くいず

ヤマ

くいず

 さて、何でしょう。



 「それ」はいつも、あなたのすぐ近くに存在します。

 音を立てず、ひっそりと触れられない距離を保ちながら、ただ存在しています。



 「それ」を認識してはいけません。

 「それ」は、気付かれることを望んでいます。次の段階に移行する合図だからです。



 「それ」を見てはいけません。

 視線が交差した、と「それ」が確信したとき、あなたは「それ」の所有物となります。



 「それ」に手を伸ばしてはいけません。

 接触が成立した瞬間、契約は成立し、結末はただ一つしかないからです。



 「それ」をよんではいけません。

 「それ」は、あなたの行動を待っています。望みが叶う瞬間を今か今かと待っています。



 「それ」は、死角を好みます。

 扉の裏側、あらゆる遮蔽物の陰――あなたの背後。視点が存在する限り、死角は必ず存在し、「それ」は、すべての盲点を把握しています。



 あなたは既に、「それ」を認識しました。

 もしかしたら、そうでないふりをしているのかもしれませんが、その行為は無意味です。



 「それ」は、この文章を読み進めている、今この瞬間も、あなたを見ています。

 あなたが行を追うたび、「それ」は歩を進めています。



 そして、あなたは。

 ここまで、よんでしまいました。













 さて、「それ」とは何でしょう。













 答えは、ほら。


 そこにいる。













 さぁ。













 こっちを見ろ。

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くいず ヤマ @ymhr0926

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