いつの間にか逆ハーレムの中心にいた聖女

うちはとはつん

「ハーレムなんてありえない」そう思っていたのに、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた聖女


「お断りします」

「なぜ……だ?」


私のきっぱりとした物言いに、シリウスが瞠目する。

シリウスの声はかすれていた。

自分が断られるなんて思わなかったんだろうな。


私は今、王太子殿下の求婚を断っていた。

一言で無下にするのは、のちのち根に持たれそうだから、とくとくと説明して差し上げる。


「シリウス様は、恋愛を何だとお考えですか?」

「恋愛だと?」


「失礼ですがシリウス様には、ご婚約者のアウローラ様がいらっしゃるではありませんか。

なのに私へ声をかけるなど、アウローラ様への裏切り。

そう思いはしませんか?」


「……ルーナ、君は何を言っているんだ?」

(はあ……)


私は胸の奥でため息をつく。

これだから乙女ゲームはっ。

これだからハーレムゲームは駄目なんだ。


私は病室のベッドで、寝ていたはずなのに。

260インチのモバイルプロジェクターをこっそり持ち込んで、壁に映してプレイしてただけなのに。

気づいたらその乙女ゲーム、「星降る夜のアルテミス」の中にいた。

その主人公キャラ、庶民の出で聖女見習いのルーナになっていた。


どうしてこんな事にって思ったけれど、何度寝ても、何度起きても、この夢が覚めない。

なので最近、「あ、これ夢じゃないかも」って思ってきてる。


だんだん、こっちの生活に慣れてきたと思ったら、乙女ゲーム内のイベントがどんどん始まった。

もう勘弁して下さい。


ハーレムは、ゲームって割り切ってるから良いんです。

それが実際に起きて、次々に素敵男子に告白されて、それがとってもいい気分!

――て思えたのは、初めの内だけだった。


私は考えてみた。

1人の女性に、15人の男子とかが婚約を求めてくるんですよ。

僕たちは、君が幸せならそれでも構わないって、16人の集団生活OKなんですよ。

これ実際に起きたら、恐怖でしかありません。

ゲームだから良かったのにっ。


16人の集団生活を、平気で受け入れる人が実際にいたら怖いんです。

その人の心に、ぽっかり空洞があるみたいに感じるんです。

これって不気味の谷って言うのかな?

たぶんそれに近い何か。


これだからハーレムはっ(2回目)

――と怒っていますが、そのゲームを夢中になってやっていたのは私なので、その引け目を感じて、私はシリウスにとうとうとご説明する。


「シリウス様。あなたは人を愛するという事を、真剣に考えた事がおありでしょうか?」

「だからルーナ、君に求婚している。のちに聖女となる君を守るために」


「15人で?」


「なにっ、もうそんなに求婚されているのか。

くっ、構わない。

ルーナを守るために、もう一つ集団結婚生活のための城を建てよう」


「あ~~~」


ポンコツか!

