エピローグ



 天界 創世神殿-


 どこまでも果てしなく澄んだ美しい青空の下に少年の姿が忽然と現れた。

「お待ちしておりました。」

 観察者の称号を持つ老爺がその場に跪く。

「うぃーっす。どんな感じ?」

「はい。全て滞り無く。」

「そっか。」

 少年が指を鳴らすと背後に純白の御座が現れ、ドカッと腰を下ろした。

 観察者が静かに立ち上がり、神帝の御座の横に控える。

「我が主、神々が到着なさいました。」

「呼んでくれ。」

 次の瞬間、鏡面の様な水面に波紋が広がり五柱神が次々に現れた。

「天神アブル、馳せ参じました。」

「精霊神フェアリア・ローズ、参りました。」

「人神アマンダ・カエラ、現着致しました!」

「魔神ベルフ、罷り越しました。」

「獣神ウルカ、参上仕る。」

「おっす、みんな!」

 神帝が指を鳴らすと五柱神の背後に白い御座が現れた。

「ま、座って座ってー。・・・はい。んじゃー、今から第一回、天界会議始めまーす!

パパッと終わらせよう!」

 神帝が全員の顔を見渡した。

「前に一度だけ俺の家で全員顔を合わせをしたと思うけど、今日は人神、魔神、獣神

が無事誕生したんで、改めて五柱神の顔合わせと、挨拶代わりに自己紹介やら近況

報告やらしてもらおっかなと思ってさ。では早速、アブル君。君からどうぞ!」

「畏まりました、偉大なる我が主よ。私は天族の神アブルと申します。現在、私は

自分探しの意味もあって世界を旅している最中です。先週からビアンカ大陸に渡り、

大陸の南東に棲む獣族、凰虎族の集落で世話になっております。水の需要が満たされ

ておらず、非常に困窮していたようなので、水の水晶石を使って共同水源を造った

ところです。凰虎族の文化や志向は目新しいものばかりで、時が経つのが非常に早い

と感じております。」

 充実した笑みを見せる天神。

「ほー、いいじゃん。何か必要な事があったら念話してくるんだぞ。俺も力になる

からさ。」

「心より感謝致します、我が主よ。」

「次はフェアリアさん。」

「精霊神フェアリア・ローズと申します。神帝様のお傍で守護精霊としての務めを

日々果たす傍ら、最近はアデン大陸の鏡の森に住む精霊達の様子を見て周っており

ます。・・・鏡の森は多くの聖域が点在する稀有な森。人間族の王の特別な配慮もあっ

て、今では精霊達にとってこの上ない住処となりました。その為、急速に精霊族が

増えて来ておりますもので。」

 精霊神が微笑んだ。

「毎日、お世話を受けてて頭が上がりません。ほんとアザマッス!じゃあ次はカエラ

さん。」

「はっ。この度、人神を拝命致しました聖クリシュア王国騎士団所属のアマンダ・

カエラと申します。神帝殿の許可の下、現在も聖クリシュナ王国の騎士としての職務

に留まっている為、人神継承については人間族に公開しておりません。夫のロス・

サイモンと数名の友人のみが知る所であります故、皆様もご承知おき下さい。近況

と致しましては、変事における人間族の盾、また全ての友好種族の盾となる為、日々

精進している次第であります!」

 報告と共にカエラが騎士の最敬礼を見せた。

「了解っす!あ、俺に仕事の依頼があったら遠慮せずにいつでも言ってね。また最近ずーっと給料ドロボー状態だし。次はベルフさん。」

「アスカの地、覇牙族に生まれました、名をベルフと申します。魔神としての召しを

受けた事を誇りに思っております。何よりも人神カエラ殿の筆頭眷属、また我が主の

隣に立つ者として、常に己が牙を研く毎日です。先日はクルアス大陸、マギア地方に

て魔窟の領有を巡り魔族同士による衝突が激化致しました。その影響が種族を超えて

広範囲に及び始めた為、もはや看過出来ぬと判断。カエラ殿と共に海を渡り強制介

入致しました。現在、マギアの地は平穏を取り戻しております。」

 主人を真似てベルフも敬礼をしてから報告を終えた。

「やっぱ人神と魔神が連携してるのはかなりの強みだよなー。引き続きよろしくね!じゃ、最後にウルカ君。」

「小生、人狼族のウルカと申す者。以後お見知りおきを。畏れ多くも神帝様より

獣族の神となるよう神命を賜りました。他種族との共存が難しいと感じる獣族の

各部族に対して、未開拓地であるラッサム大陸への移住を積極的に薦めております。

その甲斐あって次第に呼びかけに応じる者達が増えて来ました。近いうちにラッサム

