止まった時間と動き続ける秒針

金食い虫

止まった時間と動き続ける秒針

 土砂降りの雨の中、走ることもなくトボトボと歩く人影がいた。その男は20代半ばといったところで、少しよれたスーツに身を包み、生気を失った目でバス停を見やる。


 「雨宿り、するか」


 バス停につき、座り込んだ男はその隣の席に使い古した機械仕掛けの時計が置かれているのを見つける。


 「あれ、誰かの忘れ物かな」


 くたびれた声でそんな事を言いつつどうでもいいか、と目をそらしただただ無感情に地面を見る。ザーザーという雨音と微かに聞こえるカチッカチッという時計の音が耳に届く。常人より良いらしい耳は拾いたくない音を、急かさせる時計の音を捉えてしまう。


 「くそっ」


 悔しさから声をこぼし、雨音と煩わしい時計の音が聞こえる世界が戻ってくる。


 「なんで、こうなっちまったかな」


 男は就活をしており、今回の面接も望み薄だろうということは察せられた。


 本当に笑える。これが昔は天才と呼ばれていた男か。とつぶやき頬を流れる涙を拭う。


 男は地頭が良かった。だが、絶望的なまでに努力の才能がなかった。


 直感的にわかってしまえた中学の1年次あたりまでは天才でいられたし、そこから努力ができれば天才のままでい続けられただろうが、結局は1段階難易度が上がった中学2年次で男の成績は平凡に。また更に1段階上がった3年次では定期テストで最下位争いをするほどまでに落ちぶれた。そして高校受験。男は男なりに努力した。大丈夫なはず。そう信じて受けた高校にすべて落ち、通信高校への進学が決定した時点で男の心は折れてしまった。


 男は逃げた。まず、家から出なくなり、ネットから離れられなくなり、部屋から出なくなった。それからはあっという間に月日が流れ、20といくつかになった男の下に訃報が届けられた。


 一緒に暮らしていた母親の訃報だった。落ちてきた電光掲示板の下敷きになったらしい。そんな話を聞きながら男が思ったことといえば、ついに働かざるを得ない時が来たか。だった。


 そんなこんなで就活をし始めた男を雇う会社も最初こそはあったものの、自主退職したという実績が積み重なっていくたびになくなっていき、今につながるわけだ。


 「なんで俺はこんななのかな」


 もういっそ死んでしまおうか。そう考え、そしてビュンビュンと車が走る道路に足を向けるも立ち上がることすらなく断念する。


 「俺は死ぬことすらもできないんだな」


 何度目とも分からない失望の言葉を自分に投げかけるも心は動じない。


 「俺は努力をせず時間を浪費しただけだったな」


 そんな事は引きこもり始めた時点で既にわかっていた未来だが変えることは叶わなかった。自分は本当にどうしようもないやつだと思い込む。


 今後、男は後悔を引きずって生きていくことになるだろう。努力ができないと思い込んで努力をせず、浪費しただけだった時間を惜しみながら。





あとがき

筆者は決して通信高校が行っては駄目な場所だと考えているわけではありません。なんなら筆者が通ってる通信高校は楽しい場所だと思っています。

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