ソード・ワールド2.5 ノベル「OutLaws!」
七曲
第1話
1
目の前で埋められていく君だったそれを、壁のように立つ大人たちの隙間から辛うじて見るのが精一杯だった。よく晴れた日だったのも覚えている。現世への帰還を拒み、永遠の誓いを裏切った君を、許すことができなかった。君はもう行ってしまった。さよならを言うこともないまま、それすらも拒んで。
周囲の大人たちは悲痛、されどどこかに感情を放ったような表情をしていた。冷え切った崇拝と宗教という金属製のカバーに包まれた連中の心は、目前の状況の悲惨さと残酷さを感じ取るのが下手くそだった。あるいは裸の心そのままな己が敏感すぎただけか。――墓石の方がまだ温かみがある。神父が祝詞を挙げる光景は、さながら裁判官に心にもない反省を述べる咎人のそれだった。
結局、自分のことを彼はそこまで見てなかったんだな、と割り切るにはそれ相応の時間が必要だった。恋慕の感情はつくづく厄介で、今も尚心の錆としてこびりついたまま。
故に多分、今の僕を見たら彼はきっと驚くだろう。なぜなら。
「ぎゃあああああッ」
「あぁ、鍵を閉め忘れた……」
――母親の絶叫をよそにモンスターの亡骸をナタで掻っ捌いて、それを血まみれでスケッチしているのだから。
「あんたソーサラーでしょう!なに一丁前に学者の真似事なんかしてっ」
立ったまま上から目線説教する母と、それをしゅんとしながら正座で耐える僕はスプラッタな背景に無相応。今回の検体も晩飯へと提供確定。でなきゃこの烈火は収まらぬ。
「12にもなって村どころか家からも滅多に出ないで!もうあたしゃ情けなくて情けなくて……」
「泣くなよォ、研究現場に出くわしたくらいでそんな」
「この光景に泣いてるんじゃないッ」
半べその母から脳天へゲンコツ一撃頂戴す。いてえ。脳細胞が削れる感覚がしないでもない。
「ひきこもりで血まみれで化け物とはいえ生き物サバいてスケッチ描いてなんてねえ!おまけにいきなりいなくなると思ったらモンスターの骨担いで帰ってくるわそのまま骨だけ置いてまたどこかへ行くわ蛮族と勝手に色々しでかすわ――あなた周りからどんな目で見られてるかわかってるんでしょうね!?」
「狂人?」
二撃目を喰らう。くそう、一撃目のところにびった合わせてきやがった。倍いてえ。
「もぉ゛ーッ、訳わからないわよもぉお゙、な゙ーんでこんな風になっちゃったのよォ」
ついに膝から崩れ落ちて泣く母。そして血まみれの僕と裁かれた肉塊。まるで宗教画のように見える。実のところ引きこもりの息子にブチギレる母の構図なのだが。
彼を失ったあの日以来、蘇生時に発生する魂の穢れが何なのかを探る為、まずはその器となる肉体を研究する日々を僕は送っている。だから今僕は血まみれなのであり、魔術師のわりに魔術の研究なんざ適当であり、今まさに3発目のげんこつを喰らおうとしているわけ。くそお、またビッタに同じとこぶち抜いてきやがった。3倍だ3倍。めまいしてきた。
「今の一撃は余分な気が」
「うるさいッ」
そのまま母は泣いているのか怒っているのかもわからぬ表情で僕の部屋を飛び出していった。2〜30秒の残心の後、冷静にドアを施錠し解体へと戻る。キレ散らかした母の重い蹴りが締まったドアに入ったのはそこから10分後だった。
如何様にして魔術師の肩書きに(諸説有り)がついたかを語ったところで、約18時間経った今。僕が置かれている状況について解説したい。
先日鍵をかけ忘れたせいでOh!グロテスク!な光景を目撃した我が母は普段僕に対しさして興味のない父に「いい加減あいつ冒険者とかにして家から叩き出そう」とブチギレ。面倒くさがりな父は適当に承諾。母はそのまま周辺邸宅を周り、「いまこそあのやべえやつを追い出すチャンス」と吹き込み続けた結果、晩飯直後に「明日冒険者登録しに行け、これは義務であり逆らった場合は村の同志と共に強引に連れ出す」という旨の脅迫を受ける羽目と相成った。結果として。
「――ひ弱な種族のど素人を単独で送り出すかね普通……」
馬鹿みてえに重いでかい鞄(着替え・食糧・水・冒険者セット入り)を背負い荒野を征くこととなったのである。
周囲の監視の目Lv.100のような状況下で引き攣った笑みの受付嬢にこれまた引き攣った笑みの僕が登録に必要な各種書類を提出したあの地獄のような空気はしばらく経った今でも背筋に氷を投げ込んでくる。できることならなる早でその記憶を消してしまいたい。記憶消去魔法などという都合の良いものもいまのところ持ち合わせていないので、現実的なラインなら地面に頭を打ちつけるところといったところだろうか。昨日トリプルゲンコツ喰らったし。
