第10話

「あれ? 瞳もこれからなの?」

「うん」


 いつもよりかなり遅めのランチになってしまい、社食に知り合いはいないと思っていたのに。

 休憩時間が遅めだったのか、それとも顧客対応で今時間になったのか。

 瞳が疲れた顔で小鉢のコーナーをウロウロしていた。


 時間的に日替わりランチもレディースランチも完売していて、仕方なくパスタとサラダをトレイに乗せる。


「GWも仕事なんだよね?」

「後半は休めると思うけど、前半は仕事かな」

「経理部勤務の性だね~。あ、そう言えば、楢崎とはその後、どうなの?」

「どうなのって?」

「えっ……デートの約束とかしてないの?」

「……特には」

「えぇ~っ、せっかくの連休なんだから、どこか連れてって貰えばいいのに」

「彼には彼の予定があるでしょ」

「それじゃあ、ただの同期と何ら変わらないじゃん」


 いや、私ら別に、変化を求めてないよ。

 今まで通り、何ら変わらず、平凡な日常を送れたらそれで満足というか。


「おかしいと思ったんだよね~」

「何が?」

「あの楢崎が、“俺と付き合うか?”だなんて、天地がひっくり返ったと思ったもん」

「あぁ、……うん、私も思った」

「付き合うフリっての、よくあるけどさ。私は二人、本当に相性いいと思うんだけどなぁ」


 瞳は恋愛体質というのか。

 すぐに思考がそういう方向に向かう。


 とりわけ、彼氏がいないと困るというものでもない。

 あれは、お酒の勢いで了承したというのもあるから。


「そんな直ぐのすぐに関係性が変わるとか、無いんじゃない? 別に好きで付き合い始めたわけじゃないんだし」


 一応、フォローはしておこう。

 タクシーで送って貰った御礼だと思えば、これくらい何てことない。


「そういうものかな……?」

「そういうものだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る