第4話

 俺はカプチーノを、もう一杯作ってからカウンター席のマスターへ渡した。


「ありがと」


 うん? マスターがカプチーノを飲みながら、密かにジンをじろじろと脇目で見ているようだ。だが、ジンは今のところ気が付いていないようだった。


「ああ。マスター。そいつは、スラム街から来たジンっていう名の俺の新しい依頼人だ。報酬はがっぽり。敵は壮大。寝食昼寝付きのプラチナ級の依頼だがね」

「ほほう。うーん……その……報酬はがっぽり? で、間違いないんだな?」

「ああ……」

「そうか。そうか……。うんうん。良かった良かった」

「ふふん。だが、敵はあのアンダーワールドの組織だと思うんだ」

「……それ、本当?」

「ああ」

「別の依頼はないの? 変えられないの?」

「ない。変えない」

「……」


 ジンは首を傾げる。

 世間知らずもいいところだが。

 いや、裏の世界を知らな過ぎだ。


……


「お! 凄いなあ! この金……?!」


 しばらく雨の音に耳を傾けて、これからの計画を順に練っていたが、マスターの晴れやかな声で思考が停止する。カプチーノの入っていたカップを洗っていた手を止め。キッチンから振り向くと、マスターがジンとスマホ同士をコードに繋げて、金を貰っているようだった。


 途端に、マスターがカウンター席から失神して転げ落ちてしまった。その顔面蒼白の顔は白目を開けて、泡まで吹いていた……。


「ああー!! マスターー?!」


 俺は生まれて初めて、間の抜けた声を上げた。

 

「やれやれ……マスターが死んだらどうするんだ……」


 しばらくして、俺は冷静さを取り戻すと、ジンの可愛い顔をこれでもかと冷たい目で睨んでいた。


 それでも、ジンはこちらに向かって、ニッコリ微笑んだ。


 床で倒れているマスターを介抱してやるために、二階へ負ぶって行くとジンが、のこのことついて来た。


 この調子だと、もう母と自分の命は安全だと思っているようだ。

 信用第一だからジンには言わないが……俺たちは、正直途方もなく厄介な敵を迎えるはずだった。


 投げ出したいくらいに……。


 その人身売買組織ヒュドラグループは想像を絶するほど巨大で……。どうしても危険だった。


 ここサイバー・ジャンクシティの地下に広がっている、アンダーワールドのどこかに存在しているのだそうだ。


 地下の超巨大都市。


 千年電脳仮想空間。


 ???……。


 ……。


 と、誰かが勝手に、地下の階層ごとに名をつけてある。ラスト階層は、名前が無い。不明なのか、ただ知らないだけなのか……。


 まあ、どうでもいいことだけどな。


 

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星々で構成されたシンフォニー protocol version 主道 学 @etoo

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