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 おおまかに強敵クラスが四分類と、そこそこ厄介なものが二分類、残る最弱のボール系統という構成になる。すべてに共通しているのが、人間から生命力を奪い取り、自らの原動力としている点である。物理的な手段で倒せるものがほとんどでありつつも、魔法でしか倒せない敵も居るから最低でも三人以上のチームを組む事が有効だ。


 ボールの退治を終える頃、すっかり日が沈んできて、空に星が浮かんでいるのが見える。リーダーが先頭の縦一列になり、すぐ後ろを黄金カブトの男性が、真ん中をツインテール少女と白い髪の少年、最後尾に魔術師と並んでいる。


 草むらを踏みしめて、木々の隙間を歩いていく。薄暗い道中を照らすのは魔法の力だった。魔術師の少年が手のひらを上に向けて、青白く光る小さな炎を手元に灯している。光源として周囲数メートルの視界を確保できている。


 森に入ってから、少女の聞き取りやすい響きの声は絶え間なく続いていた。


「ウィッチくんはいつも魔法の詠唱がスラスラ出てくるよね。噛まないの?」


「詠唱は単なる作業に過ぎない。何度も繰り返した『作業』に慣れないのだとしたら、無能だね」


「そう言われてみると。簡単に思えてきた」


「それはピメが魔法の才に恵まれてるってコト。我々はどっかのバカとは格が違う」


 魔法には系統が三つあり、攻撃・回復・補助から成る。いずれも使えないという、魔力そのものがない人間は稀で、だれしもがなんらかの系統に適性がある。魔法は学問の一つとして、知識量に依存して様々な技を覚えられる。適性がない魔法は取り扱える種類や威力が頭打ちとなり、必然的に得意な系統の修行を進めることになる。


 バカというそしりに、前を歩いていた男が振り返って、会話の最中へ視線で何かを訴えかけている。その攻撃的な圧力さえ歯牙にもかけず、ウィッチと呼ばれた魔術師は鼻を鳴らすだけだった。


「褒められちゃった。……イガロさんは力持ちですよね」


「おうとも。どっかの軟弱者とは鍛え方が違うんだってーの」


 見え見えの助け舟が出され、容易く乗じる彼は上腕の太いことを見せびらかしつつも先ほどのそしりを返してみせた。ウィッチは灯りとは反対の手を掲げて、何やらつぶやいていた。


「切り裂く風は鎌となりて」


 言葉に対応して、手のひらから目に見えない何かが押し出され、イガロという男の方へ向かっていく。見せていた腕に小さな切り傷が生じて、ケガとなる。その対立に挟まれている彼女はとっさに、詠唱を割り込ませた。


「湧き上がることその命の礎とならん」


 呪文が終わると同時に傷は消えていく。回復の魔法が癒やせるのはそれだけである。両者に対して引きつった笑みが向けられる。


「あんなかすり傷くらいで回復してくれなくてもいいぜ。腕立て二〇〇〇回に比べりゃ屁でもねえ」


「……砂塵を降らす黄土、針こそは――」


「各分野での最強の戦士たちがここに居る。その力、今は温存しておいてくれないか、ウィッチ」


 だれにも回収できないと思えた反発の応酬に、先頭の青年の清廉な声音が遮り、ウィッチは押し黙った。これを受けて、イガロもまた頭をかいて視線を前に戻す。両者を順に認めてから、彼は再び前へと歩を進める。一行もまた後に続く。


「さすがはアークシオン様」


 ピメと呼ばれる少女は困り顔を一気に消し去って、目をきらきらさせて、その長身で長髪な後ろ姿をじっと見つめる。彼女が口を閉ざしても、静寂は先送りとなった。


「……最強の戦士が“四人”居ることは明らかだが、彼がなぜこのチームに居るのか理解できない」


 またしても魔術師の心無い言葉だったが、それはイガロに向けられたものではなかった。そう裏付けるように、四人は立ち止まって、一人を見つめている。視線が集中していた少年は目を泳がせて言いよどんでいた。

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