はてさて。この荒野は或る都市部に繋がっている。無論雷車なんて通っているはずもなく、専ら踏破が移動の手として選ばれる。一応ツテを辿れば騎竜やそれに準ずる高速移動可能な媒体を選択する余地はあるが、非常に高価なのは当然として、それ以外に「ツテを辿る」コストの方が金銭的にもそれ以外でも歩くための各種セッティングより高くついてしまう。損して得とれ、という言葉の意味も重々理解しているが、それを鑑みても徒歩の方が安牌である。……にしても灼熱。さすがに微かな目眩を覚える。それはそうだ、魔物や悪党がこちらを視認しやすい野っ原を歩くに軽装では自ら火山のマグマへ飛び込むと同義。故にそれなりの重装備を着込まねばならない。いくら水を飲もうが、体内気温は下がらない。幸いにも小高い丘の影を発見。かろうじて残る体力を絞り出し、どさりとそこへ座り込む。
肉体というのは、いくら楽な姿勢をとろうと一定のウェイトに対して一定のダメージを喰らう。魔物や蛮族に襲われてお陀仏になる前に熱射病で昇天なぞたまったものではない。装備や背負ってきた巨大バッグを下ろし、そのまま寝転ぶ。
バッグのサイドポケットに突っ込んでいた水筒を取り出し、残りを気にしながら少し飲む。
――問題はその後。気絶するように僕は眠ってしまった。というより、おそらくあれは失神というか昏睡だった気がする。さまざまな事情を過度に警戒した結果の脱水症状。明らかに己の落ち度であり、生物学を齧っている身としては大恥も良い所。まぁ幸いにも命が無事で済んだだけありがたい。でなきゃこうして後悔することすらできずに次の輪廻へ放り込まれている。
では如何にして助かったかをば少しばかり語らせていただこう。なおこれについては救出してくれた恩人からの証言、及びかろうじて残る微かな記憶を元に再構成されたものである。多少の齟齬があったとしてもご容赦願いたい。
助けてくれた彼曰くパッと見完全にひからびていたそうで(半笑いだったのでおそらくネタ)、漁を終え獲物を市場で卸した帰り、手荷物もそこまでなかったのもあり帰路そのまま僕を担いで帰宅。カラッカラな僕をベッドに寝かせ、土地柄故に染みついた熱射病対策を実施。首・手足首・腹部に氷嚢を当てがいとにかく体内を冷やしたそう。そこからかろうじて意識を戻した僕に塩混じりの氷水と塩辛い干し肉で体内の状態をとりあえずは安心、というところまでもっていってくれた。今は彼が使わなくなったシャツとズボン――おそろしくぶかぶかの――のまま僕はベッドの上で安静にしている。そしてドアの向こうで「気分大丈夫か?」と声をかけてくれる彼がその恩人なわけだが……
肝心の種族がリザードマン、つまるところ蛮族である。
基本的に蛮族というのは「おお人族や 食ったろ」がデフォルトの存在(ごく一部例外あり)なんであって、今回のような救出をわざわざ、しかも単独でやっているという時点でそうとうな当たりくじを引いたとしか思えない。さらには彼は汎用交易語も余裕。種族をリルドラケンと誤魔化して市場でやっていっている、という彼の証言もありこちらの感覚も熟知。……正味、後からすさまじいしっぺ返しが来そうなくらいに巡り合わせが良い。彼の体格からもそれがわかる。白色の体ゆえに影が目立つのもあるが、筋骨隆々を通り越してもはや筋肉ダルマとかそういう領域のガタイ+僕程度の大きさなら複数小脇に抱えるなぞ造作もないほどの巨躯。鍛え抜いたことで特大サイズになった大胸筋と、脇が閉まりきらぬほどの上腕筋あたりからもその力強さが容易に察せられる。鍛えづらい下半身も上半身に負けず劣らず。もはや小屋が立って歩いているとも言っていい。リルドラケンと名乗ってもまあ突っ込むものはいないだろう。顔は力強さと優しさが混ざり合うようなかわいげの残るハンサムフェイスとはいえ、そんな印象を持ってる相手にああだこうだ言える胆力の持ち主はそうそういない。だが性根は人懐っこいときた。
――騙されてんるじゃなかろうか。いい感じに太らせてから美味しくいただくタイプだったらどうしよう。
そんな思考が巡る度に体感気温が数度ずつ下がる。向こうはリルドラケンとして乗り切るつもりだろうが、生憎蛮族関連はそれなりに研究からの知識がある。その程度の欺瞞など簡単に見破れる。それ以前にコボルトの知り合いがいるので蛮族語も余裕。もしそちらで妙なことを口走ったら余裕で察知できる。――あの巨体を倒せるかは別として。
