私の妹が世界一尊い件について

@jatp5287nato

第1話

第1話:私の妹が世界一尊い件について

「香織さん、お疲れ様です。あの、この後の飲み会なんですが……」 「ごめんなさい、佐藤くん。私、大事な用事があるの」

定時退社時刻、18時ジャスト。私はオフィスの誰よりも早くデスクを片付け、帰路についた。 大事な用事? 彼氏とのデート? ノンノン。 家に、天使が待っているのだ。

「ただいまぁぁぁぁ!! 優奈ちゃぁぁーん! お姉ちゃん帰ってきたよぉぉ!」

玄関を開けた瞬間、私のクールな仮面は粉々に砕け散る。 リビングには、スマホをいじる妹・優奈の姿。

「……うるさいよ、お姉ちゃん。近所迷惑」 視線も上げずに言い放たれたその言葉。ああ、なんて冷たくて心地よい響き!

「ごめんねぇ! でも聞いて! 今日、優奈ちゃんが好きって言ってた駅前の限定プリン買ってきたの!」 「ふーん。ありがと」

私がスライディング土下座の勢いで近づくと、優奈は「近い、暑い」と顔をしかめた。 しかし、彼女はふと真剣な顔になり、背中に隠していた紙袋を差し出した。

「これ」 「……え?」 「今日、お姉ちゃんの誕生日でしょ」

時が止まった。そうだ、今日は10月24日。自分の誕生日なんて完全に忘れていた。

「バイト代入ったから。……いつも、うるさいし、過保護だし、ウザいけど。……お仕事、頑張ってるのは知ってるから」

優奈は視線を逸らし、ボソボソと続ける。 「おめでとう。これ、ハンドクリーム。お姉ちゃん、仕事で指先乾燥するって言ってたし」

私の目から、ナイアガラの滝のような涙が溢れ出した。

「うわあああん! 優奈ちゃん大好きぃぃぃ! 一生この手を洗わない! 神棚に飾る!!」 「使わないと意味ないでしょバカ!」

私は優奈に抱きついた。 いつもなら全力で引き剥がされるのに、今日は優奈の手が、ほんの少しだけ私の背中に添えられた気がした。

「……ありがとね、お姉ちゃん」

蚊の鳴くような声だったけれど、私の地獄耳は聞き逃さなかった。 一ノ瀬家の夜は、今日も騒がしく更けていくのだった。

第2話:妹の風邪は国家の一大事

『優奈:熱出た。学校早退する』

仕事中に届いた通知を見た瞬間、私の脳内で警報が鳴り響いた。 『緊急事態発生! エンジェル優奈が発熱!』

私は上司の制止を振り切り、光の速さで早退。タクシーで帰宅した。

「優奈ちゃん!! 生きてる!? お姉ちゃんが来たからもう大丈夫だよ!!」 「……ん……うるさい……」

ベッドで顔を赤くした優奈。可愛い……じゃなくて可哀想! 私は冷却シート、スポーツドリンク、高級ゼリー、そして最高級松阪牛(体力用)を床に広げた。

「……買いすぎ……」 呆れる優奈に、私は特製のおかゆを作って運んだ。

「はい、あーん」 「……自分で食べれる」 「ダメです。病人は手を動かしてはいけません。はい、あーん」

優奈は不服そうにしつつも、小さく口を開けて食べた。 「……おいしい」 その一言で、私は向こう10年は戦える活力を得た。

翌朝。 私は完全に風邪をもらってダウンしていた。

「……バカじゃないの。昨日の今日で移るとか」 元気になった優奈が、私の額に冷却シートを貼ってくれる。

「今日は会社休んで。私が学校終わったら、プリン買ってきてあげるから」 「優奈ちゃん……天使……」 「……昨日のお礼。寝てて!」

バタンとドアが閉まる。 妹に看病されるなら、風邪も悪くない。私は熱に浮かされながらニヤけた。

第3話:日曜日の尾行ミッション

日曜日の朝。優奈がフリルスカートを着て出かけた。 普段着ないようなオシャレをして。 **『男』**だ。絶対に男だ。

私はトレンチコートとサングラスで変装し、優奈を尾行した。 ショッピングモールで待ち合わせていたのは、爽やか系の男子。しかもカフェでプレゼントを渡している!

「好き……」「これ、あげる……」

断片的な会話を聞いた私は、我慢の限界を超えて二人の席に乱入した。

「待ったァァァァァ!!」 「げっ、お姉ちゃん!?」

私が男を問い詰めると、彼は引きつった顔で言った。 「い、一ノ瀬の幼馴染の翔太です……。来週、母さんの誕生日で、プレゼントの相談に乗ってもらってただけで……」

完全に私の早とちりだった。 ジャンピング土下座で謝罪し、翔太くんを見送った後、優奈と二人きりになる。

「……帰ろ」 「は、はい……」

嫌われたかもしれない。落ち込む私に、優奈がクレープを差し出した。 「さっき食べ損ねたでしょ。……お姉ちゃんの分も買っといた」 「優奈ちゃん……?」 「心配してくれたのは、分かってるから」

耳を赤くしてそっぽを向く妹。 口いっぱいに頬張ったクレープは、涙とクリームの味がした。

第4話:お弁当という名の芸術

「優奈ちゃんにお弁当を作る!」 そう意気込んだ私は、早起きして愛の結晶を作り上げた。 ご飯の上には海苔で**『優奈 尊い』**の文字。 おかずには、私の顔写真を模したチーズ乗せハンバーグ。

