主人公・エリート捜査官の中川理沙に辞令が下りた。上司から伝えられた業務は少女シラユキを護衛・監視するもの。彼女は学校で陰湿ないじめに遭っており、たびたび体調を崩していた経緯を会議で知ることとなる。
受け取った報告書の記載は荒唐無稽かつ常識の範疇を大きく超えており、自分を陥れるためのドッキリ企画と見紛うものであった。
これらは本当に事実なのだろうかと……疑い深くなる理沙。
いじめは本来、教育行政の所掌なのに、対象児童「シラユキ」は国家安全保障上の特異ケースであるという異例の事態に。
極みつけが、首相から「なんとかしてやれ」との政治判断が出ているという重大な事案でもあるから何とも末恐ろしい。
いい年をした上層たちが小学生のいじめ問題を大真面目に語り合うシュールな会議。
なぜここまで「シラユキ」という少女に熱が入るのか?
首相の「なんとかしてやれ」の中身が語られないもどかしさ。
特定の一人だけを国家総動員で「特別扱い」するなんて、違和感でしかない。
その違和感の正体とは?
事実と虚構との境界が崩れ、次第にあいまいになっていく。
浮かび上がる疑問から生じる謎の数々……そしてラストで明かされる真実。
ぜひ、あなたの目で確かめてみてください。
任務を与えられたエリート警部・理沙は、少女の周囲で次々と起こる“説明不能な現象”に直面し、常識の基盤が揺らいでいく。
いじめ、監視、怪異、国家の思惑――すべてが静かに絡み合う現代異能サスペンス。
国家機関が小学生を監視するという異様な導入から、一気に読者を“現実の外側”へ連れていく物語。
理沙の視点を通して、日常の裏に潜む異常が少しずつ輪郭を帯びていく過程がとてもスリリング。少女の純粋さと、彼女を取り巻く存在たちの只ならぬ気配が対照的で、読み進めるほど不穏さと魅力が増していく。最後には静かな衝撃が訪れ、ページを閉じたあとも余韻が長く残る一作。
本作には、分かりやすい善も分かりやすい悪もいません。主人公の理沙は、官邸・官僚と組織の論理の狭間で揺れ動くキャリア捜査官(つまり警察官僚)です。
『子どものいじめ』という、時に(特にこのカクヨムのような場では)感情的に過大評価されがちな事案を、権力を持った大人たちが、権力をもって介入する様は、実に『大人のコミカル』です。
やがて半グレや人外も参加して、暴力の応酬も起きます。それがSNSで拡散され、それに国家権力が介入しようとして、権力のセクション間で緊張が起きたり……結末も一筋縄ではいきません。
本作はこのカオスぶりを楽しむのが筋だと思います。勧善懲悪はありません。実に『大人の愉快』です。お勧めです。
この作品は、
読んでいる最中に涙が出るタイプの物語ではありません。
でも、
読み終えたあとに、
気づいたら胸がぎゅっと締めつけられている。
そんな物語です。
登場人物たちは、誰も冷酷ではありません。
むしろ、みんな必死で、真面目で、
「間違えないように」行動しています。
それなのに、
少しずつ、少しずつ、
取り返しのつかない距離が生まれていく。
この物語がつらいのは、
悪役がいないからです。
責める相手がいないからです。
「守りたかった」
「助けたかった」
「正しいと思った」
その気持ちが積み重なった先に、
何が残ってしまうのか。
ラストは多くを語りません。
だからこそ、
読者の感情だけが置き去りにされます。
読み終えたあと、
すぐに別の作品を読む気にはなれないかもしれません。
でも、きっと心のどこかに残ります。
静かで、優しくて、
どうしようもなく切ない物語でした。
「泣かせよう」としていないからこそ、
気づいたら泣いてしまう。
そんな一作です。