


 私はじっちゃんのポマードを塗りながら決意する。


 


 1万5000、いや、2万イイネがついたら、学校に行こう。


 床のモフ太がキュ!と元気よく鳴くのだった。


 私の天才美容師としての道は、まだまだ始まったばかりだ。




 おしまい

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引きこもりJK、裏山のダンジョンでモフモフたちをカリスマカットしてたら、天才美容師と崇められ万バズしてた件 冬野トモ @huyunotomo

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