「ヒーローのいない日曜日」
低迷アクション
第1話
「最初からわかってたじゃねぇか?だけど、皆、自分に都合の良い話にしか、耳を貸さなかった。ヤバい事になるってわかってたのに、目を向けなかった。話し合わなかった。ただ、調子良いこと喋る誰かの言葉にのっかって…その結果がこれだ。なぁ、そうだろ?」
我が自治会お抱えのやかまし屋、石澤は赤ら顔を更に赤くした、湯ダコ顔で捲し立てる。
いつもと変わらない自治会の集まりだ。月2回、週の終わりと始まり両方を備える日曜夜6時から2時間、加入率の少ない我が自治体有志のメンバーが集まり、地区の行事や問題について、話し合う。
大半はゴミ出しに関する話題や、懸念される住民トラブル、行事企画、行政との調整程度だが、世の中がこうなってからは、話す内容も変わってくる。
「ちょっと、石澤さん、酒臭いわよ。飲んでから、集まりに来るの、やめてって、あれ程言ったじゃない?」
石澤に負けないくらいのお局様で、出戻り娘、と言っても、年は50代の佳子が口を尖らす。
「うるせぇ、ババア、酒飲んで、堂々と自転車漕いでやらぁ。施行された青切符導入なんざ、誰も守ってる余裕なんかねぇだろうしなぁ」
「石澤さん、もうちょっと声抑えて。いくらいつも通りにやろうとは言っても、通りで明かりつけてるのはウチだけなんだから」
自治会長の田作がピカピカの頭頂部から吹き出た汗を掻きながら、慌てる。
まだ、春先と言えど、夜は冷える。それでも彼が汗だくになるのは、理解できた。
現に、自身の背も石澤のせいで、滲み出る汗に占拠されている。
「だ、大丈夫だろ?だって、俺等には関係ない話なんだろ?こっちが邪魔しなきゃ、何もしないって話だったろ?今日はその確認なんだろ?」
だから、お前は偉そうに一席ぶったんだろ?自分には関係ない。安全圏にいると、現実を直視できないから、ここに縋ったんだよな?
そう、ツッコミたいが、他人事ではない。
「それが…首都圏はかなりやられてるって話があってね。SNSもTVも何にも言わないけどさ。向こうから避難してきた人達が言ってたよ。朝起きたら、道行く人が、同僚が、皆、瞬きしなくなってたって…ここらだって、どうなるか…何かねぇ、学校とか会社にデカイ花が咲いてて、変な煙が、ほら、多分、植物系の怪」
「同盟国は?自衛軍はどうしたよ?安保は?」
田作を遮って石澤が大声を出し、会員の何人かは怯えた目で、外と石澤を交互する。
警察が役に立たない事は、何度も映像で見ているから、わかっている。あの頃はそれでも良かったのだ。
「石澤さん、そもそも通常の兵器が効かないから、恐れられてるんでしょ?それに、名前を替えただけで、平和ボケの軍隊に、何が出来るって言うんだい?同盟国なんて、いの一番に帰国したよ」
「最初は、ほら、集中で強くなる子達とか、異世界から還ってきたって人達で何とかなるって、言ってたんだけどねぇ〜?」
まだ若い会員の女性が嘆息交じりに呟く。だからこそ、皆が追い出した。
常人に非ざる力を持ち、姿、形を巨大化させる技術、簡単に人を操れる能力を有する強大な悪と闘う事が出来る彼等を
脅威だ、教育に悪い、平和な世界では狂気だと抜かし、
ただ、見てくれと分かりやすく、手軽な最強を持つ者達に自らを委ねたのだ。そして、アッサリ見捨てられた。
あまりにも手軽な倫理観(家族や恋人を守る)でしか、闘えない彼等では、世界を掌握しようとする敵と戦うなど、到底無理な話…
だから、こうして、悩んでる。自らの生死に関わると、ようやく自覚して…
「甥っ子の所に、チラシが来たの。戦闘員募集って…入隊すれば、家族に一定の保証がされるって」
「それ、何処までの身内が含まれるのかしら?うちは子供が遠縁にしかいないから」
「おい、子供を生贄にするのか?」
「しょうがないでしょ?それで家族が助かるんだから」
「アテにならねぇだろ?道を歩いてるだけで喰われた奴もいんだぞ?アイツラに人間の道理が通じる訳ねぇだろ?」
「じゃぁ、どうしろって言うのよ?」
「2人共、落ち着いて、もう少し、声のボリュームを下げて…彼等に聞かれたら、それこそ、大変だ」
田作が涙声で懇願し、怯えが伝染ったように黙りこむ2人…恐らく、今、この国のあらゆる所で、わが身可愛さの議論が交わされている事だろう。
数十年も、長きに渡り、我々はこの危機を、
日曜朝に解決してもらってきた。
だが、もう出来ない。解決者が去っても、危機は更新され、危機のままで現在を継続されている。
方法を考えねばいけない。いけないのだが…
それを考えるには、我々はあまりにも他に自身を任せ過ぎた…(終)
「ヒーローのいない日曜日」 低迷アクション @0516001a
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