まともに授業や訓練など受けてもいないのに放り出された身として、登録制の冒険者という仕組みに対してこれほどまでに改善を要求したくなったのは初めてかもしれない。せめて最低限の試験は設けてもらいたい。僕のような純白モヤシが「さあ行こう夢のあの場所へ」と大した装備もないのに突撃してあげく他の冒険者の世話になりまくるのが目に見えているではないか。それともそういう手合いはすんなり喰われて蘇生も何もないから問題ないのだろうか。だとしたらまさにこの世は
――透き通る青。海岸沿いにここの建物はあるのだろう。漣の音が聞こえてくる。地元の鬱蒼とした森、倒れたあの荒野とは全く違う領域。正直悪くはないと思ってしまった。
多分あの時の恋は所謂若気の至りのようなものだった。もしかしたら、僕が一方的に好きになっていたのを、あの時いなくなった彼は合わせてくれていただけだっなのかもしれない。もう5〜6年は経った。好きなことに没頭していたのもある、心の整理もつく。間違いなくあの頃の僕は今の僕の中から去った。おそらく彼の後を追ったのかもしれないし、それとも追い出してしまったのかもしれない。
――なら何故、生物学の研究なんかしてるんだろう。理由は明白。目的がすっかり入れ替わった、それだけの話。彼を失ったからではなく、自分の興味の為に。走馬灯のようなものだろう。あからさまにこれまでの生のハイライトを振り返り始めている。白状すると、今のところそこまで「逃げの一手」だの「生存本能」だのが働いていない。明らかに勝てない相手に対して鳴くことしかできない野生動物の本能は、どうやら僕にもあったらしい。いやまあ、確定ではないにしろ襲われる確率は極めて高いわけで――
「……感傷に浸ってッとこ悪いけど腹減ってねえか?」
「ぎゃッ」
いきなりのドアオープンとリザードマンの彼の登場に僕は跳ねてしたたかに壁へ頭を打ちつけた。2日連続への頭部負傷である。脳細胞の数億は今ので吹き飛んだだろう。種族特有の脚力を存分に生かした自爆により蹲る僕を「ごめん」と彼は気まずそうに覗き込む。
「ァお気遣い無く大丈夫です……」
「ああいや、そこそこ時間経ってるし腹減ってねえかなって……網にかかったタコ焼いたんだ。いるなら持ってくるけど」
さあやってきました究極の二択。とりあえず適当に理由つせて拒んでおき、その隙に逃げるか。なんか余計に「体調まだやべえのか?」と聞かれそうだしそもそもさっき朦朧としてたとは言え干し肉食ってなんともなかったし食うのもありだ。というか彼は市場から帰りの途中で僕を拾ったというし。いや、蓄積タイプの毒物かもしれないし……
「大丈夫か?さっきからえれェ黙り込んじゃ」
「ありがとうございますいただきます」
食い気味に即答したのをド深く後悔していること数分。「ほいこれ、香草で軽く味ついてるから苦手なら言ってくれよ、新しく焼きなおすからさ」と、そこそこの量の焼きダコを皿に乗せて僕にくれた。もうあとは野となれ山となれとかき込む。
美味。すんばらしく美味。元々地元が山の中というのもあり海産系の料理なんて滅多に食べてなかったのもあるが、それを差し引いてもうまい。何年も食べているからこそ、それに対して最大限のうまみを引き出すやり方を知っているのだろう。コリコリとした食感から溢れる水分は旨味をたっぷり含んでいて、それを誤魔化さずに綺麗に飾る香料の少し辛い匂いと味。そうそうできる芸当ではない。
今までの経験上、料理となると素材は防腐のために塩辛くなっているか香辛料大量というのがザラで、そうでないものとなると果実系、それか(研究対象として僕が仕入れた)魔物肉。無論調理は上に同じ。その常識に凝り固まったこの舌に対し、もはや素寒貧も同然のシンプルな味付けのみで見事城落としをやってのけている。素材を活かすための香料。海が近い故の離れ業。一生食ってられるわこれ。うん。
「表情からして気に入ったようで何より」
朗らかに笑う彼の顔からももう身の危険もないのは明白。というかもうすでにタコの旨味でそこらへんぶっ壊れております。
「これいくらでも食えますねこれ すんごい わあ」
語彙力も同様に。
「で、バレてたと」
「はい、一目で」
焼きダコを美味しくいただいてから数時間、小屋のダイニングにて。
結局、リザードマンであることを見抜いている旨をこちらからバラした。命の恩人かつここまでしてくれたのにこちらが嘘をつき続けるのはいくらなんでもいただけない。まあ当の恩人は「マジかあ」と頭を抱えているわけですが。えーマジ、市場の人達はまだ誤魔化しきいてるはずなんだけどなぁ、と譫言とともに冷や汗を流す彼へ、どこか妙な憐憫の情を持ってしまう。
「にしてもすげえな、気づいたのお前さんが初めてよ?学者さんとくりゃそりゃそうだけどさぁ、ビックリだよ」
テーブル越し、顔を上げフランクに彼は話し始める。
「いやあ……なんかすみません」
