エラー2 理不尽は突然に ── 祓魔司書、呪縛の檻に今日も喘ぐ


 さて、ここが例の廃旅館か……。


 隣町の駅で降りて、徒歩25分。

 背後に広大な森林に蓋をするようにその旅館は佇んでいた。


 周辺に建物がなく、ここへ来るまでの道も手入れされておらず、木々が荒れ放題でいかにもといった雰囲気が漂っている。


 窓が割れていて、扉も壊れて開いている。

 中をのぞくと、そこかしこにビールの空き缶や菓子袋が散らばっていた。

 建物の中に入る。

 ぎぃ、と木でできた床がきしむ音が響いた。


 天野は、足を止め奥の様子をうかがう。


 明かりと人の声。

 なにかを叩いている音。

 天野はそっと手に持っている本のあるページを開いた。


〈魔道六法第二:偵察法第四条【透視】〉──廊下からは見えなかったが、壁を透視することによって状況が把握できた。


 こういう場所はよく不良のたまり場になりやすい。

 ここも例外なく彼らのたまり場と化しているようだ。


 それにしても、こいつら邪魔だな。

 天野と、そう歳の変わらない3人の不良少女。

 その連中が、いかにも大人しそうな少女を蹴ったり殴ったりと暴行を加えている。

 イジメられている少女はメガネをかけているが、世間一般ではブス。だが天野にとってはとんでもなく美少女である。イジメている3人は……まあその逆だと言っておこう……。


 それにしても、こんな陰の気が濃い場所でそんなことしたら、アレを呼び寄せるって知らないのな、こういう連中は。


「もう……お金ないから」

「金がねーなら、時計でもスマホでも家からくすねてこいっつってんだろ!」

「あぅ……痛いよ、ヤメてよぉ」

「知るかよ、そんなに死にてーなら、ここで殺してやんよ⁉」


 陰湿で悪質なイジメ。

 こんな人気ひとけの無い場所に連れてきて暴力を振るうなんて恐ろしすぎる。


 女子って、怖いな。

 だが、天野は今「仕事」の真っ最中である。

 仕事外のことは、やるべきではないのだが、仕事の範疇に入れば話は別だ。


「……神……さま? ……うん、私を助けて」

「頭がおかしくなっちゃった? 面白っ! ウケるんだけど~?」


 あれは目の前の不良少女を見ていない。

 何もない部屋の角を見つめる眼鏡少女。

 不良少女はまだ状況を把握できていない。


「……はい、なんでもやります」

「──なっ⁉ 誰の仕業!」


 やっぱり引き寄せた。

 眼鏡少女が「契約」したと同時に彼女らがいる部屋の襖や扉が、すごい勢いでバタンと閉まった。


「あがががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががっ!」

「──ちょっ、ちょっと?」


 リンチに遭っていた少女が、ビクンと胸を天井に突き上げる。一度天井にぶつかり着地した彼女は、白目を剥いたまま、彼女を一番殴ったり蹴ったりしていた不良少女の髪の毛をつかみ、壁に放り投げた・・・・・・・


 あんな細い腕で、とてつもない腕力。

 不良少女の千切れた髪の束を横に投げ捨て、次の獲物へと移動を始めた。


 どう見ても、「憑依」されている。


〈魔道六法第六:破壊法第一条【爆壊】〉──閉じていた襖を吹き飛ばし、部屋の中に入る。


「闇の凶兆、幽民ども。祓魔司書のお通りだ。一筆刻まれたい者は顔を出せ?」

「──オマエハ?」

「俺は3級祓魔司書官、天野。──魔物番号1275、第Ⅲ種相当【怨墨女おんすみおんな】。ただちに少女を解放しろ!」


 登場する時に名乗るヤツって、何回やっても恥ずかしい。

 自分の顔が赤くなってないか気になりながら、セリフをつかえることなく言い切った。


「おい、そこに転がっているお前ら、今の内にはやくこの旅館から出ろ!」

「──ひぃっ!」


 すっかり怯えた不良少女たち。


 介入がちょっと遅かったか。

 不良少女が3人とも髪の毛が千切れたり、毛が抜けたりしてそれはひどい有様。これはしばらくカツラを被らないと、学校にも通えんな……。


 まあ自業自得といえばそうなる。

 こんな場所で、人を死ぬほど追い込めば、そりゃ痛い目を遭っても文句は言えん。


「キサマ! よくも」

「オ待チナサイ」


 そうだった。

 もう1体いたんだっけか。


 部屋の床の壊れた隙間から、白い煙が噴き上がり、形を作る。


「マァ、凄くイイ男ジャナイ?」

「姉サマ……」


 いやいやいや、目のやり場に困るんだけど?

