第11話
「うわー!」
店に入って一番最初に目に付いたのは、天上からぶら下がるシャンデリア。そして心地よい音楽。店のやや中央に置かれたグランドピアノでは、男性が気持ちよさそうにピアノを弾いている。
余裕をもって配置をされた円卓には、身なりの整った上流階級の紳士淑女が控えめな笑みを浮かべながら談笑をしていた。
凄い、別世界みたい。こんなキラキラとした場所があるんだと、紗月は唖然とした。
「紗月ちゃん?」
「え? あ、はい!」
「個室に案内してもらうから、行くよ」
地に足が着かない夢見心地の紗月の手を、青龍はぐいぐいと引っ張って進んでいく。
「こちらでございます」
洋装の男性に案内された部屋には天井から小ぶりなシャンデリアが下がり、中央には大きな円卓が据えられていた。
部屋の奥には花を生けた大きな花瓶が置かれ、壁には数枚の洋画が飾られている。
「奥様、席に座ったらどうですか?」
加地の声に我に返ると、二人は席についている。
「は、はい。すみません」
青龍は、相変わらず笑っている。
空いている席に座ると、メニューを差し出された。
「紗月ちゃんはどのパフェを食べる? それともケーキにする? プリンにする?」
メニューを受け取り、目を通す。
「た、高い」
「そうなんです! だから僕、今日はツイる日なんですよ。信じられます? パフェなんて月収の一割くらいの値段ですよ? それもご飯じゃない!」
「そ、そうですね」
力説する加地には、同意しかない。それにケーキでさえ、家族一食分の金額。自分がいた清原も嫁いできた九条も、こういう世界の人達なんだ。紗月の心は一気に鉛のよう重くなる。
「じゃあ、紗月ちゃんにはこのチョコレートパフェで、俺は季節のパフェにしよっかな」
「俺も季節のパフェで!」
嬉しそうな加地を見ていると、少し羨ましくなる。
「奥様? 僕の顔に何か付いてますか?」
「い、いえ。なにも。すみません」
「あのさ、紗月ちゃん」
青龍は肘をつき、顎を支えながら話しかけてきた。
何か、怒らせるようなことをしてしまったのかもしれない。紗月は俯きながら「はい」と返す。
「うーん、気になってたんだけどさ、どうしていつも悪くもないのに『すみません』って謝るの? それといつも俯いてるよね? 何か探しているの?」
「え?」
顔を上げて紗月の目に、困った顔をした青龍が飛び込んでくる。
「そう言えば奥様、いつも言ってますね。すみませんって」
隣の部屋で監視をしていた加地からも指摘され、また紗月は目の前のテーブルに視線を戻した。
「紗月ちゃんは別に悪いことはしてないよね? なのに、いちいち謝る必要はないよ。ちょっと苛つくんだよね」
青龍様の機嫌を損ねてしまった。どうしよう。胃がキュッと縮まったように痛い。
「ちょっと青龍様、言い方がキツイですって。奥様。別に青龍様も怒っている訳じゃないですから。人ではないので、言葉選びができないんですよ」
「加地君、君、俺を馬鹿にしてない?」
「滅相もない! でも人ではないじゃないですか」
「確かにね。紗月ちゃん。俺は別に怒っている訳じゃないよ。卑屈な性格は当麻の番として、隣に立つ者としては良くないって話しなの」
「はい。すみません」
あ、また謝ってしまった。紗月はギュッと体を丸くする。
「はあーまあ、徐々に改めていけばいいよ」
ちょうど話が終わったところで部屋の扉がノックされる。
「お待たせいたしました」
男性給仕が入って来るとパフェを三人の前に配膳し、説明をして出て行った。
「さて、食べようか!」
青龍の言葉を合図に、紗月もスプーンを持って恐る恐る白いクリームがかかっているチョコレートソースを掬って口に入れる。
「――あ、甘いです! この黒いソース、チョコレートもクリームも甘くて、口の中で溶けてなくなってしまいました!」
「ですよね! パフェ、最高! そして僕のお金じゃないからもっと最高!」
「紗月ちゃん、ゆっくり食べるんだよ」
「はい!」
こんなに甘くて美味しい物があるなんて、知らなかった。食べて終えてしまうのが惜しいな。ゆっくり食べていたつもりでも、気が付けば半分までパフェが減った頃だった。
「紗月ちゃんさ」
「はい」
青龍はもうパフェを食べて終えていて、加地ももうあと少しを残すくらいだった。
頬杖を突いた青龍が「確か紗月ちゃんが八歳の頃だっけ? 清原の人間を六人も殺しちゃったの」と天気がいいね、とでも言うような軽い感じで尋ねてきた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
どうも作者の秋乃ねこです。
いつも読んでいただきありがとうございます。
こちらの作品はカクヨムコンテスト11参加中です。
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