【短編】トラウマ

高天ガ原

夢の中

 目を閉じて時間が幾ばかりか過ぎた頃に、私はふと自分が真っ暗な世界に閉じ込められていると気づいた。


 ただ、出口もない場所にいた記憶もない。私は暗がりの中を手探りして、外への入り口を思い出そうとした。壁を叩いてみたり、床を踏みしめてみたり。そんなことをしながら私は閉じ込められた世界を知っていく。


 この世界は小さい部屋のようだ。机もあり、床に散らかしてしまったが工具なども置いてあった。部屋の壁を伝って歩くと、さまざまな額縁があるのも分かった。何の絵が入っているかも分からないが美術館にあるような大きいものから写真立てのようなものまで数多くあり、何を飾っているのか気になって仕方ない。


 私は勇気を出して壁を離れてみると、部屋の中央あたりで何かにぶつかった。手探りしてみると……はしご?

 不審に思いながら私ははしごを登る。すると、天井にドアノブがあった。


 どうやら、私は地下に住んでいたらしい。


 ノブを引いてみると、光が差し込んできた。外は明るいようだ。もう少し明るい世界が見たくて私はドアを引く。すると、一人の子供が駆け寄ってきた。


「やっと来たね。これ、あげる!」


 幼児は無邪気な笑顔で何かを放り込む。慌てて私が部屋を見下ろすと、放り込まれたのは……私を模した人間の切断遺体だった。思わず声を失う。だが、幼児はニコニコして手を振ると何処かへ消えていった。


「待って……」


 そう呟いた時には私は全てを認識していた。光が差した部屋にあったのは、


「なんで……!」


 そう呟くようなものばかりが並んでいた。自棄になって援交したときの醜い自分やいじめられている時の写真など、誰も撮っていないはずの自分。


「ああああああ!!」


 自分の絶叫で目が覚めた。何事かと駆け込んできた親に私は泣きつく。


「私ね! バラバラの私を直さないといけないの! 私ね! 辛いものが残ってるの! 私ね! 私ね!」


 過呼吸気味の私を親は必死になだめた。何があったかなんて言えない。隠してきたことだらけだ。

 世界は明るく暖かいというのに。冷たい自分の切断遺体を拾うように、私は惨めだと思い知らされた。

 もう、夢なんて見るものか。


 その後、親が寝かしつけようとしたが、その日から私は不眠症になった。

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【短編】トラウマ 高天ガ原 @amakat

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