 露出度の高い服……いや、下着姿。


 豊満な胸。

 赤い唇からピンク色の舌で口元の妖艶なホクロを舐めずり回しながら天野を湿った視線で見つめてくる。


「モウ、イケナイ子ネ」

「アウ、姉サマ。ゥブ……許……シテ」


 Oh!

 妖艶な女の魔物が、憑りつかれた少女の腰に手を回し、クチュクチュと舌同士を淫らに絡め始めた。


 うーん。えっちだ。

 貞操観念がおかしくなったこの世界では、並の男が見たらドン引きするだろう。

 だが、天野は抗体のお陰で、アッチの方も元気だ。

 なんなら、目の前の光景だけで、一週間くらいは満足するだろう。


 うわっ、そこまでするんだ。


 背後に回って、少女の服に下から手を入れ、まだ熟れ切っていない二つの果実を揉みしだいている。それを傍から見ると服の胸あたりがモゾモゾと蠢いていて、なんとも淫靡な光景が広がっていた。


 ──って、いかんいかん。

 魔物を製本して、大日本國図書館に寄贈するのが祓魔司書の務め。ついつい見入ってしまっていた。


 気を取り直して、手に持っている魔道六法の本を開こうとしたが、一足遅かった。


 ただイチャついてたわけじゃなかった。

 カラダが一つに重なり、少女の中に破廉恥な女の魔物が入っていく。


 マズったな……。

 融合すると化けるタイプだ。

 実戦では初めて拝んだが、師匠から話は聞いていた。

 融合タイプの魔物の最大の特徴は。


「おいでボク。お姉さんがとっても気持ちイイことを教えてアゲル」


 風と戯れる笹の如く流れる優雅な黒髪。

 白い月を彷彿させる絹の着物。

 なにより、あでやかに燃え上がる紅の瞳が、異界の美を現世に顕現させたのを証明している。


 魔物番号0007、第0種・・・【神倶耶姫】。

 日本のお伽話にモデルが出てくるほど有名な最強クラスの大魔。

 融合タイプは、低級の魔物がより上位の魔物に変化する。

 しかし、ここまで化ける魔物の話は師匠からも聞いたことがない。


 こんなの祓魔協会日本支部でもトップクラスの祓魔司書が数人がかりでも敵うかどうか。とても3級司書官一人でどうにかできる相手ではない。


 ──だけど。


「あら、私に抵抗する気かしら?」


 抵抗?

 もちろんするさ。

 だって祓魔司書は、魔物を封じるためにあるのだから。

 絶対に一矢報いてやる!


「魔道六法第五:召喚法第三十八条【山吹兎】」

「まあ、かわいいウサギちゃんだこと」


 天野の周囲の地面から無数の白兎が飛び出てくる。

 大量の兎がそのまま神倶耶姫を呑み込むと中で爆発して白兎ごと吹き飛んだ。


 ──やったか?


 今のは1羽だけ山吹色の目をした白兎が混じっていて他の赤い目をした兎たちに紛れて目標に近づき、自爆するというもの。初見ではまず見抜けない。


「どうしたの、ボク?」

「──っ⁉」


 しまった!

 目の前の濛々と漂う爆炎に気を取られ、背後に回り込まれていたのに気づかなかった。


 両肩から白い腕が伸びて、鎖骨と胸板を弄られる。

 カラダが動かない。

 なにをされたのか、わからなかった。


 舌で首筋を執拗に舐められる。

 両手はだんだんと下の方に下がっていっている。


「どう、気持ちいい?」

「うっ……」


 天野のアソコを微かに触れて、激しく反応する様を見て愉しんでいる。

 このままこんなことを続けられたら頭が狂ってしまいそう。


「あら? もう果てちゃいそうなの……でもダメよ!」


 ガッと天野の股間を鷲掴みすると、熱いなにかが天野の股間に入ってくる。


「あまりにも可愛いからイジメたくなっちゃった」


 天野の股間に呪いをかけたという。

 これからどんなに快感を得られようと、精を放つことができないカラダにしたそうだ。


「その代わり、ちんまりとしたソレを立派な一物にしておいたわ……ふわぁぁ」


 そこまで話すと、神倶耶姫は急にあくびをした。

 眠くなったから今晩はそのまま少女のカラダで睡眠を取ると言う。

 少女に憑依したままで、術などで無理やり剥がそうとしたら少女まで死んでしまうから注意するように言って、その場で崩れ落ちた。


 天野はパンツとズボンを上げる前に自分の一物を確認する。


 ──でっ、デカい。

 これって、海外のエロ動画サイトで見るヤツだ。


 パンツを上げてみたが、ボクサーパンツの横から零れ落ちてしまうほど、ジャイアントなサイズ。


 目の前に倒れている少女と、少女に憑りついた神倶耶姫。そして瀬戸内なのはの2人と1体が、これから大いに悩まされるとはこの時、天野は露とも思っていなかった……。










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祓魔司書官、天野の苦悩 あ、まん。 @47aman

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