第5話 ふたりで一組のチカラと、愛すべき妹の才能
ランドフィクサー、こと美の部屋のベッドで、こと美が寝ている。
◇
わたしは、自分のベッドで目を覚ました。
「えっ? どうして? わたしは空から落ちたはずなのに!」
不思議に思っていると、アユ美が入って来た。
「あっ、お姉ちゃん。目を覚ましたんだね。ランドフィクサーのお仕事お疲れ様でした。
【わたしのおねえちゃんは、ランドフィクサー ~大地の修理屋さん~】
だなんて、わたしは自慢できるよ」
わたしは念のために、アユ美に聞いてみた。
もしかしたら、なにか知っているかもしれないからだ。
「ねえ、誰が私をベッドに運んでくれたの?」
アユ美は目を輝かせながら返事をしてくれた。
「ランドブレイカーって言う黒いマントを付けた男の人だよ。
あんなカッコいいお兄ちゃんが仲間だなんて、うらやましいよ」
わたしは、ムカッとして言い返した。
「あいつは、みんなの敵よ」
アユ美は、訳が分からないような顔をしながら、こう言った。
「それは無いと思うよ。
だって、あんなにお姉ちゃんを大事そうにお姫様抱っこして、ベッドまで運んでくれたんだよ」
わたしは、意味が分からなかった。
「えっ? どういうこと?」
アユ美は、わかったような顔をした。
「おねえちゃん、また、ひとの話を聞かなかったの?
【物
という意味を込めて、【こと美】という名前にしたと、
お父さんが説明してくれたよね?」
わたしは頭をかくしかなかった。
「それを言われると、つらいわ」
わたしとアユ美の中で、ランドブレイカーの話題は、しばらく保留となった。
◇
最近、地震が無くて平和だったから、そのことを忘れていた。
しかし、地震は突然やってきた。
震源地は、私たちが住む町と遠く離れた県だった。
テレビのニュースは、一日中、地震の話だった。
ランドブレイカーが壊して、わたしが直したトンネル、水道管と道路は、地震で壊れないくらい丈夫に直っていた。そのおかげで、震源地への行き来ができて、被害が最小限に抑えられていた。
しかし、建築してから、50年以上の古い家の多くが壊れていた。
アナウンサーAが、「これらの壊れた家も、神様が直してくれたら良いですね」と言い、
アナウンサーBが、「そうですね」と答えた会話が、耳に残った。
わたしは、壊れた家を直すために、ランドフィクサーに変身して、現地に向かった。
そして、いつものように直そうとしたが、なにも直らなかった!
『どうして? この間の道路を直したときにチカラを使い切ってしまったのだろうか?』
そう思い悩んでいると、声を掛けられた。
「あの壊れた家を直すことはできないよ。なぜなら、俺が壊したものじゃないからな!」
振り返ると、手を伸ばしても届かない少し離れた場所(乙女の安全距離の外)に、黒いマスクに黒いマントのあいつがいた。
わたしの宿敵、ランドブレイカーだ。
アユ美に注意されたばかりだったので、話を聞く気が有った私は、彼に質問した。
「壊したと認めたわね。でも、直せないって、どういうことなの?」
あいつは、
『おお、やっと聞く気になったか?』
というような驚いた顔をしてから、答えてくれた。
「俺は、設備や機械の寿命を知ることが出来る。
そして、壊れる時間帯を少しだけずらすことが出来る。
トンネルのときは、誰も通らない深夜にした。
水道管のときは、朝ごはんが済んだ10時ごろにした。
道路は、早朝の明け方にした。
このチカラのおかげで、犠牲者を出さずに済んだんだ。
そして、ランドフィクサーは、俺が壊したものに限り、元通りに、いいや、全盛期の状態に直すことができるんだ。
ふたりで一組のチカラという訳だ」
話をよく聞いて、物事を正しく見ようとして真剣に聞いた結果、彼の話は私の納得が行くものだった。
「じゃあ、あなたが壊せば、直せるのよね?」
ランドブレイカーは、
「話を半分しか聞いていないのか?