「謝るこたァ無ェよ!外れ値も外れ値、蛮族の癖して平和主義者の宥和派なんてな。初っ端そんな予想する奴ァ冒険者なら数時間も持たねえよ、お前さんは正しい!そらビビる!」
「でかいですもんね」
「うん!長らく漁師やってたんで筋肉モリモリよ!市場でたまに来るガキンチョに毎回泣かれて仕方ないっちゃありゃしねえ」
まあ鍛えるの好きなんで別にデカくて構わねえんだけどな、と彼は僕のノンデリ指摘と先程の不安もろとも笑い飛ばした。にしても僕にしてはすべてがとんでもなくでかい。さっきから耳が軽く痛いくらいには声もでかい。器も体も同様にでかい。さっきもこの話をしたが、そんくらいでかいのだ。
「それに比べりゃ……お前さんほんとに冒険者としてやってけそうか?ほっそいぞ」
鋭いツッコミ。よく見ていらっしゃる。
「仕方ないですよ、いきなり家追い出されたんですから。フィールドワークで歩き回るなどはありますが、実践向けのトレーニングなんてそうそう」
「ふぃー……ああ野外調査か!ありゃ忍耐力は鍛えられそうだがパワーとかそっちのほうは縁遠いな。つかそんなモヤシで冒険者になったのかよ」
「無理やりさせられた上で冒険者という大義名分のもと野に放り出されました」
「うわ……」
ドン引き。そりゃそうだ。いくらなんでも無謀極まりない。そんな状態で荒野を踏破しようとしていた自らの愚かさに遅ればせながらも自覚してしまうし、多分向こうもそれは気にしていたのだろう、彼は腕を組みながらうんうんと考え込んでいる。
「で、追い出された原因は」
「研究室の鍵かけ忘れて血だらけの部屋を見られまして」
「(しばしの絶句)」
ドン引きPart2。無言で引くな。傷ついちゃうぞ。
「いやまあな?血を見慣れてねぇっつーのは問題ではあると思うよ?都会ならまだしもさ、飯作るってなった時に野菜果物しか食わねえとかでも無い限りついて回るもんだしな。でも追い出された上で実質口減しレベルっつーのは……なぁ」
意外や意外。擁護意見である。リアクションからして流石にお前のせいじゃあと言われるかと思っていたので思わぬ幸福だ。やったね。
「そもそも首の皮ひとつかっさばきゃ山ほど流れるんだ、見慣れてない方が悪い!」
遥か前の前言撤回。やっぱこの人根がガッツリ蛮族である。
「今日は泊まってけ!」と言うのでディナーもご馳走になった。どデカいサーモンを掻っ捌いてそのまま生食。実に美味。おひょひょだかむほほだかわからん嬌声とともにしっかりいただいた。ごま油とニンニクを混ぜた特製ソースをつけてそこに刻みオニオントッピング。さらに生食。なんかヤバいもんが脳みそから溢れそうになる。というかもうすでに溢れて止まらない。多分全身の穴という穴から脳みそ液(仮称)が漏れまくっていたかもしれない。変なテンションのままむにょーだかおびょーだかの奇声とともに山ほどいただいた。それをニコニコとしながら「まだまだあるぜ!たんと食いねェ」と喜んでくれる彼のおおらかさなんともがありがたい。彼の作る海鮮料理、変なもん入ってないのに依存性がすさまじく風呂途中にも関わらず食欲が湧いてくる。くそう、こんな時間に食べたら明日がこわいのにぃ……タコ食いてえ……サーモンも食いてえ……酒もついでに飲んで優勝してえ……2〜3日は引きずる……
それからしばらく。
「湯加減どうよ?」
浴室、木製ドア越しに彼の声。朗らかで妙な安心感がある。
「ちょうど……良い……感じで……とても……」
「ならいいや、熱すぎやしねえかと心配だったんで」
「とても……良……ッい……んですッ……が」
「おい大丈夫かよ?途切れ途切れじゃん」
「いや……その……深ッ!?」
僕より数倍の巨体に合わせて作られただろう浴槽は立ってなんとか顔が出るレベル。返答のために顔を動かしたが最後、バランス崩して足を滑らせド派手にどっぷりお湯にin。見事に溺れと相成った。本日二度目の窮地である。
「あぶぼぶばぶばぶ」と情けない悲鳴をあげて暴れる僕をドア越しに察した彼は風呂場に飛び込み、浴槽内で見事な水中ブレイクダンスをキメる僕をその大きな手でわっしと掴み引き上げ。2回目の救出ありがとうございます。腹切って詫びます。
「風呂深かったよな!?悪いそこ考えてなかった!!!」
顔を真っ青にする彼に対し、まるで猫に捕らえられしネズミの如く、僕は静かに「らいりょうふれす……」と返すほかなかった。
溺れ事件より約40分。「目を話した隙にえらいことなりそうでこわい」と
・同じベッド
・同じ布団
・しかも至近距離
