短足差別体験ミュージアム
ハクション中西
短足差別体験ミュージアム
アパルトヘイトミュージアムというものをみなさんはご存知だろうか。
南アフリカに実在する、差別との根絶を目的とした歴史博物館である。
黒人差別をはじめとして、いかなる人種差別も許されない、という決意と人類の過去の過ちを心に刻む博物館。
これが面白いのだ。調べてみたところ、入場料を払うと、ランダムに【白人】か【非白人】かどちらかが印字されたチケットを渡される。
そして、実際のその人の属性とは関係なく、渡されたチケットに印字された人種としての擬似体験をするというもの。
他人事として理解するのではなく主観的な体験ができるというのが面白いと思った。
調べてみると、この手の博物館は色々あるみたいで、数年前、僕は【足みじかいオッサン博物館】に行った。
足が短いと、足が長い人よりは、ダサいというイメージが現代でもある。しかし、昔はもっと差別されていた歴史があるのだ。それを学ぶための博物館。
“足の長いおにいさん”または“足の短いオッサン”と印字されたチケットを受付で、実際の足の長さとは関係なく、ランダムに渡されるシステム。
僕がドキドキしながら500円を払うと、受付のオバハンが「モテるでしょ〜」と言いながら、チケットを渡してきた。
“足の長いお兄さん”と印字されてはいたが、僕は内心「まだやらんでええねん」と思った。
“足の長いお兄さん”と“足の短いオッサン ”は別々の入り口になっており、このあたりも本家のアパルトヘイトミュージアムと同じだ。
足の短いオッサン用の入り口は、汚くてくさかったが、僕は足の長いお兄さんのほうの入り口から中に入った。
シャンデリアが輝く天井、僕には価値のわからない絵画がびっしりと飾られた廊下、神々しいクラシックミュージックのBGMを体験しながら歩いていると、さっきの受付のオバハンが目の前に現れた。
「モテるでしょ〜」と言われて僕は、どうしようか迷った。
差別を体感するための博物館なのだから、あえて調子に乗って会話してみるほうがいいのか、はたまた「いえいえ、全然モテないですよー」と謙遜するべきなのか。
「絶対モテるわー、足もすらっとして、いやらしいわ。ほんまに。女の人、たくさん泣かせたでしょ〜」と褒めてくるオバハン。
「いやいや、逆に僕が女性というものに溺れてる人生ですよ」
と僕はなんとも中途半端なセリフを言った。
するとオバハンは「いや!いやらしいわあ!おにいさん!!!うちの胸の中で泳いでみる?わっはっはっは!ちがうか!ちがうか!わっはっはっは!」と笑い、僕の手を自分の胸に押しつけた。
「揉み放題!!!おにいさん!」と叫んでくるオバハンに、どうしようかと思っていたら、オバハンが突然「あ!」と叫び、横を向いた。
そして走っていき、全盛期のトムクルーズみたいなハンサムで足の長い男性にドロップキックをした。
「お前は、このエリアじゃないやろが!!!この、カタワがぁ!!」
ドロップキックをされ、トムクルーズは吹っ飛んだ。
そうなのだ。
ここは、実際の足の長さは関係なく、アトランダムに渡されたチケットの印字属性が全てなのだ。
僕は、オバハンが怖くなり、今のうちにと、小走りで先を進んだ。
すると前から別のオバハンがやってきた。
「モテるでしょ〜」
「いや、足長いだけで、そんな喋りかけ方せえへんでしょ!いくら昔でも!一発目はこんにちは、とかでしょ!!リアリティないなあ!!この博物館!」
僕がそうつっこむと、オバハンは「揉み放題!」と叫びながら僕の右腕をつかみ、すさまじい力で自分の胸に押しつけてきた。
「チカラを入れると、逆に痛いよ!チカラを抜いた方がいいよ!!」ととうとう意味不明なことを言い出した。
右手がきしむ。痛い。
なんで俺は、足の長いおにいさんなのに、ババアのセクハラを受けないといけないのだ。
「いたいな!やめろ!」と叫ぶとオバハンは手を離し「お詫びとして、西田ひかるの誕生パーティに招待します」と言い出した。
「いや、面識ないから、勝手に参加できないでしょ、そんなん」
「いやいや、西田ひかるはそういうの一番喜ぶから。足長い男前のお兄さんは、面識なくても参加できるから」
僕は何を隠そう、西田ひかるさんの大ファンである。
そう言われては、興味をそそる。
パーティの会場に入ると、僕がドアを開けた瞬間にファンファーレが鳴らされ、みんなが僕の顔を見た。足が長いと、こんなにVIP待遇なのか。
奥のほうの、一番きらびやかな椅子に座っているオバハンと目が合う。
オバハンの服には【西田ひかる】と書いたワッペンが貼ってあった。
オバハンは「あんたの席は、ここ!!」と自分の右側の椅子を指差した。
「こいつが西田ひかるか」
僕は絶望的な気持ちになりながら、歴史を学ぶために、仕方なく歩みを進めた。
続きはプロフィールから。
短足差別体験ミュージアム ハクション中西 @hakushon_nakanishi
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