第45話 好きだよ。
星が惚れた男に純粋に興味があり、みつきは問う。
「太一ですか。あー…。」
星は少し考え込み、その思い出に花を咲かせたかのようにふっと笑った。
「面白いやつでしたよ。」
例えば、と言葉を紡ぐ。
「夏休みになって一週間ぐらいかな。消息を絶ったことがあるんです、行方不明。施設の職員さんが必死で探す中、ひょっこり帰って来て。怒られながら理由を聞かれて、太一は大真面目な顔で『でっかいカブトムシを追いかけた』って言うんです。」
「男子ってカブトムシ好きだよね…。」
「はい。もう少しで捕まえられそうだったのにって悔しがってました。」
一週間を費やして、捕まえられなかったのか。と思い、論点はそこではないなとみつきは思い直す。
「あとはー…。洗濯物を全部、洗濯機に突っ込んで着るものがないからとカーテンを着たり。古代のローマ人みたいな。雪が降れば率先して雪像を作り、雨が降れば傘もささずに庭に出てただ突っ立っていたり。」
太一という存在を語る星は、しあわせそうな表情を浮かべていた。愛しい記憶なのだろうと思う半面で、みつきはその思い出に介入をすることができないもどかしさをひっそりと抱えていた。自分で聞いておいて、何て勝手だろうと思う。
「…太一が病気を発症したのは、13歳のときでした。原因不明の発熱や、貧血。それとよく鼻血を出してましたね。病院に掛かり、診断名がおりました。それが、急性白血病。」
星の顔が固く強張る。幸福から一気に不幸のどん底に落とされたかのような変化だった。実際、彼女や太一にとってまさに不幸だったわけだが。
「ダメもとで私もドナーになりたかったけど、そもそも年齢的に無理だった。」
星は溜め息を吐く。一度、コーヒーを飲み、喉を潤してまた語り始める。
「太一のことが本当に、本当に大好きだった。割と問題児だったけど、この想いに科学的根拠なんていらなくて。この想いの全部を口にすることができなくてもそれでも良いから、何だって、誰だっていいから太一を助けてほしかった。」
そう願っていたら、と言い、星は瞳を伏せてまた微笑む。
「骨髄移植をしてくれるドナーが見つかったんです。私、嬉しくて泣いて、心に羽が生えたようでした。つまり、浮かれていたんですね。」
星は背筋を伸ばして、すう、と息を大きく吸い込む。
「…そして、しぶきを死なせたわけです。」
「ふーん…。」
星の話を聞き終えて、みつきもコーヒーを啜る。すっかり冷えたコーヒーがそこにあった。このぐらいの温度なら火傷もしないだろうと判断して、一気に紙コップを煽ってコーヒーを飲み干す。
「ねえ、星。好きだよ。」
「何ですか、いきなり。知ってますよ。」
走ってきたバスが滑り込むように、バス停に到着する。完璧に停止して、扉が開かれて二人は車内に乗り込んだ。
夜の嘘月。 真崎いみ @alio0717
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