に移住した同胞達が、各部族の王達により正しく統率されている事を見届ける為、

私自身も部族を率いてラッサムに移住しようと考えております。」

「期待してるぜ、ウルカ。・・・話は変わるけど、その眼は治さなくて本当に良いの

か?」

「神帝様によって両目の光が断たれた事により、救いようが無い程に奢り高ぶって

いた私は、真の意味で悔悛に到りました。この目は見えずとも心の目で物事を見る

事が出来ております。己のけじめ、また縛めとする為にも、この目はどうかこのまま

で。神帝様のお気遣い、深く痛み入ります。」

「そっか。・・・視力を取り戻したいって思った時はすぐに念話してくんだぞ。どこに

居ようとすぐに治してやっから。」

「有難き幸せ。」

「じゃあ、最後は俺だな。っと、その前に紹介しとくよ。隣に立ってるのは天族の

マルドゥクス。知っての通り元創造神だ。今は天界の管理と神獣の世話、理の監視を

任せてる。」

 マルドゥクスが黙ったまま頭を深く下げた。

「で、俺はヒロ。神帝と・・・鏡の森の鎮守様をしてる。基本的には五大種族間の和平

と共生を強く願っているが、誰にも強制はしない。俺や神々が出しゃばってあーだ

こーだって理や規則で縛るような世界にはしたくないんだ。ただし、やりたい放題

してる奴等は無条件で殺す。たとえそれが神でも、だ。」

「御心のままに。」

「首肯致します。」

「同意するぞ、少・・・神帝殿!」

「御意に!」

「御言、肝に銘じます。」

「そんなこんなで、・・・俺はアデン大陸の中心からちょい南西寄りにあるブルクって

村でプラプラしてるからさ、何かあったら気兼ねなく会いに来てくれ。別に念話の

通話でもいいし、いつでも大歓迎だ。まー、近況的なものは・・・たまーにカエラさん

から仕事を請けたりしながら、村のみんなとダベったり、畑を手伝ったり、裏庭で

香草を育てたり、まー・・・フーと一緒にのんびりしてるよ。俺からは以上だ。次回の

天界会議は半年後の満月の夜。会議で扱いたい議題があったら、随時マルドゥクス

に念話で伝える事。マルドゥクスはそれらを纏めて、会議までに議題に関連する

情報の収集を頼む。」

「仰せのままに。」

「んじゃ、今日は解散!お疲れぃ!」

 真っ先に神帝の姿が消えた。

「え・・・もう。いきなり帰るんだから。」

 フェアリアが頬を膨らませた。

「では皆様、ご機嫌よう。」

 精霊神は片足を引いて軽く腰を屈めると、神帝の後を追うように美しい波紋を

残してフッと消えた。

「さてと・・・では私達も戻るとしよう。ベルフ、このまま夜食でも食べに行かない

か?今夜は駐屯地の前に美味い麺屋の屋台が出てるんだよ!」

「おっ!御意!」

「それではアブル殿、お先に失礼します!ウルカもまたな!」

 人神と魔神が敬礼を見せて、姿が消えた。

「いやはや、賑やかな五柱神が揃いましたねえ。」

 アブルが微笑んだ。

「ええ、本当に。・・・熟練度上げの時も騒がしいのなんので、小生も一気に若返った

気分です。」

 ウルカが苦笑する。

「アブル殿、若輩者ですが今後共ご指導ご鞭撻の程をお願い申し上げたく。良かった

らラッサム大陸にもお越し下され。獣族をあげて歓待致しますので。ではまたお会い

しましょうぞ。」

 獣神が深く頭を下げてから、その姿が消えた。

 神々を笑顔で見送った後、アブルは俯いて立ち竦む老爺に近づいていく。

 思わずマルドゥクスが顔を上げた。

「言うまでも無く、私の愛と忠義は全て偉大なる我が主、神帝様にあります。・・・

ですが-」

 アブルがマルドゥクスを見つめて微笑んだ。

「私を誕生させ多大の愛を示して下さった事、そして一度死んだ私を自由意志を

持つ者として復活までさせて下さった事は決して忘れておりません。心より感謝

致します。・・・ありがとう、父さん。」

 思いもよらぬ言葉に老爺は驚きの顔を見せ、返す言葉を見失う。

「はは・・・。何というか、こういうのを「気恥ずかしい」と言うのでしょうね。

では、行って来ますね。」

「気を付けて・・・な。」

 かつて創造神と呼ばれた者は、愛する独り子が残した波紋を見つめながら静かに

肩を震わせた。









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