でもシリウスは、見込みあるポンコツだった。

まずスペックが高い。

高いと言うのは顔とかお金とか、そういう意味じゃない。

シリウスはこのゲームの最終攻略対象、つまりラスボスだった。


それだから各種のパラメータが高い。

その中の「適応力」という数値が、攻略対象の中で一番高い。

さっきの「城を建てよう」も、あさっての方向に能力が行っちゃってるけど、それは適応力の高さゆえだった。


だから私は期待する。

私に適応して欲しい。

私の考え方に適応して欲しいんです、シリウス様。


「シリウス様は、どなたが一番好きなのですか?」

「それは勿論、ルーナとアウローラだ」

「あ~~~」


堂々とよくもまあ。

恥ずかしげもなくっ。


「シリウス様、一番とは一人という意味です。私とアウローラ様のどちらかと言うことです」

「だから国のために一人。民のために一人」


「ちょっと待って下さい。国!? 民!?」

「アウローラとの結婚は、貴族間の繋がりを強固にするために必須だ。

君との結婚は、民に災いが降りかからぬよう、君を守るために必須だ」


「それ、重婚じゃ!?」

「じゅうこん?」


シリウスの恋愛観には、個人のためというものがなかった。

シリウスは、シリウス個人の心に目を向けていない。

私はその心へ目を向けてくれるよう、根気よく「恋愛とは」と説明する。


「シリウス様ご自身の心は、どう思われているのですか?」

「私の……心」


一番適応力のあるシリウスが理解できないなら、ほかのキャラ全部駄目だ。

それを思うと、簡単に説得を諦められない。


私たちはお城の中にある、薔薇の庭園を散策しながら話し込む。

初めはベンチに座っていたのだけれど、私がじっとしていられない。

シリウスは私の言葉に、耳を傾けていてくれたけれど、説明が2時間ほど過ぎた辺りから、顔が険しくなった。

2人とも歩き疲れて、へとへとになったところで、シリウスが声を荒げた。


「ルーナ、君の考えは分かった。

だが、君の言葉には心がこもっていないっ」


「え?」


「真実の愛だとか、赤い糸だとか、運命の人だとか。

そう熱弁するが、君自身はそれを体験しているのか?

君の言葉はどこか芝居の様だ。

ただ借りてきた言葉を、並べ立てているだけなのでは?」


「うっ」


私は心の中で、こむら返りを起こした。

立ち尽くしたまま転がり続け、心の中で庭園を這いずる。


ああああああっ。

ああそうですよ! 借りてきた言葉ですよ!

くううっ、シリウスの適応力が、私の痛いところに適応してるー!


そうなのでした。

わたしはずっと病弱で、病院のベッドに寝てた。

私の恋愛知識はそのベッドの上で、読み漁ったマンガ、小説。

そして乙女ゲームだった。

私自身が体験したものなんて、これっぽちも無い。


実際にがっくりと膝を落とし、両手を地面に付けた。

私の目の前を、アリンコが通り過ぎていった。


「ううう……だって、仕方ないじゃないですか。

知識から入って何が悪いんですか。

私はいつも部屋(病室)で一人切り。

そんな私に、ほかにどんな方法が……」


「そうだね、貴族に生まれた女性は大切に育てられて、なかなか外には出られない。

君は以前、私はただの庶民ですと言っていたが、一般的な家庭でもそうなのだろう」

「ん?」


「だから君の知識が実際に存在するのか、体験してみようじゃないか。

どうやら僕たちには、経験値が足りないようだ。さあ行こう」

「どこへ!?」


一緒に、気兼ねのない普通のデートをしてみよう。

2人で体験してみよう。


「さあこっちだ」

「え!?」


そういう事になった。



    *



私はなぜかシリウスと一緒に、街を歩いていた。

シリウスは仕立ての良い服から、今は庶民の服を着ている。


「シリウス様、お顔を見られて大丈夫なんですか?」

「平気さ。民はシリウスという男がいるのは知っている。

けれどその顔を知るものは、ほとんど居ないからね」

「それなら良いんですけど」


「ルーナ、ここからは僕の名はシリウスではなく、シリだ。

あと(様)と、敬称もつけてはいけないよ。

ヘイ、シリって、気兼ねなく呼んでくれ」


「ちょっと軽くないですか?」

「君の知識では、18歳とはそういうモノなのだろう?

では手を繋ごうか」


「まだ早いです」

「そうなのか」


私がきっぱり断ると、少し悲しそうな声を出したけれど、シリはとても楽しそうだった。


「ふふふ、しかしこうして、ルーナと来て良かった」

「そうですか」


「国や街の主要な通りは、全て頭に叩き込んでいるんだ。

他国が攻めてきた場合、どこでせき止めて防衛するかが重要になってくるからね。

でも実際に見る通りは、ぜんぜん違うなあ。

見てごらんよ、小さな店がいっぱい並んでる。

良い匂いがしているね。

狭い脇道もたくさんあるなあ。

あの先がどうなっているのか、わくわくしないかい?」


「えっと、はい」

「おいで、あの店を見てみよう」

「は、はい」


あれおかしいな。

私が指導していたはずなのに、私の方が引っ張られている気が?

