神さま公認、ルール崩壊スキップパス。ストレス【ゼロ】で異世界を遊び尽くせ
桃色金太郎
ルールブレイカー降臨
第1話 こんな優遇、有りですね
はじめに言っておきたい。
俺は、秩序やルールを壊すつもりなんてなかった。
ただ、ゲーマーの性なのか、気づけば力を求めていた。
その近道がスキップパスだったんだ。
けれどその近道が、この世界の常識から外れる第一歩になっていた。
……ほんの小さな選択だったのに。
『創成英雄ルー君の日記より』
◇◇◇◇◇◇◇
引きこもりの俺だけど、調子が良かったので外へ出た。
ただ亡くなった婆ちゃんに似てたとはいえ、トラックにひかれそうな所を助け、代わりに死ぬとは思わなかったよ。
気づけば真っ白な雲の上で、荘厳な景色が広がっている。
目立つのは、遠くにある天国への門。
まるでベルサイユにある門のよう。
威厳と慈愛に満ちている。
そこへ並ぶ人、人、人。
入国審査の順番待ちで、人々がここまで溢れているよ。
きれいな所だけど、行列は全く進んでいない。
みんな待ちくたびれているし、これから自分も同じように並ぶのかと思うとうんざりするよ。
「おっさん邪魔だ、どけ!」
「あわわわ」
脱力している所を急に、頭をうしろからグッとつかまれ引っ張られた。
慌てて両手をバタつかせると、誰かに当たり一緒に倒れてしまう。
「痛ってーな、おっさん。汚い手でさわるんじゃねーよ!」
巻き込んでしまったのは、さっきの声の主だ。
見ると金髪プリンで目つきの悪いDQN風の青年だった。
すっごい剣幕で睨んでくるよ。
鼻が付きそうなほど詰めよってくるし、見逃してはくれなさそうだ。
熱量と迫力に押され目をそらすと、俺を見下すように鼻で笑ってきた。
「なんだ徳の貧乏人か。どーりでトロいと思ったぜ」
「と、徳?」
「ぷっ、分かんねえの。生前での善行の証だからなあ。小汚ないおっさんにあるわけねえか」
とんだ言い掛かりだ。
ここにいる全員がおなじ白装束で、汚れている訳でもない。
現にこのDQN君も全く同じ格好である。
生前もこの手のからかいをよくされたものだ。
やる方は楽しいのだろうが、やられる方はたまった物じゃない。
延々と続けてくるし、言い返しても余計調子にのってくる。
でもここは死後の世界だ。
これ以上死ぬ訳じゃないし、普段はしない抗議をしてみた。
「ちょ、ちょっと失礼じゃないか。き、君と何が違うんだ」
これにDQN君は口を半開きにし呆れ顔で返してきた。
「小っせー声。おっさん、もしかしてビビってんの? ダサー、めっちゃウケるわ、マジで!」
ちゃんと出してるのに、また言い掛かり。
今度こそはと、腹に力をいれて声を出す。
「だから……」
「もう喋んな、ダサ親父。これを見れば分かるだろ。俺は選ばれた徳の民。スキップパス持ちなんだぞ」
もうこの人、苦手だ。
あーいえば、こう言うし、なんで人を馬鹿にするんだろ。
それとなぜか得意気に胸をぐっと突き出し、変な事を言ってくるよ。
「スキップパス?」
まさか遊園地でもあるまいし、そんなのと疑ってしまう。
「それも分からねーのかよ、馬鹿だな。お前らみたいな非人格者と違って、俺はこれがあるから待ち時間ゼロよ、ゼロ。スイスイーっと進めるっつーの。ほれっ」
DQN君が指差す方には、柵で通路が別けられている。
天使の誘導で何人かの人が、楽しげな表情で通っていくのだ。
まさに生前でも見た光景だ。サービスを受けていない俺たちを、次から次へと抜かしていく。
それをいいなぁと思うけど、後の事を考えると諦めていたサービスだ。
それをあの世に来てまで味わうとは思ってもみなかったよ。
「せいぜい何百年も待ってろや。もしかしたら、それで痩せれるかもな」
DQN君は心底バカにした表情で去っていく。
でも勢いをつけすぎたのか、つまずいた。で、睨んでくるよ。
「チッ、お前のせいだからな。このクソデブ野郎!」
またまた言い掛かりか、もういいや。ほんと嵐のような人だ。遠くになるまで放っておくよ。
「はぁ災難だったな……あれ、何か落ちている?」
拾い上げるとそれは薄いカードで、ファストパスと書いてある。
すぐにさっきのDQN君の物だとピンときた。
優先通路の先には豆粒のように小さくなったが、まだ彼の姿が見えている。
届けなくてはと、近くの天使に声をかけた。
「すみません、これは走っていく彼の落とし物です。届けてあげてください」
カードを受け取った天使は裏表と確認をし、のんきにDQN君の方をみた。
そしてまたカードを見る。
「彼の? ほむほむ、なるほどねー。彼が落としていったんだ」
なんか指メガネで覗いているよな。
「これがないと大変ですよね。今なら間に合うかと」
「それは心配しなくていいよ。審査場でこれは必要ないからね」
「えっ、そんな物なんですか?」
「うん、そういう物だよ」
「そ、そうだったんですね。はは、よかった」
ほっとしたが恥ずかしい。
俺はいつもこうだ。
人の為だと思っても、結局まわりにポカンとされる。望まぬ早とちりの達人だ。
赤くなった顔を隠し、急いでこの場を離れようとすると、天使に呼び止められた。
「これさ、余っているし君の名前に書き換えようか」
「へっ?」
とつぜんの申し出に固まるよ。
それを天使はニコニコと、さも当たり前のように言ってくる。
しばし互いに無言で見つめ合う。
呼吸の読み左右にゆれると、天使も合わせて揺れてくる。
「大事な物なんでしょ。それを簡単に変えてもいいんですか?」
