【短編怪談】心霊写真を、

久保

心霊写真を、

こんにちは。久保と申します。


カクヨムで投稿するようになってから、気がつけば本作で10本目になりました。


思っていた以上に多くの方々に読んでいただけるようになり、

その一つひとつの反応が、今の私の支えになっています。

いつも本当に、有難う御座います。


今回は、その感謝とは別に、皆様にどうしてもお伝えしておきたいことがあります。




話は、半年程前に遡ります。


今年の6月頃だったでしょうか。

蒸し暑さが日に日に増し、夏の匂いが街に滲み始めていた時期のことです。



その頃から。



突然、理由もなく、



と思うようになったんです。




正確に言えば──



という方が近いです。



自分でも、理由は全く分かりません。


ただ、胸の奥がずっとざわついて、

何をしていても、「はやくみろ」と急かされているような圧迫感があって。



仕事から帰宅すると、真っ先にYouTubeで「心霊写真」と検索し、

関連動画を片っ端から再生するようになりました。


最近のYouTubeって、レコメンドアルゴリズムがかなり偏向的じゃないですか。


気づいた頃には、画面は心霊写真の動画で埋まり、

私はそれをただのルーティンのように、無心で消化し続けるようになっていました。



YouTubeの動画も一通り見終わった後は、

今度はGoogleで「心霊写真」と検索し、出てきたサイトをすべて辿り、

そのサイトのリンクをさらに辿り、

日本どころか、海外の心霊写真まで手を広げるようになりました。

(英語では “ghost picture” というらしいですね。)


酷い日なんかは、なかなか寝付けなかったので、

日が昇るまでずっと心霊写真を調べ続けてたこともありました。




……普通じゃないですよね。

自分でも、そんな気はしていました。


でも、その頃にはもう、やめられなかったんです。



なぜなら。



、不思議と、心が落ち着くようになっていたからです。



理由は分からないんですが、本当に安心するんです。



心霊写真を見て安心するなんて、おかしいですよね。

子供の頃は夜も眠れなくなるほど怖かったのに。



私自身、霊感なんてものは全くありません。


幽霊の気配を感じたことも、背後が気になったことも、

そういう体験めいたものも、一度もありません。



なのに、心霊写真を眺めているときだけ、

胸のざわつきがすっと消えて、

空気の重みが和らいで、

呼吸が楽になるんです。



異常です。

分かっています。



ただ、その頃の私は、むしろ見続けることの方が自然で、見ない日がある方が不安だったんです。




…そこから、8月になり。


私はカクヨムで、短編の怪談を書くようになりました。


何かに導かれるように、今度は無性に、怪談を書きたくなったんです。


ただ、誰かに背中を押されているような感覚だけがあり、

そのままカクヨムで短編の怪談を書き始めました。


そこから今まで、ずっと書き続けています。




そして、「怪談を書きたい」という気持ちに比例するように。


心霊写真を見たい、と思う気持ちも、

より一層強く駆り立てられるようになりました。




ただ一つ、困ったことがあります。



背後に映る、不気味に笑う顔。

その場に存在するはずのない人間。

三本目の腕。消えた足。

ありえない角度の首。

こちらを睨みつける眼。



ネット上にあるものなんて、もう大体見尽くしてしまったんですよね。




だから、今度は。



自分で心霊写真を作ることにしました。



今どき、PhotoshopやAIなんかで、簡単に心霊写真なんて作れますので。


実際に加工して作ってみたんです。


自分の携帯のカメラロールから、良さそうなものを漁って。


100枚は超えたと思います。



...でも、これは、駄目でしたね。全く。


だって、偽物だと分かりきってますから。



偽物だと分かっているものをいくら眺めても、落ち着かないんですよ。


結果的にその心霊写真が偽物だったとしても。



私の中で、どこか「本物なのかもしれない」と信じる気持ち、

ある種の余白のようなものが必要だったみたいです。



だから、加工して作っても、駄目なんです。


駄目なんです。偽物と分かりきっていては。





...この文章を書いている今この瞬間も、

私は、心霊写真を見たくてたまりません。



胸の奥がざわざわして、


喉が渇いて、


指先が勝手に検索窓を呼び出してしまうんです。




私はもう、手遅れかもしれません。



だからこそ。


私から、皆様には注意喚起をさせてください。





もし、万が一。


今後、皆様が、「心霊写真を見たい」という気持ちに駆られたとしても。





絶対に、軽々しく、心霊写真を──────

みろ見てはいけません。





いいですか。




絶対に、無考えに、心霊写真をはやくみろ見てはいけません。





心霊写真は、

こちらが「見ている」と思っているだけで。





ほんとうは


むこうが


みています






私、言いましたからね。



取返しのつかないことになってしまいますいいからみろ。



私から言えるのはこれだけです。


ごめんなさい。








ところで




さっきから、あなたのすぐ後ろで画面を覗き込んでいる方は誰ですか?



このままインカメラで自撮りをしてみてください。

きっと、いい写真が撮れると思います。

みせてください。はやく。







すみません。驚かせてしまいましたかね。




冗談です。


たぶん。






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