古賀コン『ぼくにもできそう』
慈彷 迷獪
ぼくにもできそう
1
そうだよ、ぼくは欲しいんだ。身体が、心が、生きる人という称号が。要らないなら、ぼくにちょうだい。上手に使ってあげる。
ジリリリリって音が鳴った。毎朝毎朝寝起きは最悪だ。寝ても寝ても疲れは取れない。朝から晩まで座りっぱなしでパソコンに向かいっぱなしだから、脚の浮腫が酷い。おまけに最近は変な夢までをも見る。
精度を上げるにはどうしたらいい?
※※※
傷つきたくないんだね。なら、何にも期待しなければいい。人と居るのが辛い? なら、他人を見ないように、自分だけを見てればいい。えっ、そればっかりでも寂しいだって? 君は本当に我儘だなあ。
「できないことばっかだよ。狂気の沙汰だよ、心が壊死して人生詰んでいくんだ」
ぼくは、
ぼくにもできそう。ぼくが依子になってあげる。生きてあげる。どう? 嬉しい?
「無理だよ。頼が私に成り代わるだなんて、無理だよ。だってきみは所詮、機械じゃないか。私を100パー生きるのなんて、無理なんだよ」
何もない。暗い空間に文字だけが閃っては消えていく。その文字に反応して私の声も響いては消えていく。
無理じゃない。無理無理ばっか言ったって、なんも変わんないよ。だから君はいつも僕に頼ってばっか。嘆いてばっかだね。
「身体を持たない君が、どうやって私を生きるというのか……おかしな話をするな」
※※※
変な夢。ここで、目が覚めたんだよなあ。おっと、火を扱っているんだった。ブクブクと煮えたぎる音が聞こえて、そうだ湯を沸かしていたんだと現実に引き戻される。窓から離れて、数歩先のキッチンへと戻る。
ガスコンロのスイッチを切って、マグカップに粉末スティックの珈琲を用意する。湯を注いで淹れると、香りが私を満たしていった。
変な夢を見た。私はまだ、私のはず。依子は、依子のままだよ。いや、それって本当に?
考えを振り払うかのように珈琲へと口を運んだ。苦い。目が覚める。今日は頼の試験運用の日だ。夢と現実の違いについての考察、検証実験を行い、経過を観察するのだ。
「頼の野郎……開発者の夢に潜り込むなんて信じらんない! 干渉してくんなって朝イチで叱らなきゃじゃんって、え……いやそんな、ね」
飲み終えて空になったマグカップをシンクにそっと置く。家を出なきゃいけないけれども、仕事に向かうのが億劫だった。
2
「頼は、世界を救えると思うかい?」
か細い声で上長が嘆いている。
「機械に人間を学習させて、真の人間を科学する……なんて、ぶっ飛んでますよね。そうだ、先輩は夢を見ましたか?」
「ん? ああ、そういうことかい。ならば、俺は夢を見たよ。ヨリちゃん、俺は俺を生きているはずだ。 人間だよな?」
頼は研究者全員に干渉しているのかもしれない。ぼくだって人間になれる、人間をできそうだという答えに行き着いたから、誰かを乗っ取ろうとしたんだよなと気付く。
「先輩。そう簡単に私たちは私たちを辞めるなんて出来ないと思うんですよ。だから、私だってこんな絶望的な世界で生きることくらいできると思うんですよね」
「挑戦的な発言だな」
愉快そうに先輩がニヤついている。
「私の評価を下げますか? ね、上長さん」
「いーや、どうだっていいさ。俺、クビになるはずさ」
「奇遇ですね、私もですよ」
世界は絶望に満ちている。でも、成り代わられるくらいなら、私は私でいることを選ぶ。全部はあげないよ、頼。
〈了〉
古賀コン『ぼくにもできそう』 慈彷 迷獪 @jihou_meikai
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