で就寝することに。というかもはやぬいぐるみの如く抱きつかれている。それほどまでに心配か。そりゃそうか。だって日に二度も貧弱体質+小さい体格のせいで命の危機に瀕するような奴を1人で寝かせるわけにはいかない。高めのベッドから勝手に落ちられて朝起きたら第一遺体発見者となるのは誰だって御免被る。
幸いそこまでしっかり抱きつかれてるわけでは無い。寝返りをうって彼の方を見る。
――静か。昼間の威圧感はどこへやら、まるで赤子のような純真ささえある寝顔。出会った頃の自分がなんだか情けなく感じてきた。社会構造上どうしようもないものとはわかっているが、それでもこの表情を前にしたらそうするしかない。ふと圧迫感を感じた。彼の両腕にゆっくりと力が込められていくかと思ったら、丸まるように手足を引きながら尻尾を丸めた、さながら胎児の如く。安らかだった寝顔に軽く不安が混じる。何かをおそれるように、何かを奪われまいとするように、彼の体に力が入る。でもそれは風呂で引き上げられた時のような大人の力ではない。駄々をこねるような子のような、力強くはあるけど、誰かを傷つけるようなものではなかった。あ、寂しいんだな。どこか彼と繋がるものがあること、そして亡くしたかつての「友」を追ってしまう理由に薄ら気がついた。でも今は何もできないし、そもそも一宿一飯の恩を返したら僕はここから出て、目的の街に向かわなければならない。そんな諦めと、蛮族という凄まじくかけ離れた存在との間に微かにあった繋がりを捨てるしかない失望に飲まれてその日は眠った。
――拝啓両親。僕は今漁船です。というか朝目覚めたら漁船でした。借金をこさえたわけではありません。であればおそらく僕は非常食として今頃〆られているでしょう。
とりあえず今は命の恩人であるリザードマンの彼の漁船の上です。曰く「一人で置いておくのも考えたが昨日の様子で一人でここ置いてくとあの小屋が事故物件になりかねない」との理由だそうです。せめて前日に説明は欲しかったですが、起きたことは仕方ありません。腹を括ります。あと蛮族関連は気にしないでください。何度も近場のコボルトやオーガの集落で寝泊まりしてるし今更ではありますでしょうが、一応。
今は漁を終えて港までの海路を進んでいるところです。馬鹿でかいサーモンが船倉にみっちりなので、リザードマンの彼はニッコニコです。彼の作る海鮮系の料理はとても美味ですので、僕も同様にニッコニコです。朝目覚めたら漁船だったのは先ほど記した通りですが、その時丁度群れに当たっているところでしたので、そのままスライドするように船倉に釣られたサーモンをひたすら詰め込む作業に従事。途中で吊り上がったイカを捌いたものをレモン及びハーブでかるく味付けして焼いたものを軽い朝食としていただき、これから港につき次第市場へ直行しそこそこの金額で売り捌きつつ漁港周辺の飲食店へ卸す予定です。それでは。
P.S.リザードマンの彼リルドラケンと誤魔化してるけど出港前の港のおっさん達の反応からして既にバレてからだいぶ長い時間経ってます。しゃーねーなあいつ見てえな顔してるしなんなら言ってました。耳いいからすげえ小声でもガッツリ聞こえるのマジ面白い。
という脳内妄想+独り言をかましつつ、漁港周辺をサーモンたっぷりの箱を担ぐリザードマンの彼に同行中の僕。僕は一箱をなんとか担ぎながら彼の後ろを歩く。見事な広背筋がよく見える。片腕で8箱あっさり担げるだけあるなぁ、と彼の力強さにひとり納得する。今は卸先をめぐり切って僕と同じ1箱しか彼は担いでいないけど。
「そういえばさっき、酒場のお嬢さんに「レヴさん」って呼ばれてましたけど」
先ほど僕が担ぐ量を2→1箱に減らした店のこと。カウンターの上で肘を乗っけながら店の人族嬢ちゃんと世間話を交わしていて、ようあの嬢ちゃん背丈倍の相手に驚かんもんだ、肝座ってんだなあと思っていた中での疑問を投げかける。
「まあガキん頃から数えて……30年くらいここでやってってるからなあ。ここらの人達とはもう馴染みも馴染みだ。あの嬢ちゃんのおしめ変えたこともあるんだぜ、俺」
「え嘘ぉ!?さんッ……うちの親父がガキん頃からァ!?」
「えマジ!?お前いくつゥ!?」
ご存知ない方に説明すると、僕らタビットの平均寿命は約50年。うちのひい爺さんは長生きで今62歳。んでもって爺さんが48で親父が34……つまり彼は僕が微塵も存在しない頃からここで生きてきたというのだ。故に敬語が吹き飛び妙に僕の口が悪くなっているのだし、彼、仮称「レヴさん」も目を丸くしているのだ。
「12……というか僕聞きたかったのそこじゃなくて!お名前ッ!お名前聞いてなかったからそこを!」
「ああそうだわ!やべ名前言ってねえ……いや申し訳ねえわ、昨日から散々抜け散らかして」
