ひとりの人物の姿をくっきりと読者に刻む

 物語的な強い出来事があるようなジャンルではない。ただひとりの彫師のこれまでと今日を描いた短編で、その限られた世界に対する完成度が非常に高い。
 それを包括的に支えているのは、作者のバランス感覚だと思う。
 描写や比喩を積極的に使いながらも、抑えるべき部分では抑え、あるいは完全に絶ち、違和感なくまた使うこと。
 そういう、技量とも、あるいは感性ともいうような部分が優れているように思う。
 しかしそれが拙を生んでいるようにも思う。

 主人公の抱える過去が、出来事によってコンフリクトとして発露する場面が終盤にあるが、なるほど文字数制限もあるし、読後感などを踏まえると確かにこのような文章量で抑えるべきだと感じる。
 しかし、言い方を悪くしてみると、要はここ一番の山場になりうる部分で、形が崩れるし尺も足りないからと縮めている……というようにも感じた。

 本作が応募してあった1月山羊座大賞は三島由紀夫に捧げる作品ということで、それが唯美的じゃないように感じるというのは、ちょっと諸手を挙げずらい。
 そういったことも含め、☆2。

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