FRIENDS ZONE

天宮滴花

FRIENDS ZONE

 創作は、サウナだ。

 ……と、サウナをあくまでイメージの中でしか捉えられていない僕の言うことに、果たして信憑性があるのかどうかは置いといて。これは比喩だと思っていただけると幸いだ。これはとりあえず、己の身に染みていく確かな感覚を、脳天から降りてくる思考、言葉、表現の速度に沿って、キーボードを打っている一人の人間の話である、と前提を示しておこう。

 僕の創作のコアとなる部分を、拙い語彙力で言語化しておくことは、今後の創作にあたって大きな指標となるはずだ。はっきりと目に見える形で確かめておきたいというエゴイズム。何か、大切なものを忘れてしまった時に、見返したいと思う言葉を、僕は綴っていきたい。


 創作は、常日頃行う、僕のルーティンのようなものだ。小学1年生の頃に漫画を描いて以来、僕は創作の虜になっている。創作物に影響を受けることは数多く、色々な作品に目を通すたび、僕の世界観は、無意識のうちに拡張していった。

 創作は、僕のコンプレックスを肯定してくれる存在であり、僕とともに世界へ飛び出してくれる親友であり、僕の夢だ。いつしか、僕は創作で名を馳せたいと思うようになっていた。僕の作品で、言葉で、キャラで、物語で、世界へ羽ばたいていきたいのだと。

 しかし、それはいつしか、呪縛になっていた。


 僕の創作は、「降りてくる」が基本だ。インスピレーションが脳天をぶち破り、キャラクターが勝手に動き出す。何かを見るとすぐさまアイデアへと変換され、それが蓄積していくばかり。プロットを構築せず、勢いだけで書き進め、到達点は不透明。

 溜まっていくアイデア。加速する勢い。勢いは加速すると、すぐにスピードダウンし、エンストを起こす。アイデアはそこにただ、「有る」だけ。キャラクターの解像度が似たり寄ったりで、バラエティに富んでいない。

 物語に、ならない。

 超弩級アマチュアのくせに完璧主義者の僕は、作品が「書き終えられない」ことに強迫観念を抱き始め、「書かなければ」「完成させなければ」「完璧にしなければ」と、心を自縄するようになっていった。

 インプットもアウトプットも、何もかも、「義務」に取って代わられていった。

「好き」も「夢」も「趣味」も「ルーティン」も、全て。

 

 僕は、自分に自信がない。理由はないけれど、とにかく自信がない。だから、幼い頃から僕の「ともだち」である創作が眠ってしまった時、言葉にならない喪失感を知った。

「ともだち」に強いこだわりがある僕は、現実世界の「ともだち」に馴染めず、心の中で拒絶を繰り返すようになっていた。創作という概念が、唯一、どこを探しても見つからない、僕の親友であり恋人だったから。

 自分たちを「義務」に知らず知らずのうちに変えてしまった僕に、創作は激怒したのかもしれなかった。怒って、泣いて、叫んで、僕を呼んでいたのに。僕はその声に気づくことができなかった。

 僕の世界観では、たくさんの「ともだち」が生きている。彼らは一斉に、眠りについた。想像の世界で、彼ら彼女らは、誰一人、動かなくなった。

 僕はそれが、怖かった。

 自分のアイデンティティが、価値が、レゾンデートルが、消えて無くなっていく……それは、砂場で作ったお城のように。風雨に晒され、誰かに踏まれ、いや誤って踏んでしまい、消えていく。

 僕はずっと、創作と生きてきた。ただ、パソコンと向かうだけで、原稿用紙を触るだけで、シャープペンやボールペン、鉛筆を握るだけで、僕の心は大きく高鳴る。本屋さんに向かうことが、たくさんの世界に出逢うことが、文章を読むことが、キャラを知ることが、

【書くこと】が、

 

 僕は、大好きだった。


 ただ、それだけ。

 僕は、【書くこと】が好き。

【書くこと】で、僕は生きていきたい。現実に不満足なら、満足な世界を創ってやればいい。僕の世界で生きる「ともだち」を、精一杯、死力を尽くして、書き切ってやりたい。

【書くこと】【表現すること】【綴ること】【創ること】。

 どんな快感にも劣らない、僕のエネルギー。

 僕の生きる道。

 僕のエゴイズム。

 僕の「ともだち」。


 ところで、創作はサウナだという話に戻るけれど、どういうことかを軽く。

 創作を本気でやりたいのなら、インスピレーションに任せておくだけでは、何も進めないと、僕は痛感している。今までの個性を殺す気はさらさらない。しかし、進化を遂げる時が来たのかもしれない。新たな感覚と、今までの「降りてくる」感覚の掛け算が、僕を夢へと連れていってくれるメリーゴーランドになるといいなと、邪念まじりに考えているところだ。

 まずは、とにかく感覚任せに「楽しむこと」が最善だろう。意識しすぎて逆に詰まないように。無意識に楽しめたら、僕の勝ちだ。「楽しむこと」に何を掛け合わせていくか。

 それは、「心が整うこと」だ。

 整うから、サウナなのである。あくまでイメージの範疇だが……。

「心が整う」ことは、僕の作品の最初の「完成」に辿り着くにあたって、忘れてはいけない最良のピースだ。心が動いているということだからだ。これを言語化したり、作品に入れ込むことができれば、自分の中で納得できる作品を書くことができるのではないだろうか。もちろん、読者の人を喜ばせたい想いもあるが、まずは作者である僕の心が楽しんでいなければ、意味がないだろう。

 物語の重力にぐいぐい引き寄せられ、縦横無尽に駆け巡る心。夢中になってページを捲る手が離せない情熱。そして、【書きたい】という気持ち。キャラクターや世界観への愛。これらを無限に掛け算していった先に見えるのが、僕の書きたい物語だ。

 【書きたい】という、ZONEに入ることができたのなら、そのZONEの入り口を見極めておいて、創作をする際にすぐに飛び込むことができるようにしておく。その中に完璧主義という障害物があるだろうけれど、そいつは薙ぎ倒してやっていい。薙ぎ倒すくらいの精神力を解き放って、僕は作品を創り続けていきたい。

 喧嘩をしてしまっても、「ともだち」であるのならいつだって、仲直りは、できるのだ。

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