都内の高校にある、小さな民俗学研究部。
地味で穏やかな日常しかないはずの部室で、翠はある日、部長・火野から奇妙な都市伝説を聞かされる。
「胎内回帰」――
美しい女たちだけが暮らす謎の集落。
男を「胎へ還す」ことで赤子に戻すという、あまりに不可思議で、どこか甘い匂いのする噂話。
火野の声音はやわらかく甘いのに、その内容は異様に生々しい。
翠は興味だけでなく、説明できない「引力」に胸を掴まれ、調べ始める。
ところが、図書館で手にした古文書は、存在しないはずの「記録」だった。
紙は新しいのに内容は古く、核心部分はすべて漆黒で塗りつぶされている。
火野の香りと同じ「甘さ」だけが薄くまとわりつき、翠の記憶の何かが剥がれ落ちていく。
夢と現実の境界は曖昧になり、身体には説明のつかない変化が芽吹き始める。
そして、都市伝説の舞台とされる地――岐阜・伊吹山へ、ふたりの調査は唐突に現実味を帯びて動き出す。
火野の微笑みは優しいのに、どこか抗えない。
甘い香りは心地よいのに、どこか危険だ。
「知ってしまう前」にはもう戻れない、そんな予感だけが胸に沈んでいく。
民俗学研究部の高校生・翠が、妖艶な先輩・火野から聞かされた「胎内回帰」の都市伝説。美女だけが住む山奥の村で、訪れた男を「胎内に帰す」という不穏な内容に、なぜか抗えない興味を覚えてしまう。
図書館で調査を始めると、不思議なタイミングで現れる古文書。そこには伊吹山麓の在処が記されていたが――
途中から全ページが不気味な漆黒に塗り潰されている。
「岐阜に行くしかないわね」と即決する火野先輩。でも翠は気づき始めている。先輩との出会いの記憶が、なぜか曖昧で掴めないことに。甘いミルクの香り、消えない違和感、そして――
ミステリアスな都市伝説と、どこか現実感の薄い美人先輩。この二つが絡み合う先に何が待つのか。続きが気になる作品です。