第4話:虚無の視線と、未来の亀裂

 最悪の歓迎を受けた俺たちは、指定されたノアⅣ専用のハンガーへと向かった。

 ここには、俺のベオウルフが先に輸送されているはずだ。


 巨大なシャッターが開く。

 広大なハンガーの片隅に、俺たちの愛機が見えた。漆黒の装甲は、煌びやかな最新鋭機たちが並ぶ中では、確かに古びて見えるかもしれない。だが、俺にとっては一番落ち着く「鉄の塊」だ。


 だが――俺の視線は、その隣の区画に釘付けになった。


 そこには、見たこともない異様な機体があった。

 全身が艶のないマットブラックで塗装された、鋭角的なシルエット。

 光を吸い込むようなその機体は、見ているだけで不安になるような「虚無」を感じさせる。


 ノアⅥ代表機、『ノワール』。


 そして、その足元に、一人の少年が座り込んでいた。

 白衣のような服を着た、色素の薄い少年。

 年は俺たちと同じくらいか?

 膝を抱えて、虚空を見つめている。


「……誰だ?」


 俺たちが近づいても、彼はピクリとも動かない。

 まるで、そこに誰もいないかのように。世界から切り離されているかのように。


 アリアが、吸い寄せられるように彼に近づいた。

「あの……大丈夫ですか?」


 彼女の優しさが、放っておけなかったのだろう。

 少年が、ゆっくりと顔を上げた。


 目が合った。

 

 その瞬間――。


 キィィィィィィィィィン!!


「がぁぁぁっ!?」


 俺の脳髄を、焼き切れるような激痛が走った。

 視界が歪む。世界が反転する。


(なんだ……この映像(ビジョン)は……!?)


 脳裏に、知らない景色がフラッシュバックする。


 ――崩れ落ちるピラミッド。

 ――アリーナを焼き尽くす、見たこともない黒い炎。

 ――血まみれで倒れているユキ。

 ――泣き叫ぶアリア。


 そして、その中心で、黒い翼を広げて空を覆い尽くす、悪魔のような巨人の姿。


「はっ、はぁ、はぁ……ッ!」


 俺はその場に膝をついた。

 脂汗が止まらない。今のはなんだ? 妄想か? それとも……未来?


「カイト! しっかりして!」

 ユキが駆け寄ってきて、俺の背中をさする。


 俺は荒い呼吸を整えながら、白衣の少年を見た。

 彼は、何事もなかったかのように、無機質な瞳で俺を見つめていた。


「……任務(タスク)、確認。対象、ベオウルフ・リベリオン」


 少年――レイが、感情のない声で呟く。


「障害と判断。……排除します」


 ゾクリ、と背筋が凍った。

 殺気ですらない。ただ事務的に、ゴミを処理するかのような純粋な意思。


 こいつも、参加者なのか。

 フェイとは違う、底知れない闇。


 イザベラが背後で、愉悦に満ちた声を漏らした。


「風の天才に、虚無の申し子……。そしてこれから来るはずの、狂気の死神。役者は揃ったわね」


 彼女は俺の肩に手を置いた。


「覚悟しなさい、カイト。これから始まるのは、ただのトーナメントじゃない。

 人類の『種の限界』を決める、実験場よ」


 俺は震える拳を握りしめ、立ち上がった。

 脳裏に焼き付いた、あの破滅のビジョン。

 ユキが死に、アリアが泣く未来。


(そんなもん、認めない……)


 俺の身体の奥底で、ディーバシステムと共鳴した「何か」が、熱く脈打ち始めていた。


「上等だ……。全員、まとめて相手になってやるよ」


 こうして。

 星の命運を懸けた『星歌祭』の前夜は、不穏な静けさと共に更けていった。


(第二章・完)


【第三章:開幕、星歌祭! ピラミッドの影に潜む罠】


 ついに始まる星歌祭。

 第一回戦の相手は、豪快なパワーファイター『アストロ・ガイア』。

 だが、カイトを狙うのは対戦相手だけではなかった。


 エジプトの支配者、アズラエルの冷徹な視線。

 そして暗躍する、エデンという名の反乱組織。


「この一撃で、全てを粉砕する!」

「させるかァッ! アリア、いけるか!」

「はいっ! 私ごと、貫いてください!」


 轟く轟音。唸るバトルアックス。

 勝利の先にカイトが見たのは、予知した「絶望」へのカウントダウンだった。


 次回、**『重戦士の誇りと、砕かれた大地』**。

 

 ――未来を変えろ。その一撃で。

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