まあいいか。


「ゆうえんち? それは何だい?」

「えっと遊園地というのは――」かくかくしかじか

「へえ、興味深い、サーカスとは違うようだね。

それが異国のてっぱん? というモノなのかい?」

「はい、そうらしいです……ごにょごにょ」


私たちは今、カフェテラスにいた。

軽い食事をしながら異国の事として、遊園地だとか水族館だとかの話をしていた。


「面白いなあ、今度うちの国でも作らせてみよう。

確かに民たちの憩いの場と言うのは、大切だからね」


「シリは、いつも民のことを考えているのですね」

「別に、そういうつもりは無いんだが」


シリウスはゆったりと周りを見る。

その目はとても優しかった。


「貴族というものは勝手だからね。

国の土台を支えているのは、民なんだという事をすぐ忘れてしまうのさ。

だから王太子である僕だけでも、それを忘れないようにしないと」


「シリ、あなたは……」


ああ、この人はそう言う人なんだ。

乙女ゲーム「星降る夜のアルテミス」でのラスボスは、決して悪ではなくて、女子が追い求める高嶺な男子として作られている。

この人はハーレム重婚以外、完璧な人なんだ。


私の手の中には、街歩きの途中でシリウスに買ってもらった、ピアスの入った小箱がある。

遠慮したけれど、これも経験値だよと言われてしまった。


普段使いのもので、それほど高くはない。

初め凄く高い物を買おうとしていたけれど、私が「18歳の普通男子はそんな高いものを買いません」と言ったら、笑って納得してくれた。

この人は本当に適応力が高いなあ。


エメラルドグリーンの瞳、緩くウェーブの掛かった金髪。

うん、顔のスペックがやっぱり高い。


「ん、何だいルーナ」


いけない、私シリウスをじっと見つめてた。

私は取り繕ってお茶を飲む。


「ううん、何でもありません。次はどこへ行きましょうかシリ」

「そうだね、ルーナの言っていた(すいぞくかん)ではないが、明日は海へ行ってみないか?」


「明日も?」

「そうさ、時間はたっぷりある。ゆっくり僕たちの経験値をためて行こう」



    *



サンダルを指にかけて、白い砂浜を素足であるく。

さざ波がゆっくりと浜をさらい、ぷちぷちと小さな泡音を立てた。


足の下の砂が流され、バランスを崩してしまったとき、思わずシリの袖をつかんでしまう。

白いシャツの彼が、笑ってそのままつかまっていなよと言うので、私は口を尖らせて手を引っ込める。


海鳥が風に乗り遊んでいた。

いやあれは、海面の魚を狙っているのさ。

シリがそう真面目に返すものだから、「まあ、何でも知っているのですね」と褒めてあげる。

だけどそれでシリが、あのヒトデはねとか、この海藻はさとか、解説魔になったものだから、青い空を見て辟易した。


また別の日には、ピクニックに行った。

こういう時は女性がお弁当を作って、男の胃袋を虜にするのだろう?

どこで予習してきたのか、シリが当然のようにのたまうものだから、私はこう言い返す。

そうね、私がどうしても振り向いて欲しい人にはね。

でもシリ、振り向いて欲しいのはどっちだったかしら?


彼は困ったようにして、肩をすくめた。

大丈夫、ちゃんと作ってあげる。

でも買い物には付き合ってね。

重いものは全てシリが持ってね。


草原に、黄色と白のチェック柄のシートを敷く。

シリの目の前で、藤で編んだバスケットを開いてあげると、彼の目が輝いた。

手作りかい?

もちろんよ。

きみの? 

ほかに誰がいるの? 


シリが嬉しそうに、ベーコン10枚重ねのサンドウィッチを頬張る。

立て続けに3つ食べて、4つ目で顔をしかめた。

からいっ。

ふふ、それ当たりね。カラシがたっぷりなヤツ。

マーモット(大リス)が後ろからこっそり近づいてきたので、リンゴをひとつ分けてあげた。


短い夏が過ぎて。

私とシルは、一つのブランケットにくるまって星空を眺めていた。


星がひとつ、ふたつ、銀色の尾を引いて流れていく。

ちょうど毎年秋の終わり降る、アルテミス座流星群をふたりで見つめていた。


「嬉しいよルーナ。あの時買った月のピアス、やっとつけてくれたね」

「なんかあったから、付けただけです」

「似合ってる」


もうっ、耳元でささやかないで!

ああ、どうしようっ。

これって、告白してきたキャラを受け入れた時に見る「流星群イベント」なんだけれど……

わたし別に、シリウスを受け入れてないよね?


ただ湖のほとりでキャンプして、焚火の灯りでご飯食べて、夜になったから星空見てたら、ちょうど流星群の季節だった。

それだけなんですけどっ。

それだけだよね?

それだけだよねー!

