Short EP 独りと一人

 自宅に着くと俺は姫兄から受け取っていた予算削減予定の部活動表と在籍している生徒名簿に目を通した。


 予算削減の目処が立っている部活動は運動部が1、文化部が3。サッカー部の方は後日詳しく渓から事情を聞くとして文化部の3つ、文芸部、漫画研究会、放送部に関してはなんとか現状把握と改善案を練らなければならない。


 そもそも各部活どこに予算を当てているのかという所もまとめなければ話にならないだろう。


 とりあえず今悩んでも埒が開かないし明日それぞれの部長を訪ねてみるかと考えて書類をファイルにしまった。



 ステンレス製の組み立て式ラックに置かれたミニコンポの電源を入れてケーブルでスマホと連動させる。


 プレイリストを開いてランダム再生するとSIRUPの"LOOP"が流れ始めた。


 心地いいジャズ調のイントロが7畳一間の空間に漂いどこか雰囲気のいいバーにやってきたような感覚になる。その雰囲気に流されるように予めポットで沸かしていたお湯をティーバッグ入りのマグカップに注ぎ紅茶を淹れる。


 日が沈んでどこからともなく夕食の香りやシャンプーの香りがするこの時間はささやかな幸せを感じると共に少し寂しい気持ちにもなる。


 上京一年目の春はホームシックとまではいかないものの家族のいない家に帰ると寂しさを覚えたっけ。


 そんな自分を受け入れてくれた今の仲間たちが居るからこそ二年目になったこの春は一人で紅茶を飲みながら音楽に心を委ねる事ができているのだろう。


 なんて考えながら紅茶を一口啜り俺はベランダに出た。今年も相変わらず春の夜風が頬に触れる。


 「ちゃんと変われているのかな」


 ぽつりと呟いた声が春の優しい風に乗ってどこか遠くへ消えていく。


 そしてそれは真夏の打ち上げ花火のように儚くも美しく消えていった。

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束縛系彼女に捧げた三年が終わったので今度こそ本気で青春します!!! ちーずとーすと @shun042701

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