奇妙な峠
海藤日本
奇妙な峠
これは、私が実際に体験した話である。
今から、数年前のある日の深夜、私は友人と二人でドライブをしていた。
私が運転をしており、約一時間程車を走らせていると、気付いた時には、行った事のない峠に入っていた。深夜だからそう感じたのか。
その峠は闇に包まれており、その異様な空気に私達は「気味が悪い」と思い、全身からは自然と鳥肌がたっていた。
そして、私の車のナビにこの峠の名前が表示されたのだが、聞いた事もない峠であった。
車のナビを見ると、この峠は一本道であり、道なりに進んで行けば、やがて町に出られるのが分かった。しかし「気味が悪い」と思ったのならば、引き返せばよかったと今になって思うのだが、当時は何故か、私達にその選択肢はなかった。私達はその峠に入り、特に何事もなく、二十分程経つと町に出た。
しかし、峠を抜けたのはいいが、私はなにか凄く身体の疲れを感じていた。
すると友人がこう言った。
「なんか疲れたから、コンビニに行って少し休憩しないか?」
私はこの時点で「やはり、あの峠にはなにかあるのか?」と少し疑問に思っていた。
それに先程も書いた通り、私も疲れを感じていた為、コンビニに寄りジュースを買って、車の中で休憩する事にした。
休憩していると突然、友人のスマホから電話がかかってきた。
相手は、友人の祖父からであった。
「こんな夜中にじいちゃんから電話?」
不審に思った友人はその電話に出た。
「もしもし、じいちゃん? どうかした?」
そう言うと、友人の祖父は焦った声でこう言った。
「お前、今何処にいるんだ?」
その声は隣に居た私にも聞こえ、私達は激しい緊張感に襲われた。
「え? 友達と遊んでるけど。……で、今はコンビニで休憩しているよ」
友人がそう言うと、祖父は少し落ち着いたのか、さっきよりも優しい口調になった。
「そうか。あんまり変な所には行くなよ。帰りは、安全な場所から帰りなさい」
そう言い電話が切れた。途切れ途切れではあるが、私は隣に居た為、二人の会話は何となく理解していた。電話を終えた友人は、顔を真っ青にして、私にこう言った。
「俺のじいちゃん、物凄く霊感があるんだよね。あの峠……何かまずいんじゃないかな?」
それを聞いた瞬間、私の背筋がゾッとした。
あの峠を走っている時は特に何もなかった。しかし今、私達を襲っているこの疲労感は、霊による仕業なのかと思うと全身が震える程の寒気を感じたのだ。
そして、友人の祖父が言ったあの言葉が頭を過った。
「帰りは安全な場所から帰りなさい」
「と言う事は……帰る時はあの峠は、通ってはいけない」
そう感じた私達は、別の道から帰れるのかナビで必死に探した。すると、少し遠回りにはなるが、一つだけ見つかった。
私達はホッとして、帰りはその道を通る事に決め、車を走らせた。
帰っている途中に、奇妙な体験をした。
これまで私達を襲っていた疲労感は、徐々に取れていくのが分かったのだ。
そして、一時間半程経つと、知った道に出る事が出来た。私達は無事に家に帰宅したのだか、私は次の日の夜に父から、衝撃的な事実を聞かされる事になる。
その夜、父が私に「そう言えばお前、昨日の夜何してたの?」と聞かれたので、私は「昨日は友達とドライブしていたよ」と返した。
そして、私は少し気になっていたので父にあの峠の事を聞いてみた。
私が「その峠を通った」と言うと、いつもは能天気な父が、珍しく眉間にしわを寄せ、険しい顔をして私にこう言った。
「お前、夜中にあの峠に行ったのか? あんまり変な所には行くなよ」
「……やはり、あの峠には何かがある」
そう思った私は、思い切って父に聞く事にした。父が言うには、その峠は大昔に死体をそこに捨てていく者がたくさんいたとか、武士の霊が出るとか、父が若い頃は、その峠で身を投げる者が多くいたとか、言ったらきりがない程であると。それを聞いた瞬間、私は再び背筋がゾッとした。しかし私は「帰りは別の道から帰った」と言うと父は続けてこう言った。
「その帰り道の通りに、神社がなかったか?」
私は、神社などは見ていなかった。
昨日の帰りは、辺りが暗かったという事もあるだろうが、そりよりも「とにかく早く帰りたい」という感情の方が大きく、私は周りが全く見えていなかったのである。
父が言うには、私達が昨日の帰りに通ったであろう道を進んだら、やがて横に神社が見えてくるそうだ。その神社の横を通れば、取り憑いた霊もいなくなると言われているらしいが、これはあくまで噂だと父は言っていた。
先程も書いた通り、確かに私はその神社は見てはいないが、帰っている途中に疲れた身体がすぅーと抜けたのは感じた。
後日、この事を友人に話すと、友人も私と同様「あの帰り道で、神社などは見ていない」と言っていた。しかし、私には気になる事が一つあった。
「お前のじいちゃん、何か見たのかな? それとも、何か感じたのかな? 結構焦っていたし……」
それを言うと、友人は再び顔が真っ青になった。
「……そんなの怖くて聞けないよ」
あれから数年経ったが、私達は特に何事もなく、友人も特に祖父に何も聞かず、祖父も友人にあの事について何も言わなかったらしい。
真相は謎のままである。
今となっては「その方がいい」と私達は思っている。しかし、たまに思ってしまう。
「もしあの時、友人の祖父が電話をしてくれなかったら一体、私達はどうなっていたのだろうか? 恐らく、帰りもあの峠を通って帰っていただろう。もし、そうなっていたら……」
考えただけでも恐ろしいものである。
私達は、わざわざ電話をしてくれた友人の祖父に深く感謝をしている。
奇妙な峠 海藤日本 @sugawararyouma6329
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