エピローグ 癒えぬ棘と前へ進む道
十年後の春。僕は28歳になり、東京の小さなデザイン会社で働いている。高校時代の出来事から、ずいぶん時間が経った。あの復讐の炎は、僕の心に永遠の痕を残したが、今は穏やかな日常を過ごしている。窓辺のカフェで、コーヒーを啜りながら、外の桜を眺める。妻の美咲が隣で微笑んでいる。彼女とは大学で出会い、三年の交際を経て結婚した。子供はいないけど、二人で旅行したり、映画を見たりする時間が、僕の癒しだ。
「あの桜、きれいね。蒼真、今年も花見に行こうか」
美咲の声に、僕は頷いた。
「うん、いいね。週末に」
彼女は僕の過去を知っている。すべてを話したわけじゃないけど、幼馴染の裏切りと復讐の話は、ぼんやりと。美咲は優しく聞いてくれ、「君は強くなったね」って言ってくれた。あの頃の僕は、絶望の渦に飲み込まれそうだった。凛音の笑顔が、隼人先生の影に変わる悪夢に、何度もうなされた。でも、復讐を完遂した後、僕は変わった。大学でデザインを学び、蓮司のような友人に支えられ、新しい道を歩み始めた。
蓮司とは今も連絡を取る。彼はIT企業で活躍していて、時々飲みに行く。
「よお、蒼真。相変わらず幸せそうだな。あの時の復讐、よくやったよ。お前のおかげで、俺も人生を考え直したぜ」
先週の飲み会で、彼はそう言った。蓮司は結婚して、子供が二人。僕の復讐を手伝った彼は、今は穏やかな父親だ。あの事件は、僕たちを強くしたのかもしれない。
凛音のことを、時々思い出す。十年経った今、彼女の消息はぼんやりと聞いている。精神科に通い続け、引きこもりがちらしい。画家になる夢は諦め、母親の元で静かに暮らしているそうだ。後悔の絶望に苛まれ、孤独の渦から抜け出せていない。僕の復讐が、彼女を徹底的に追い詰めた結果だ。許せない気持ちは残るけど、今はただ、遠い過去の影として感じる。公園で最後に会った時の彼女の泣き顔が、時折フラッシュバックする。でも、僕は前を向く。彼女のバッドエンドは、僕の選択の結果。後悔はない。
隼人先生の末路も、風の噂で知った。自己破産後、田舎で日雇い労働を続け、病気がちで孤独に生きているらしい。妻の葵さんは再婚し、息子は新しい家族で幸せそうだ。先生の因果応報は、完璧だった。家族を失い、社会的信用を失い、すべてを失った男。僕の復讐の炎が、彼を焼き尽くした。高校時代の僕は、そんな結末を望んだ。でも、今の僕は思う。あの復讐は、僕自身を救ったのかもしれない。絶望から立ち上がり、強くなるための試練だった。
カフェから出ると、美咲が僕の手を握った。街路樹の桜が、風に舞う。
「蒼真、何か考え事?」
僕は微笑んで、答えた。
「いや、昔のことを少し。君と一緒にいられて、幸せだよ」
彼女は頷き、僕の肩に寄りかかった。十年後の僕は、デザインの仕事で小さな賞を取ったり、友人たちと集まったりする普通の男。過去の棘は、時々胸を刺すが、癒えつつある。幼き約束の甘い残響は、消えた。でも、新たな約束が、僕の人生を照らす。
夕陽が沈む街を歩きながら、思う。復讐の渦炎は、僕を鍛え、前へ進む力をくれた。凛音と隼人の影は、遠くに。僕の道は、続いている。
幼馴染の裏切りと復讐の渦炎 @flameflame
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