インドのサンダル

青川メノウ

第1話 インドのサンダル

インドで暮らし始めて、しばらくたった頃のこと。

ヒンズー教の寺院で、靴を失くした。

靴を脱いでお参りを済ませ、戻って履こうとしたら、どこにも見当たらない。

「もしかして、盗られたかも」

あるいは、履き間違えられたか、たちの悪いいたずらか。

いずれにせよ、もう出てこないだろう。

ショックだった。

現地ではよくあることだという。

置きっぱなしにしたのを悔やんだが、もう遅い。

「ここは日本じゃないんだ」

あきらめるしかなかった。

がっくり肩を落として、素足のまま寺院の外へ出た。

さて、どうしようかと思いつつ、ふと見れば、なんと向かいにサンダル屋があるではないか。

まさに待ってましたと言わんばかりのロケーション。

「ははあ、そういうわけか。うまくできている」

その店でチャッパルという、インドの伝統的なサンダルを買った。

履いてみたら、なんと案外快適だ。

現地の道路は土埃がひどくて、足が汚れるから、それまでは専ら靴だった。

しかし、この時初めて履いたチャッパルが、暑いインドでは実に心地よくて、以来いつも履くようになった。

足の汚れは、もう気にならなかった。

足元が変われば、気持ちも変わる。

いろいろあったけれど、わたしはインドがますます好きになった。


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インドのサンダル 青川メノウ @kawasemi-river

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