殺人鬼少女の悪雄浪漫〜ピカレスクオブシリアルキラーガール〜

@kandoukei

思い出1:武器を持つ姉さん

 これは僕が幼稚園の頃、身体の大きい子や意地が悪い子に虐められた時だった。

「いたい、いたいよぉ。」

「ははは、よわむしがなきむしになりやがって! あくやくになるのがいやなんて、いうことがきかないやつだな!」

「おまえなんかひーろーであるおれたちがぶっころしてやる!」

「ぎゃははは! たすけをよんでもむだだぜ! おれたちはせんせいにしかれられないんだぜ!」

 苛めっ子達の親は金持ちだった。だから、先生は頭が上がらず、周りにいる他の園児は人助けに目もくれず、遊び盛りを謳歌した。

 このまま、僕は虐められた末に助けを求めた、生涯最愛の姉さんに。

「おねえちゃん! たすけて、おねえちゃん!」

「ははは、おんななんかにたすけをもとめて、みっともね…いだあぁぁぁぁ!?」

 その男子の股間が誰かに蹴り付けられた。蹴った誰かとは僕の姉さんだ。

「ねぇ、なんで? なんで、わたしのおとうとをいじめるのかな?」

「いてえぇよ! ち◯こがいてえぇよ!」

「だいくん!? おい、おんなのくせにひでぇことしやがって!」

「ゆるさねぇ、ぶっころす!」

 身体の大きな子の取り巻きである二人が姉さんに襲い掛かる。

 だが、ただ襲われる柔な女じゃないことを僕が知っている。

 まず、姉さんは右手に持った石を一人の苛めっ子の身体で数回に殴り、その拍子に相手の小指を折り、痛みで怯ませた。

「こゆびが!? こゆびがおれたぁ!」

「やっぱり、あたまをなぐらなくてよかった。あたまにちがでたら、おかあさんやおとうさんがあわてるから。」

「このやろう! いしでなぐるなんて、ずりぃぞ! せいせいどうどうたたかえ!」

 もう一人の苛めっ子が突っかかるも、次に、姉さんは左手に持った先の尖った小枝を振り上げ、相手の頬を薄く切り、血を流させた。

「うわぁ、ちがぁ!? ちがぁでたあぁぁぁぁ!? ままー! せんせいー!」

「ちをみせれば、こわがりやすい。おもしろい。」

「こら! 何やっているの!」

 幼稚園の先生が金持ちの子供を庇い、彼らの両親に叱られるのが嫌な彼女は姉さんに怒鳴る。

「遊びでも同じ園の友達を傷付けるのはいけないわよ! 謝りなさい!」

「そうだ、そうだ! あやまれ、あやまれ!」

「これでおまえはおしまいだ!」

「あやまったら、どれいとしてゆるしてやるぜ!」

 苛めっ子達が先生の後ろに隠れながら、挑発した時、姉さんは先生を睨み付けた。

 可愛げのある顔に殺気をこもらせながら。

「ねぇ、なんで? なんで、いつきをいじめたあいつらをかばうの? なんで、いつきをたすけてくれなかったの?」

 僕、『一樹いつき』の名を話し、目の圧で先生に訴える。幼いながらも鋭い視線に先生は狼狽する。

「いや、たまたま、その場に居なかったから…もし、この子達が一樹君を虐めてたら、助けに…」

「このまえ、せんせいんとこをあそびにきたとき、だいくんたちのおやにしかられたのみたよ。あのひとたちにしかられるがいやだから、いつきをたすけなかったの? だいくんといっしょにいつきをいじめたの? どうして、こわいから? いやだから? ?」

 姉さんの的を射た発言に神経が触られた先生は眉間に皺寄せ、目と歯を食いしばらせ、姉さんを睨みながら、罵詈雑言を放つ。

「あんたに何が分かるのよ! あの糞じじぃと糞ばばぁに頭を下げないと、私の将来にひびが入るのよ! それなのにこの糞餓鬼も同様、馬鹿な園児たちはぎゃーぎゃー騒ぎやがって! 休む暇も、昼食を食べる暇も無い! おまけに月給は安いわ! 煙草や酒も出来ねぇわ! いい男も見つけられないわ! ストレスが溜まるのよ!」

「せんせい、かわいそう。でも、わたしにとってはいつきのほうがかわいそうだから、しょうがないよ。」

「…しょうがないなら、あんたの弟に八つ当たりしても仕方が無いわよね! おい、この糞坊主、あんたのせいで私に迷惑が掛かるから、さっさと幼稚園から出てけ!」

 あまりの苛立ちで常識が錯乱した先生は僕を引っ叩こうとした。

 鋭い叩く音が園内に広がった時、僕の頬に痛みを感じなかった代わりに、姉さんが僕を庇い、頬に赤い痣を付けていた。

「おねえちゃん!? おねえちゃん、ごめんなさい! ぼくのせいで、ぼくのせいで! ぼくはもうようちえんなんていかないから…」

 その時、姉さんは僕を抱きしめ、背中を摩り、頭を撫でた。

「だいじょうぶだよ、いつき。いつきは私がまもるから。」

 僕を慰めた姉さんは苛めっ子や彼らを庇う先生に向き直った。

 その瞬間、彼らは青褪め、姉さんは笑った。

「きゃは…!」


 

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