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第12話 🦊 義光の回想:出羽の狐、その孤独な半生
第12話 🦊 義光の回想:出羽の狐、その孤独な半生
大内定綱をムエタイの蹴りで打ち破った夜。雪は止み、月が最上義光の陣屋を照らしていた。
義光は、燃える囲炉裏の火を静かに見つめていた。その傍らには、左腕のカードが弱く点滅している猛がいる。勝利の歓喜はつかの間、義光の心には、これまで歩んできた苛烈な道のりが去来していた。
「(ふう…)あの定綱を一撃で仕留めるとは。お主の力は、わしの知る武とは、あまりにかけ離れておる。…だが、あの力こそ、この乱を終わらせる鍵かもしれぬ」
「あんたは、この乱を乗り越える。それは未来が決めていることだ」
「未来か。わしの半生など、未来に記すほどの価値があるのか…」
義光は静かに目を閉じる。彼の脳裏には、父・義守との、長く、辛い諍いの記憶が蘇っていた。
「天文十五年、雪の深い庄内で産声を上げ、白寿丸と名付けられた。十五で元服し、足利義輝様から義光の名を賜った。だが、わしの初陣は寒河江城攻めでの大敗だ。父上(義守)の領土拡張策を、わし自身が頓挫させてしまった」
「そんな失敗、誰にでもあるだろ。大事なのは、そこからどう立ち上がるかだ」
「そうではない。この最上家は、常に伊達の影に怯えてきた。父上は、伊達からの独立を回復しようと戦ってきたが、わしが…」
義光は、さらに深く、ため息をついた。
「永禄七年、妹の義姫を伊達輝宗に嫁がせた。政略結婚だ。妹は、永禄十年には梵天丸…後の伊達政宗を産んだ。政宗はわしの甥だ。血の繋がりがある。だが、この血縁が、後々まで最上と伊達に呪いをかけることになったのだ」
義光は、囲炉裏の火に薪をくべる。
「そして、あの元亀元年(1570年)だ。父上とわしの間で諍いが起こった。病床にあった氏家定直の仲裁で一旦は収まったが、翌年、わしが家督を継いだ後も、父上の不満は消えなかった」
「親子の間で、家督を巡って争うのは、いつの時代も苦しいものだ」
「苦しいなんてものではない。天正二年、ついに父上は、妹婿である伊達輝宗を頼って、わしを討とうとした。伊達輝宗は、岳父(義守)救援という名目で、最上領内に出兵してきたのだ」
義光は、その時の四面楚歌の状況を思い出し、身震いした。
「天童、白鳥、蔵増、延沢…奥羽の有力な国人衆が、すべて伊達につき、わしは孤立無援だった。まさに四面楚歌。だが、わしは退かぬ。ここで屈すれば、最上家は伊達に飲み込まれ、奥州の民は苦しむだけだ」
義光の瞳に、強い光が宿る。
「わしは、すべての攻勢を巧みに退けた。そして、天正二年九月、わしに有利な形で和議を結び、ついに伊達氏からの完全な独立を勝ち取ったのだ」
「…すごいな。あんたは、自分で未来を切り開いたんだ」
「その独立を得たからこそ、今、わしは再び、わが甥・伊達政宗と戦わねばならぬ。血族の諍い、親子の諍い、兄弟の諍い…奥羽の戦は、常に血の呪いに囚われている。あの輝くカードは、もしかしたら、この奥羽の呪いを断ち切るために、未来のお主を遣わしたのかもしれんな…」
義光は、猛を真っ直ぐに見つめた。
「斉藤猛殿。わしには時間がない。そして、お主にも、あと九日しかないのだろう。わしは、この戦を終わらせ、最上の民を守る。お主は、その拳で、わしを未来に連れて行け!」
猛の左腕のカードは、この激しい決意に応えるように、再び光を強め始めた。
ウォーズカード 応募受付期間終了時点までに本文が10万文字(文庫本1冊分の目安文字数)以上であること。なお、長編、連作短編等小説の形式は不問といたします。2月2日 鷹山トシキ @1982
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