鈍色のたんぽぽ

蟒蛇シロウ

鈍色のたんぽぽ

 おぎゃあ、おぎゃあ

 灼けた夏の空に、産声が溶けていく

 希望の光

 光の象徴

 天使

 むっふん!


 乳吸いの徒

 頭の猿!

 吾子の鼻水、ジュルルル!


 海の桃はぷかぷかと

 ヒラメの引きずり

 潮の助けてぇ、と愉快な声

 変身!


 大好き兄ちゃん

 僕ばかり

 ぽわぽわ

 目薬処刑


 玉のいたずら

 呼吸の途絶に、逆さ吊り

 ぶんぶんぶんはちがとぶ♪

 静かにっ!


 山賊の池

 網の中でのたうつ鯉

 遠くの友


 しょうがくせいはしょうがくせぇ

 ブロッコリーみたいな猿顔

 カエル名人の悦び

 坊主の爆誕


 毛虫のパスタ

 水辺にたゆたう翁のひげ

 玄関にも広場にも、うんち


 顔をまとめた教師の唾

 白球は悪魔

 球当ての人形は泣いていた

 小さなワニの咆哮

 100点のピザ


 首絞めの苦痛と快楽

 カバに追われ、小さなワニに噛まれ

 走る、走る、太る!


 価値を悟る

 惨めな豚のあがき

 小さなワニの牢獄、小さなワニの威圧!

 嘆きの穴

 されど光を求む


 媚びを知った豚の尻

 笑い声の生んだ慟哭

 車列の最後尾にて、刻を待つ

 小さなワニに、バイバイのお届け!


 屋根の裏の鼠のごとく、小さくたしかに

 黄色い卵と白い卵が豪速で飛ぶ世界

 オスとメスの奪い合い

 吸い寄せられ巻き取られ、止められたあゆみ


 純白、汚れた白

 におい、におい、かたち

 干からびたミミズの脈動

 猪突猛進の歌


 閉じた世界の入り口

 情熱に勝る怠惰

 仮面の正義への憧憬

 当然の勝利


 乾いた笑い声

 鳴り物入りのふやけ顔

 友の声、友の手


 流れる時と放棄の日

 友の春

 栄光の架け橋

 次は、きっと高みで


 孤独の森と丘

 嘲笑、嘲笑、嘲笑

 青い空、黒い雲、白い豚


 敬礼します!

 ごめんなさい、生きてていいですか

 ありがとうございます


 堕落の門を開いた

 嗤う瞳、鳴る鼻、抉る口

 恐怖のみ


 恐怖のみ

 肥大した恐怖、焦燥、自己愛


 輝かしき一族

 生きる術を得た獅子たちに、小さくたかる蟲がいた

 蠅の化身


 私は蠅の化身

 人から豚へ

 豚から蠅へ

 卑小な生命、集り蟲


 成獣まがいの幼獣の餌

 交尾に狂う犬と猫

 侮蔑のチーズと金の陰茎

 妖婦のスイカ


 花を巻く新たな風に揺られ

 窓枠の針の上、小麦たちの叫び

 金喰いの顎生首にお化粧を


 硫黄の湯の鏡月

 阿鼻叫喚の館

 下痢のような水


 嘆きの糞処

 山姥の土あけびが口を開ける

 さまよう蛇の涙


 森への拒絶と発憤

 巨頭短足の妖精

 ロバの鼻穴に動悸の加速


 仙人のような天寿

 新たなる土台での戦い

 戦い、戦い、戦い


 疲弊、虚無

 挫折、懺悔

 意味のない逡巡


 見えた一瞬の光

 狩りを覚えた者の咆哮


 早すぎた別れ

 束のような文と共に

 感謝を


 適材適所の笛の音

 沈む声が少し安らぐのなら、と

 偽りのない心


 言葉、言葉、言葉、言葉、言葉

 言葉が増えすぎ、

 自分が自分でなくなる感覚

 過ぎ去ったモノの吐息が、肩に触れる

 掴んだ岩肌、

 その足に伸びた暗闇の手


 刻を信じ、自らを嫌悪し、見捨てず

 老亀のあゆみを止めず、止めず、止めず

 止めればよかったのに


 生も死も

 総て他から与えられ、他から抜け出せず

 今もなお、聖地を飛び回る

 蠅が如く


 真綿の手綱を握りしめ、いつ引こうか

 無為な刻が静かに終わりを告げるなら——

 あなたはきっと

 そう、きっと


 おぎゃあ、おぎゃあ

 灼けた夏の空に、産声が溶けていく

 希望の光

 光の象徴

 新たな天使

 私ではない、

 けれど確かに美しい天使

 むっふん!

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