第9話

 週明けの月曜日。


「鮎ちゃん、悪いんだけど、資材部に伝票の提出催促してくれる?」

「はい、分かりました」

「それと、送金予定の最終チェックも」

「はい、これが終わったらしておきます」

「……ねぇ、この珈琲って、私が淹れたやつだっけ?」

「……フフッ、三十分ほど前に、私が淹れたやつですよ」

「あっ、やっぱり? 今日は休憩ブース行った記憶がなかったから、おかしいなぁとか思ったんだよね~」


 経理部の直属の上司(課長)である前島まえじま はな、三十三歳。

 二年前に離婚して、今は五歳児(辰希たつきくん)を育ててるシングルマザー。


 仕事はバリバリできて、カッコいいお姉さんといった感じの見た目だが、性格は意外と天然なところある。

 そのギャップが結構可愛くて、ついついお節介焼きたくなってしまうのだ。


 明日は昭和の日で祝日だし、明後日は月末日、その翌日から魔の忙殺期間(月初の業務)が待っている。

 GWだなんて世間では夢の連休かもしれないが、経理部に勤務していたら、年末年始もGWも仕事に追われるのは当たり前。

 その代わり、月半ばにずらして連休を取れるという利点もある。


 祝日や連休を一緒に過ごしたいと思う相手がいるわけじゃない。

 混雑する中、どこかに出掛けたいとも思えないし、空いてる平日に三連休取れたりする方が私的には好都合。


 領収書の整理を終わらせ、資材部に催促の内線を入れ、送金予定の最終チェックを行う。


『WING』は大手企業だから、職場環境には恵まれている。

 福利厚生はもちろんのこと、些細な業務一つ取ってもデータ化が進んでいて、手書きで帳簿を記入する手間が最小限に抑えられている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る