声は届かない

ポテトマト

本文

僕も、あんな風に飛んでみたいと思った。

羽根のもげた鳥のように。

枯れた草木のように。

楽しそうだと思ったから。

だから、少しだけ真似をしただけなのに。

——馬鹿なことは止めなさい。

声を出しただけだった。

お腹の底に眠る独り言を、大きな声で。

——幽霊にでも取り憑かれたの?

僕には、ずっと見えているのに。

張り裂けるような叫び声を出してしまった。

誰も、本当に気づいてないの?

——走り回って、変なポーズを取って。

空を飛ぶ鳥が、吸い込まれるように消えた。

街のスピーカーの歌が終わらないように。

まるで、皆で悪夢を見ているみたい。

——どうして、そんなに空を見上げるの?

皆で俯いて、恨み言をずっと。

機械のノイズが人々を慰めるように。

——私も叱られちゃうわ。

空は、画像を貼り付けているみたいに鮮やか。

食べるものにも困らない。

——私も、あなたも。

でも、僕は見つけてしまった。

足に手紙を付けた鳥が、空を目指して飛ぶ。

そして、編集を加えられた写真のように忽然と姿を消した。

本当に、何も感じていないの?

——この街で暮らすしかないのよ?

この街の外はどうなっているのか。

夜中に目を瞑った途端、どうして赤くて波のような幽霊が見えるのか。

子ども達が羨ましくて仕方がなかった。

どうして、僕は歌っちゃいけないんだろう?

大人達は揃って、頭上の青い空から目を逸らすのだろうか?

こんなにも、綺麗だというのに。

叫びたい気持ちはこんなに溢れているのに。

僕にも、出来るのだろうか。

空は飛べないけれど。

——止めなさい。

少しだけ、空気が震えたのが見えた。

微かに漏れた声が。

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