私が身じろぎすると、シリウスがぎゅっと抱きしめてくれる。


「寒いかいルーナ?」

「いいえ、あのやっぱり私、自分のブランケットにくるまりますから」


私はするりとシリウスの腕から離れて、自分のブランケットにくるまる。

くるまったブランケットは冷えていて、ぶるりときた。


「ふたりでくるまった方が暖かいのに」

「いえ、良いんですこれで」


シリウスは別段、がっかりした様子もなく微笑んでいた。

冷えたブランケットにくるまった私の方が、寒くて後悔したかもしれない。

だから私は、シリウスの肩にピタリと身を寄せた。

これぐらいは良いよね。


私が肩から伝わるシリウスの温もりに、こそばゆくなっていると、彼が静かに語り始める。


「ルーナ。ここ2ヶ月ほど君と色々な経験をして、ようやく分かったような気がするよ」

「何ですかいきなり」


「僕自身の心というものがさ、こう……ふわりと胸の奥に湧き上がってくるんだ。

国や民も大事だけれど、ルーナの言う通り、僕自身はどうかと問うことも大事なことだと」


「シリウス様」


「こうした時間が本当に楽しかった。

とても小さな気づきを、いっぱいしてきた。

そしてそのどれもが、ルーナと一緒じゃないと、見つけられないものだった」


夜空から、流星がひとつふたつ降り落ちる。


「かけがえのないもの、ばかりだった。

本当にきらきらした一瞬一瞬だったよ」


「シリウス……」


私の胸がどくんと波打つ。

シリウスの言葉が私に染み込んで、得も言われない幸福が沸き上がった。

草陰で、秋の虫が静かに鳴いていた。

シリウスが星空を見上げる。


「だが……だからこそ、より一層国が大事だと思い至った。

僕自身と同様、民たちそれぞれの自分自身を、大切にし守らなければならない。

そのためにも国と言う枠組みを、しっかり保たなければ駄目だ」


「シリウス?」


「ルーナ、君への思いがより一層強くなった。

誰にも渡したくない。

自分だけのものにしたい。

けれど……

ふ……これが僕の心だったんだね。

僕はこの思いを、しっかり胸に刻みこんでいく」


「んん!?」


あれ? なんだかシリウスの言葉を聞くのが怖くなってきた。え!?


「国内の派閥の繋がりを強固にするため、公爵令嬢アウローラとの婚姻は欠かせない。

それが軍事力に直結するからさ。

そこに個人の感情は関係ないんだ。それが貴族同士の結婚というもの。

だから僕は、ルーナに心ひとつで飛び込み、良人となることはできないんだ。

ルーナが求める、2人だけで寄り添うことはできないんだよ。

ああ……ルーナ。

僕が君に、申し入れた言葉は忘れて欲しい。

僕はルーナとの日々を胸に抱き、遠くから君を見守っているよ」


「えええええっ!?」


私は心の中で、こむら返りを起こした。

そのまま心の中で、階段を転げ落ちた。

心臓から、ドンガラガッシャンと音がする。

私は言い知れぬショックを受けていた。

そのショックを、受けたこと自体にびっくりする。


いや、これで良いのでは?

初めにお断りしたのだから、シリウスが諦めてくれて良かったのでは?