「いやいや聞かなかった僕もアレだしそもそも事態が事態だったので……あ、一応僕「ヴィオ」って言います。ヴィオ・リーヴ。何卒」
ちょっと凹み気味な彼にフォローを入れんとして、少々慌て気味だった勢いそのままの僕の名乗りに「おー、いい名前じゃん」と振り向きざまに微笑んでくれた。スペルも聞かれたのでB-I-O-L-I-V-Eと答える。
「
「えへへへ……もって半年かも……」
双方苦笑いのまましばらく歩く。騒々しい漁港街の空気が今はナイフのよう。
「だあぁもうこの話やめ!やめやめ!やめようこれ考えんの、未来のこと考えたってしゃーねーもん誰もわかんねえし!」
堪えきれなかったのか「レヴさん」はデカめの声で悲痛な沈黙をぶち壊した。「そッすねやめましょう!うん」と僕も便乗しておく。正直あの沈黙が続くようなら近くの海に身投げするつもりだったので非常に助かった。あの空気を変えられる高度なコミュニケーション能力は、あいにく僕には付属していないからネ。
「そういや俺の名乗りがまだだったな。【レヴナン】。俺ァ【レヴナン】ってんだ。レヴでいいよ」
ニィ、と肉食特有のギザギザした純白の歯を見せながら笑うレヴさんもとい、レヴ。その笑顔はまごうことなく友愛のソレであって、とても彼が蛮族のリザードマンと思えない程だった。そりゃあリルドラケンと誤魔化して(おそらくバレて)も長い間やっていけるわけだ。
そんな妙な関心をしていると、彼曰く最後の卸先である鮮魚店に到着。「あらレヴちゃん!」と先ほどの酒場から続いてこれまた人族のおばちゃんが店の軒先から出てきて出迎えてくれた。
「ジェシー!今日はえらい釣れたんだ、ちょいとまけとく」
「あらありがとねえ。うちの旦那が『結婚20周年だし雷車旅行でも行こうか』ってうるさいから金貯めてるのよぉ。まずはこういうとこから貯めてかないとねっ」
「いいじゃんいいじゃん!その調子で未来の旅行ガンガン豪華にしちまえ!」
ノリの良い世間話に置いてけぼりになる。というかレヴが30年前からここにいて、ジェシーなるおばさんは平均的な身長にふくよかな身体と溌剌とした表情の隅で確かに刻まれつつあるシワとほうれい線、それらから勘案しておそらく40代。とするとおそらく互いに子どもないし若い頃から知り合いということになる。仲が良いのも頷ける。
「あらッ。何レヴちゃん。あなたルームメイトできたの!?」
「そうなんだよ、市場からの帰りにぶっ倒れてたから助けてやってさ。あぁ紹介するよ、ヴィオってんだ」
いきなり注目の的となったことに冷や汗と動揺を隠せぬまま、なんとか取り繕って「ヴィオ・リーヴです。よろしくお願いします」と自己紹介。というかルームメイトという発言に対して否定しないのどうなんだよレヴ……
「あらいいわねえ、よろしくねヴィオちゃん。レヴちゃんこー見えてすんごい寂しがり屋だから、しこたま可愛がってやんな」
何気ないジェシーさんの発言に、ふと昨日の寝顔を思い出す。
寂しがり屋。たぶんそのレベルじゃない、根本的にもっと「欠けてしまった」ことが彼はある。例えば僕みたいに「大好きだった人」、とか。完全なる推測だけれども、本来群れとして行動することが多く、基本的に自我そのものが種族として薄い傾向にあるリザードマン、それも子どもがここまで強い個性を持ちながらこちらに来ていると考えると……あまり考えたくない過去が想像できる。
家族との離別。種族からの排斥、或いは離脱。大人でも辛いそれを、まして子どもがその仕打ちを受けるとするならば、夜、あの時の不安げな表情は、まだ未熟で一人ではとても生きられない存在が、無理をしてでも生きようとしたあまりにも大きすぎる反動なんじゃないんだろうか。というか今も崩れかけなのを誤魔化してるだけなのかも――
「……あらどうしたの、ボケェっとしちゃって」
「あぁいやすみません考え事しちゃって……」
あらまぁ、疲れてるのかしら、とジェシーさんは僕の顔を怪訝な表情で見つめる。辛気臭い考えを一度置いて、なんとなく取り繕った。
「まあ朝からいきなり漁船だったからなぁ。嫌でも疲れも溜まるさ。でも買い出しもしなきゃならんから――そだ、悪いジェシー、ヴィオの様子見といてくれ」
「はいよ、裏で寝かせとくから安心しな!」
リヴの心配から急転直下突然の衝撃発言とジェシーさんのナチュラル対応。置いておいたのが今ので完全に消し飛びました。
「あ゙え!?え僕ガキ扱いィ!?」
「うわびっくりしたァ!?」
