第31話

 十八時半を回り、部長の掛け声で締め作業が行われている。


 二週間ほど前に制裁が下ったことにより、誹謗中傷や悪質ないじめ行為はぴたりと止んだ。

 というよりもあの一件以来、楢崎の社内での人気が爆上がりした。

 それまでもイケメンでモテていた彼だが、冷徹王子と言われるほど性格に難アリな人物であったのに、今は『五年間の片想いを実らせた一途な王子』という勲章まで獲得したようだ。


 おかげで、女子社員から羨望の眼差しを向けられることはあるものの、比較的に友好的な雰囲気の中、仕事に集中できるようになった。


『もうすぐ終わるよ』

『俺も上がるから、ロビーで待ってて』


 あの日以来、頻繁に連絡を取り合う仲になった。

 彼の仕事や私の習い事など、特別な用事がない限り、こうして待ち合わせして一緒に帰ったり、夕ご飯を一緒に食べたりしている。


 仕事を終わらせ、一階のロビー脇のソファに腰掛ける。

 退社時間ということもあり、帰宅する大勢の社員を眺めていると。


「ごめん、遅くなった」

「私もさっき来たとこ」


 横を通り過ぎる社員の視線がチラチラと向けられる。

 けれど、これらももう慣れた。

『噂のカップルだ』『いいよね~相思相愛で』『楢崎さん、今日もカッコいい』などと耳を澄まさなくても聴こえて来るからだ。


「メシどうする?」

「ラーメン以外なら何でも」

「昼、ラーメンだったの?」

「うん、部長に連れられて区役所前のラーメン屋さんに」

「あー、あそこ旨いよな」


 自然に横を歩く楢崎。

 手を繋いだり、腕を組んだりはしないけれど、『同期』とは違う空気を纏う。

 傍から見たら完全に『彼氏』に見えるよね、きっと。

 けれど、何がそう思わせるのだろう?

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