でも、ゼロよりはマシか?」
と大人の対応をしてきた。
「大事なことだから、もう一度言うぞ。
俺は、寿命で壊れる設備や機械が壊れる時間帯、言い換えると、タイミングをずらすことができるだけなんだ。
正しく機能している設備や機械を壊すことは出来ない」
わたしは、気が付きたくない真実に気付いてしまった。
「もしかして、この災害地で、私たちにできることは、なにもないってことなの」
ランドブレイカーは、嬉しそうに答えた。
「やっと、話が通じて良かった」
わたしは無力感を覚えて、身体中のチカラが抜けて、その場に座り込んでしまった。
「そ、そんな、じゃあ、わたしがここまで来たことって・・・」
ランドブレイカーは、わたしを慰めるように、諭す様に話し始めた。
「そうだな、なんと言うべきか。
骨折り損のくたびれ儲けだな。
でも、キミが直したトンネル、水道管、道路のおかげで、災害地への支援活動は順調だ。
そのことは、誇っていいんじゃないか?」
わたしは、気を取り直して返事をした。
「そう思うことにするわ」
その返事を聞いて、満足そうな彼は、余計なことを言ってきた。
「この疲労感で、途中で気を失われても困るので、家まで送らせてもらうぞ」
わたしは、少し、ムカッとして気分を悪くしたが、考え直した。
『彼は、1kmの道路を修理して、気を失った私を助けてくれた。
そして、王子様のように私を大事にお姫様抱っこで、家まで、いいえ、わたしのベッドまで運んでくれたと、アユ美に聞かされた。
ということは、彼は信用できる。
万全の体調ではない私にとって、これ以上ない同行者だ』
わたしは、彼の好意を笑顔で受け取ることにした。
「助かるわ。よろしくお願いします」
彼は、照れくさそうに笑った。
「ノープロブレム。問題無いよ」
◇
わたしを心配した彼といっしょに空を飛びながら他愛ない話をしたが、想像していたよりもずっと良いひとだった。
今まで彼に悪い感情を向けていた私は何だったんだろうという疑問と、時間の無駄遣いをしたことで、疲れ切っていた。
彼の温かい人柄を知ることができたという報酬というか成果が無ければ、彼の言う通り、この広い空のどこかで、行き倒れていたかもしれないと思った。
◇
二人は、こと美の家に到着した。
わたしは、
「お茶でも出すから、寄っていかない?」
と愛想よく、彼を誘った。
すると、彼は、うれしそうに、申し訳なさそうに返事をしてくれた。
「今日は、疲れているだろう。
だから、次にあるときに、誘って欲しい。
楽しみにしているよ。
じゃっ!」
彼は、お茶の誘いを遠慮して、カッコよく去っていった。
◇
わたしは変身を解いて、家の中に入った。
「ただいま」
わたしの声を聞いて、妹のアユ美が駆け寄ってきた。
「おねえちゃん、これ読んで~」
わたしは、【2の倍数の日は、異世界で恋愛します。】というマンガを見せられた。
パステル調の淡い色調が綺麗な少女マンガで好感が持てるキャラクターデザインだった。
王子様は美形だし、主人公の女の子も多くのひとが好ましいと思える素直な性格に描かれていた。
ストーリー展開も見事だった。表紙を含む全17ページでオールカラーだった。
コマ割りを見れば、そのまま【ボイスコミック】にできそうだった。
わたしの小説も、この形で発表出来たら、今の10倍の読者を引き寄せることが出来そうだ。
妹だから、わたしよりも未熟だからと支援してきた私だけれど、心の底から嫉妬の感情がふくらんできた。
『マンガを描くちからがあるのかもしれないけれど、プロのマンガ作家に比べたら、まだまだ力不足よね』
と言おうとして、ハッっと思い出した。
そう、ランドブレイカーの言葉をだ。
『比べる相手を間違ってはいけない。正しい評価ができなくなるからだ。
俺は、「ライバルは昨日の自分」という姿勢が好きだ。
比較相手として意味があるし、今後の進歩につながるからだ。
だからな。 神様のチカラには及ばないという考え方はやめた方がいい。
「大地をなおすチカラがある」
そんな、ランドフィクサーにも直せるものと直せないものがある。
それでいいじゃないか。
それでも、俺たちが神様からもらったチカラは素晴らしいものだと、素直に喜べばいいんだよ。
たとえば、将棋や囲碁に強いクラスメイトに負けたとき、
「でも、プロには勝てないんだから、たいしたことないな」
という言い方はしないだろう?
今よりも少しでも良い状態になるために、一歩でも前に進むために、目指す先との差を比べるんだよ。 遠すぎる場所と今いる場所を比べても、やる気を無くしてしまうだけだから、比べない方がマシだ」
家に帰る道中での彼の言葉から感じたことは、
『彼は人格力が高く、彼のような考え方をするべきだ』
と、こころから好ましく思ったことだった。
わたしは、愛すべき妹に、【間違った相手と比べた感想】を言ってしまうところだった・・・と大いに反省した。
「どう? わたしが描いたAIマンガは?」
そう言う妹の目は、期待に満ちていた。
私からの賞賛の言葉を待っていることは、明らかだった。
わたしの正体というか使命を知って、いっしょに喜んでくれたときの笑顔を思い出した。
「わたしのおねえちゃんは、ランドフィクサー ~大地の修理屋さん~」
『わたしのことを、自分のことのように喜んで祝ってくれたアユ美を大事にしたい。
とても良い思い出だ。そう、アユ美は、私を応援してくれる味方だ。』
このことを思い出したとき、わたしのこころは澄み渡った秋の空のようになった。
「なにもかも素敵だわ。
王子様も美形でカッコいい。女の子もかわいい。
コマ割りも読みやすいし、セリフの配置も迷わずに読める1本の流れになっているわ。
もう、最高よ。
わたしも、こんな風なマンガを描けたらいいのにな。
ねえ、わたしの小説もマンガにしてくれないかなあ?」
「いいの? うれしい。 うん、まかせてよ!
プロのマンガ家先生のようには行かないけれど、おねえちゃんの作品だったら、大ヒットするわ」
アユ美は、嬉しそうな笑顔で、台所に駆けていった。
「ママー、お姉ちゃんの小説のマンガ、私が描いてもいいって」
「おめでとう。よかったわね。がんばってね」
「うん、がんばる」
おわり
【完結】おねえちゃんは、ランドフィクサー ~大地の修理屋さん~ サアロフィア @Surlofia
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