レヴを驚愕せしめる絶叫に至った理由を説明しましょう。タビットは基本的に10歳もいけば成人として扱われます。そして僕は12歳です。人族換算24歳です。歴とした大人です。だけどちっこいです。僕身長135しかないですがタビット界ではかなりの長身です。だけど周りからしてみればまだ蒙古斑も取れてないガキンチョ同然です。外見が妙に種族全体かわいらしいのも拍車をかけに来ます。結果としてガキ扱いです。くそったれ。
「違うわよヴィオちゃん、倒れてすぐに無理なんかしちゃ後々すぐ倒れるようになっちゃうんだから少しでも休んだほうがいいってわけよ!そもそもあなたまだ小さいんだから」
「ガキ扱いじゃねェか僕12ですよ!?」
「でも無茶は駄・目!何事も体が資本なんだから、休める時には休みなさんな」
「そだぞヴィオ、昨日ぶっ倒れて病み上がりなんだから無茶すんな!妙に気合入ってさっきもいつのまにか木箱運んでたが正直ヒヤヒヤしてたっつの」
ぐぬう。捲し立てたがこうもされては何も言えない。実際問題2人のの理屈は通っている訳だし、昨日2回もえらいことになったこちらとしてはもう従う他の選択肢はない。そのままリヴは「んじゃあ頼むわ!」と街の雑踏へ消えてゆき、そのまま僕はジェシーさんに連れられる形で店内、そしてバックヤードへと踏み入れることとなった。
「リヴちゃんのことどのくらい知ってるの?」
ベッドで寝転がっていると、様子を見に来たジェシーさんから唐突に聞かれる。僕は上半身を起こして対応。
「いやまあ、1日2日じゃ大してです。ガタイいいなあ、といいヒトだなー、くらい。あ、あと料理めちゃくちゃうまい」
「あの子の手料理は絶品よねえ、わかるわあ、おばちゃん。サッと作るくせしてうまいんだから羨ましくなっちゃう」
先ほどの勢いのある声が嘘のように、落ち着いた彼女の声。過ぎ去った日々を思い起こすようなその声色に、望郷の念に類するものを感じた。
「あの子ね、最初街に来た時、ボロボロだったのよ」
「……」
「傷だらけでねぇ……家にいろと言われてたから、こっそり抜け出して行ってみたら大騒ぎよ。あんときゃ、どっかの盗賊団でもかっ飛んできたかとも思ってたから安堵半分心配半分だったわ。」
曰く。真夏のひどく暑い日だったという。衛兵さんが倒れたり、置いておいた樽の金属部分で火傷が続出したり、そのくらい暑かった日。リヴはボロボロの服に傷だらけの体で、泣きながら街の門の前にいたという。
「ほ〜んでなんとか手当してやったらしいんだけど、そんときゃもう町中大騒ぎでねえ、三軒隣の鍛冶屋の亭主が炉ぉそんまんまにして店飛び出したから危うく大火事よ!怪我の次は街が燃えかけたんだ忘れようにも無理だねあれは!」
カカカ、と彼女が笑い飛ばすその話は今だから笑える話だろうが当時はもはや大混乱極まりなかっただろう。翌日の市場運営に問題なかったかが不安で仕方ない。苦笑いで返す。
「ほんで数日したらすーっかり馴染んでねえ。あっちこっち走り回っては子どもの面倒見たり仕事手伝ったりと大助かりで……あんときは私も同じくらいだったのが今じゃ私だけおばさんで……まぁ、そんなもんさ世の中」
面倒見の良さは昔かららしい。僕が倒れた際の介抱が的確だったのもそこからだろうか。
「だから彼あんなにてきぱきと……」
「やっぱり!下手に医者連れてくよりもあの子に任せた方が良いっていう人もいるくらいだからね、あんたは体力も経験もないが運はある!あとはその2つだけだね」
「そ、そうです?」
風呂場で再度危機に瀕したことはリヴは伝えてないんだろうか。それともそれ込みでの幸運なんだろうか。だとしたらこれから先が不安で仕方ない。
一昔前。よく親族皆が口を揃えて言っていたことがあった。「幸運には限りがある。それが尽きたとき、命は終わる」と。冠婚葬祭その他飲み会等、かならず誰かが言っていた。生きていることは幸運を少しずつ少しずつ削って生きているのであり、それは怪我や病気によって一気になくなってしまうし、歳を取ればその分だけ残りが減る。故に様々なことに気を遣ってやらねば、すぐさま幸運を使い切って……という理屈らしい。とすればおそらく寿命10年分くらい幸運が今回削れている。なんならこのまま当初の目的通りのスケジュールを敢行すれば2〜30年分どころの話じゃない。なんならここを出てすぐにあの世行きだってありうる。
「あら。どうしたの頭抱えて」
「いや……なんでもないです」
今思うとあの冒険者登録強制は、体の良い口減しだったのかもしれない。手詰まりの予感をひしひしと感じ、おかげで幸運が寿命4〜5年分削れた気がした。
「6度目です。もう一度問います。何を買ってきたんですか」
「家財道具。お前の!」
「リヴちゃん、多分そういうことじゃあ、ないと思うの」