「あー、君って良い人ぽいっし、僕には権限があるからね」
「そ、それにしても」
戸惑う俺にかまわず、天使はカードを渡してくる。
そして肩をつかまれ回れ右。ドンと背中を押されたのだ。
「楽しんでねーー」
「あわわわっ」
二歩三歩とよろめくと、既にそこは通路の中で、ひしめく他の人達がいきなり見えなくなった。
代わりに芳しい香りと、爽やかな風が髪をゆらしてくる。その心地よさに心がスッと洗われた。
まさに天国への道と呼ぶのにふさわしい。
後ろを振り返ると、先ほどの天使が微笑んでくる。
返そうとファストパスをさし出すと、『それはお前の物だ』とばかりに首を振ってきた。
頭を下げ貰っておくことにした。
そして前を向くと、さっきまで見えていたのは長い道のりだったのに、今は門を見上げるほどの近さにあった。
「距離さえも優遇されてるのか。ファストパスって凄いな」
もちろん手続きの待ち時間もなく、すぐさま呼ばれて神様の前に立つ。
やたらと大きな神様だ。猫背だけど座っていても5m は優にあって、ゆっくりと俺を見てくる。
「トラック、人助け、それと生前と死後の善行のポイントは高く、大のラノベ好き。ほむほむ、しかもガブリエルくんの推薦ときたか、なーるほどの。では異世界転生で決まりかの。もちろんチート有りのパターンじゃな」
さっきの天使といい見透かされているようで、ドンドンと話が進んでいく。
そりゃ俺にしたら、異世界ってのは願ったり叶ったりだ。
ラノベやアニメは俺の専門分野だし、ゲーム脳だって持っている。
あらゆる分野のゲームをこなすし、あるVRMMOでは個人戦とチーム戦のどちらでも、常にランキング入りを果たしていたよ。
キャラ名のルーン・ピスタッチオはその界隈では有名だ。
そんな万全な状態で、魔法のある世界に行けるなら、俺の異世界転生に死角はない。
「楽しそうじゃの~。ならば俺TUEEEEに、ピッタリなスキルがあるぞ。一人一個しかスキルを得られない世界であるにも関わらず、それを覆す裏技じゃ」
「マ、マジですか!」
「うむ、ダンジョン周回にも超便利での」
「うおおお、周回ですと!」
「その気になれば全てのスキルを習得可能じゃ」
「おおおお、やり込み度満載ときましたか。そ、それでそのスキルの名前はなんですか?」
この神様はまじで神だ。
もしかしたら同じお仲間かもしれない。
ゲーマーの事をよく分かってらっしゃる。
神様はすこしためてニヤリとする。
俺もニヤリをお返しします。
「よく聞くがよい。幸運をもたらすそのスキルの名はーーーー」
轟く声に空間が震え、光の波がうねる。
「スキルの名は?」
「完全無欠の【スキップパス】じゃーーーーー!」
ニヤリが崩れる。
「へっ、なんて?」
「ん、スキップパスと言ったのじゃ」
よくある大技のあとの硬直じゃない。
あからさまにハズレ臭のする名前に、身動きがとれないのだよ。
この神様は味方だと思ったのに、ネタスキルをぶちこんできた。
「何が完全無欠だよー。異世界にスマホでもあんのかよーーーーーー!」
「おちつけ、チートと言うたであろう。その効果は生前のような、手軽ぅとか優先的サービスだけではないぞ。さきほどと同様に、距離の概念さえもない代物じゃ」
「でもそれだけじゃ、全てを覆すって無理でしょ」
「そうじゃの。では覚悟が決まったなら転生を始めるぞ?」
「始めるって、詳しい事をまだ何も聞いてないですよ」
「はてな、ルーン殿にそんなものが必要だったかの?」
神様はそれから説明をしようとしない。
かといって面倒くさそうな雰囲気でもない。
何かがおかしい。
少しの混乱のあと閃いた。
「そういうことか。俺が攻略サイトを見ない主義ってのも知っているんですね」
「ネタバレはワシも好きではないからの」
「神様、あんたやっぱり俺と同類だな」
「それは光栄じゃ、ふぉふぉふぉふぉー」
このへんてこりんなスキルには、隠し要素があるって事だ。
それを見つける事により、選択肢が増えるのだろう。
これはゲーマー心をくすぐられるよ。
「最後にヒントじゃ。サービスを受けられる所にはカードが現れゲートが開く。そしてそれは町の中ばかりではないぞ」
「おおっと、もうそれ以上は!」
「ふぉふぉふぉ、蛇足じゃったかの」
「じゃあ、いってくるぜ!」
神様が指をふると、目の前が真っ暗になった。そして温かさに包まれた。
あの雲で感じた心地よさが、また押し寄せてくる。
波のように何度もくる幸福感。
突如、まばゆい光が広がった。
目に映ったのは、見慣れない木々たち。
聞き慣れない獣や鳥の鳴き声が、耳に飛び込んでくる。
晴れ渡る青空の解放感と土の匂いに興奮をする。
「本当に来れたんだな、うおおおおおお!」
こうして俺の異世界初日はスタートしたのだ。
◇◇◇◇◇
ここまで読んでくださったあなたに、心から感謝します。
カクヨムコン11に参加中です。大事なスタートをぜひ応援をしてください。
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正直な評価で構いませんので。
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神さま公認、ルール崩壊スキップパス。ストレス【ゼロ】で異世界を遊び尽くせ 桃色金太郎 @momoirokintaro
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