特権の行使

第30話

 六月中旬。

 サマーモデルの新商品がテレビや雑誌などに取り上げられ、様々な商品の欠品が相次ぐ中。

 四半期決算月ということもあって、まだ月半ばだというのに経理部は既にピリピリとした空気が漂う。


 資材部や営業部、製造部や企画部の社員は、取り扱い競技の種類に比例してスタッフの人数も多いが、経理部は少数精鋭。

 毎月各部署からの膨大な書類や伝票を処理していて、機械化が進んでいるとはいえ、さすがに激務だ。

 部長が毎月のようにスタッフの増員を掛け合っているらしいが、人員が増えるのはいつになることやら。


「鮎川、頼んでおいた有価証券の報告書はどこだったっけ?」

「パソコンの左側のブルーのファイルです」

「鮎ちゃん、役員会議資料は出来てる?」

「今朝、机の上に置いておきましたけど」

「あれ、そうだっけ? ……あっ、あった! ごめんね~、予算報告のファイルと一緒になってた」

「先輩、お忙しいところすみません。買掛金一覧のデータをご確認頂けますか?」

「あ、はーい」


 下山部長、前島課長、和田さんから次々と声がかかる。

 派遣社員の人達は黙々と伝票処理を行っていて、経理部全体が戦場と化してる雰囲気だ。


 本来ならば月半ばは連休を取って過ごせるはずだが、今月はそれも返上だ。


「連休は暫くお預けだが、できるだけノー残業で頑張ろう!」

「部長、あとでご馳走お願いしますよ~?」

「あぁ、分かってるよ」


 前島課長がすかさず飴を要求する。

 これもいつものことだ。


「鮎ちゃん、この間オープンした串揚げ屋さん、何て言ったっけ?」

「轟、だったかな?」

「そこ、予約入られるか確認しといてくれる? いいですよね? 部長」

「ハハッ、相変わらず強請り上手だな。鮎川来月半ばに予定組んでくれ」

「はい、分かりました」

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