そう正論を突きつける心の声に、私はへそを曲げる。

思わず不満が漏れた。


「ずるいです」

「ルーナ?」

「だって……だってそれ、ずるいじゃないですかっ」

「何をいって」

「とにかくそれは、ずるいんですっ」


だって私もこの2ヶ月間で、いっぱいキラキラした瞬間を経験したのだもの。

シリウスと一緒に、経験値をためてしまったんだもの。


シリウスの求婚辞退ショックで、私は分からされた。

私の気持ちは、とっくにシリウスへ傾いていた。


転生前にゲームとしてプレイしている時だって、実はシリウスが推しだった。

だからっ。

だから諦める何て言わないで。

私のことを諦めるなんてずるいっ。


「ずるいわっ、ずるいです、ずるいずるいっ」


身勝手にむずがる私を、シリウスが困ったように見つめた。

そしてまた自分のブランケットに、私を包み込む。


「ルーナ、聞いてほしい。

僕以外の求婚した14人も、君のことを本気で守りたいと思っているはずだ。

聖女となる君には、君を守るべき者が必要なんだよ。

彼らの真心にも、僕と同じように向き合ってくれたら嬉しい」


そんなの今言わないで。

そんなの女子が、ただハーレムゲームがしたいだけの、ご都合設定なんだからっ。


「何で今、そんな事を言うんですかっ。

何で私を他の方に託すようなことを!」


自分の感情がよく分からない。

私はこの2ヶ月間、勝手に舞い上がって、勝手に喪失感を覚えて、勝手に取り乱していた。


許さないっ。

ゲームのご都合設定なんかに、私の気持ちが負けるわけないっ。

私はシリウスの腕の中で、くるりと回転し、彼の胸に顔をうずめる。


とにかくグイグイ押す。

推しを押す。

ビクともしないから、足を引っかけた。

転生前、病弱だった私は、柔道マンガ「やわらはん」の愛読者だった。

シリウスが、私を抱きながら背中側へ転ぶ。


「何をしてルーナ!?」

「ずるいんですっ」

「なにがっ」

「あなたがシリウスっ」

「意味が分からない?」

「とにかくずるいっ」


私はシリウスの胸に、デコをこすり付ける。

摩擦でひりひりしたところで、肩を掴まれぐっと引き離された。

シリウスが真剣な目で、私を見つめている。


「ずるいのは、君じゃないかルーナっ」

「どうしてっ」

「分からないのか、僕の心をかき乱してっ」

「分からないわっ」


「僕を跳ね退けておいて、今更なんでこんな事をっ。」

「こんな事って何ですかっ」

「こんな事だよっ」


シリウスが再び私を引き寄せ、強引にキスをする。

私は無理やり唇を奪われたまま、シリウスのお腹にパンチを連打した。

5秒? 6秒? 長いながいながいっ。


やっと開放してくれたシリウス。

その顔がすぐそばにあって、怒ってた。


「僕はずっと我慢していたと言うのにっ、ルーナ、君ってやつはっ」

「はあ、はあ、はあ、死ぬかと思ったっ」

「ああ……ルーナっ、本当に本当に君ってやつはっ」


「私のこと諦めないでシリウスっ」

「ああなんてことだ、もう僕は、君を手放せない」


後で知ったんだけれど、その夜、一度にたくさんの流星群が落ちて、街で話題になったみたい。

けれど私は、その瞬間をぜんぜん見ていなかった。

星空に背中を向けて、シリウスの胸に顔を埋めていたから。


カカカカカカカカカッ。


湖畔のキャンプ場に、霧が立ち込めて朝ぼらけ。

どこかでキツツキが、ムキになって木を突っついている。

その音で目覚めた私は、シリウスの腕の中にいた。

シリウスは眠っている。


そっと起き出して、手ぐしで髪をといていると、どんどん冷静になってきた。

うわうわうわっ。

自分の大胆さに呆れる。

あれほどゲームシステムを気持ち悪がってたのに、自分から求めてイベントクリアしてしまった。

そして私は、アウローラ様を思い浮かべて顔が青くなる。


「うううっ」


でも青くなってる場合じゃない。

結ばれたからには、シリウスを困らせたくない。

ちゃんと支えていきたい。

だから私は、シリウスの寝顔を見つめ決意する。


「こうなったら、行くとこまで行くしかないっ」



    *



そして半年後。


私はシリウスが新たに建てたお城で、集団結婚生活を始めていた。

流石は、ラスボスのシリウス。

建てると言ったら、本気で数ヶ月で城を建ててしまった(魔法的なご都合設定で)。


朝の7時。

私はフライパンを、お玉でカンカン叩く。

カンカンカンカンカーンッ。


「ほらあ、朝ごはんよー!」


これが私の選んだ「真実の愛」の形だった。

ハーレムゲームだけど、現実は私が支配する。


食卓にはシリウスを筆頭に、碧眼の騎士団長、銀髪の魔法使い、その他個性豊かな総勢15人の「良人」が、行儀よく席に着いていた。


お手伝いさんに頼らず、自分の力で、男たちの胃袋をわしづかみで支配する。

それがせめてもの、私のゲームシステムへの抵抗だった。


ちなみにアウローラ様とは、シリウスをシェアしながら、お互い「ハーレム維持大変あるある」で意気投合してお友達になっていた。

(私以外の女子も、ガンガンハーレムを作ってた)

こうして聖女ルーナによる、15人の旦那を尻に敷く、逆ハーレム生活が始まる。


これが私の適応力!

私はフライパンを、もう一度カーンッと鳴らす。



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