昼休み。 優奈は教室でその蓋を開け、0.1秒で閉じたという。

「ただいまー! お弁当どうだった!?」 帰宅した私を迎えたのは、般若のような顔の優奈だった。

「座れ」 「はい」 「キャラ弁禁止。海苔文字禁止。手紙も禁止。私の尊厳に関わります」

正座で説教されたが、空っぽになった弁当箱を見て、私は心の中でガッツポーズをした。 なんだかんだ全部食べてくれた優奈が、やっぱり愛おしい。

第5話:スパルタ家庭教師と誘惑の部屋

「数学、赤点かも」 その一言で「一ノ瀬塾」が開講した。

「いい? この二次関数は……」 教えようとするが、真剣に悩む優奈の横顔が可愛すぎて集中できない。

「……ねえ。さっきから視線が痛い。ニヤニヤしないで」 「ご、ごめん!」

数日後、優奈が82点のテスト用紙を持ってきた。 「……お姉ちゃんが、しつこく教えるからでしょ。……ありがと」

「優奈ちゃん!! ご褒美のハグを!!」 「プリンだけね。ハグしたら警察呼ぶ」

第6話:在宅ワーク・パニック

在宅ワーク中のオンライン会議。 私は「クールなキャリアウーマン」を演じていた。 しかし、休日だと忘れていた優奈が、寝起きのボサボサ頭&大きめのTシャツ姿で部屋に入ってきた。

「……ねぇ、お姉ちゃん。私のパンツ、洗濯した?」

時が止まった。 画面の向こうの部長も部下も凍りついた。

「あと麦茶ないんだけど」 「ゆ、優奈ちゃん! 今、会議中!!」

優奈は画面に映るおじさんたちと目が合い、「……ごめんなさい」と顔を真っ赤にして逃走した。 私のクールなイメージは崩壊したが、代わりに「世話焼きシスコン姉」という称号を得たのだった。

第7話:お姉ちゃんに春が来た?

(※優奈視点)

最近、お姉ちゃんの様子がおかしい。 残業と言って帰りが遅いし、スマホを見てニヤニヤしている。 そして今日、オシャレをして一人で出かけていった。

「……彼氏とか、別にいいけど」 強がってみるけれど、誰もいないリビングは広すぎて、なんだかモヤモヤする。 私以外の人に、あの暑苦しい笑顔を向けているんだろうか。

「ただいまー!!」 夕方、お姉ちゃんが大きな包みを抱えて帰ってきた。

「優奈ちゃん! これ! ネットオークションで出品者に直談判して手に入れた、限定モデルの一眼レフ!」 「えっ……」 「優奈ちゃん、写真部入りたいって言ってたでしょ?」

彼氏じゃなかった。私のために走り回っていただけだった。 安心して、ちょっとだけ呆れて、でもやっぱり嬉しくて。 私はファインダー越しに、世界一幸せそうな姉の顔を写真に収めた。

第8話:湯けむり卓球死闘編

商店街の福引で温泉旅行を当てた私たちは、箱根に来ていた。

「温泉といえば卓球!」 浴衣姿で始まった卓球対決。最初は和やかだったが、私がスマッシュを決めた瞬間、姉が本気になった。

「必殺! 香織・サンダー・スマッシュ!!」 「……ただの山なりボールだってば」

姉はスライディング・レシーブ(自爆)を繰り返し、壁に激突。 結果は11対2で私の圧勝だった。

夜、露天風呂にて。 「優奈ちゃんがお婆ちゃんになっても、こうやって旅行したいな」 姉が珍しく真面目なトーンで言う。

「……当たり前じゃん。私が誰と結婚しようが、お姉ちゃんはお姉ちゃんでしょ」 「優奈ちゃん……!」 「泣くな。お湯かけるよ」

月明かりの下、バシャバシャとお湯をかけ合う音が響いた。

第9話:はじめてのアルバイト

「バイトする」 優奈の独立宣言に、私は「社会の荒波なんて早すぎる!」と発狂したが、優奈の意思は固かった。

初日。私は変装して、優奈が働くカフェに客として潜入した。 「ハロー。ワン、コーヒー、プリーズ」 「……はい(怪しいなこいつ)」

優奈は完璧な接客をしていた。家では見せない営業スマイル。 感動して泣いていると、優奈がそっとハンカチを差し出してくれた。

「サービスです。涙、拭いてください」 「うわぁぁん! 優奈ちゃん立派になってぇぇ!」 金髪ウィッグがズレた。

「……は? お姉ちゃん、何してんの。帰れ」 つまみ出されたが、渡されたハンカチは私の宝物になった。

第10話:嵐の夜の約束

大型台風による停電の夜。 暗闇と雷に怯える優奈の隣に座り、私は彼女の肩を抱いた。

「大丈夫だよ。お姉ちゃんがついてる」 昔、両親が不在がちだった頃、幼い優奈を守れるのは私だけだと誓った。 それが私の過保護の原点だ。

「……ウザいけど」 優奈が私の肩にもたれかかる。 「ウザいし、恥ずかしいけど。……でも、お姉ちゃんがいると安心する。……昔から、ずっと」

その言葉だけで、私の空回りな愛情が報われた気がした。

電気が復旧し、いつもの明るさが戻る。 優奈はすっと離れ、いつものクールな顔に戻った。

「……冷蔵庫のアイス、溶けてないか確認しといて。半分こしよ」 「了解であります!!」 「お姉ちゃんの分も、私が選んであげる」

嵐は過ぎ去った。 明日もまた、騒がしくて愛おしい日常が続いていく。 世界一尊い妹と、そんな妹を愛してやまない私の物語は、これからも終わらない。

【あとがき】

『私の妹が世界一尊い件について』をお読みいただき、ありがとうございました。 姉の重すぎる愛と、それを受け止める妹の不器用な優しさ。 二人の関係性を少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

これからも、一ノ瀬姉妹を温かく見守ってあげてください。 (でも、お姉ちゃんの暴走にはご注意を。)

~Fin~

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