さて。現在ジェシーさんとこの店前。リヴがこちらに戻ってきたのは良いとして、えげつない量の荷物(僕比)を持っているものだから問いただしてみると僕の分の家財道具と言う。僕の質問とレヴの返答、そしてジェシーさんの冷静なツッコミが数度繰り返されたのち今に至る。
そもそも僕はここの街ではなくまた別方向(それもでっけえ運河の先)の市街地にあるギルドにてパーティ集めてさあ冒険という日程を無謀ながらすでに組んでいる。というかそれ以前に突発的にそのような真似をする彼の思考がろくに読めない。出会って僅か24時間と少しのやつを居候させる器は大きいとかそのレベルじゃない、溜池とかその辺、なんなら底が抜けて地下の洞穴にガンガン水が流出しっぱなしとかのそれでなかろうか。液状化現象まっしぐらの彼は眉間に皺を軽く寄せて僕に言い放つ。
「正直今のヴィオを「おう元気でな」と送り出すのは夢見がいくらなんでも悪い!冒険者やるにしてもいくらなんでもモヤシがすぎるしそのまま依頼に出向こうもんならその日がお前さんの命日!下手すら蘇生も間に合わず……なんて目に顔を知ってる奴がなるのはど〜しても許せねぇ!」
「で、修行をつけるってことですか」
僕の質問に彼は「そ!」と短く明るい顔で言い放つ。「そ!」じゃねーよ「そ!」じゃ、僕の表情見てそれ言ってんのか、必死の作り笑いで今眉間と口の端あたりがメチャクチャ痛いんだぞ。
「う〜ん、おばさんとしてはそっちの方が良いとは思うんだけどねぇ。それに……」
好機。こちらの心情を汲み取ったジェシーさんの(おそらく)反論はまっこと嬉しいものではある。
「いや、大丈夫です」
のだが。
「お願いします、その……今のまんまだと確実に……なので」
あらあ、とジェシーさんが驚きの表情を見せる。そらおずおずとはいえ頭を下げているのだ、そうもなろう。
「たぶん家追い出されたのもテイのいい口減しです。それでくたばったところでどうこうではありますが、中途半端なとこでバッタリ逝くならキッチリやりたいことやって生きたいんです」
息を呑むリヴ。……?なぜそちらが息を呑む必要がある。もしするとしたらこちらだし、状況としても「おうよ!よろしく!」となるのが道理のはず。
「あ〜……わかった!とりあえず熱意はわかった!うん!OKってことでまあそこはよろしく!」
「はあ」
歯切れの悪い彼の返答に思わず変な声を出す。どこが「あ〜」なのだろうか。ジェシーさんも何かに気づいたように神妙な顔をしている。なんだこの空気は。針の筵を転がされている気分になる。気まずさで赤面通り越して全身紫色になりそうだ。しかも一応今街中である。公開処刑も甚だしい。リヴが気まずそうに切り出す。
「朝さぁ、漁に出た時によ、南の方向の雲行き、見たか?」
「いえ……魚受け取るのに必死でそんな余裕もなく……」
「だよなあ。じゃなきゃここまで気まずくなってねぇ」
ますますわからなくなる。南の雲がどうしたというのだ。嵐や海賊やら来るわけでもあるまい、と考えたその刹那。電流が脳に走る。
海上にて熱せられた海水が雲になる、それを繰り返していくうちに嵐になるのは子どもの頃たまたま街に来た学者から聞いたことがある。そしてこちら、ラノシアは北半球。そして今の季節は夏。でなきゃ荒野で熱射病などありえない。そして嵐ときたら運河を通行する船は漏れなく足止め。今のリヴのセリフとジェシーさんの神妙な顔に合点がいった。同時に凄まじいほどの恥辱の念が襲いかかってくる。
「ンもしかしてェ……」
「……そうなんだよな、嵐来るんだよ、もうじき」
「このまま出たらいよいよ風に飛ばされてお終いだから、おばさんもそっちのほうが良いんじゃないかって。もしヴィオちゃんが嫌なら1週間もすれば出れるからそれを言おうとしたら……ってちょっと泣かないでよォ!」
不意に出る涙は止まらない。妙にしゃくれ上がる声とこの状況、顔面を恥ずかしさに歪める僕はもはや石も同然。はやくだれか僕をぶん殴ってください。それか埋めてください。桜の下に埋めれば来年綺麗に咲くでしょうから。いらぬ大見得を切った手前、もはや己に残された道は切腹のみ。介錯は不要、でなければこの恥埋め合わすことなど到底できぬ。
「ああもう!」と駄々っ子にハングアップする母親のような声を漏らすジェシーさんと、もうどうすれば良いかわからないとバツの悪い顔で立ち尽くすリヴ、そして全身真紅の落涙中僕。
一応、これが今までに渡る同居生活の始まりなのだが、なるべく早く記憶から消したく直後に海へ身投げ未遂かましたのはまた別の話。
ソード・ワールド2.5 ノベル「OutLaws!」 七曲 @Nana_Sv
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