第三章:開幕、星歌祭! ピラミッドの影に潜む罠

第1話:熱砂のコロシアム

「オォォォォォォッ!!」


 大歓声。

 それは、耳ではなく腹に響く、空気の振動だった。


 俺たちが立っているのは、緑化都市エジプトの外縁に設営された特設アリーナだ。

 巨大なピラミッドを背景に、砂漠を掘り下げて作られたすり鉢状の闘技場。

 観客席には、各ノアから集まった数万の人々と、それを遥かに上回る視聴者がモニター越しに見守っているという。


「緊張してる?」


 通信機(インカム)越しに、アリアの声が聞こえる。

 ベオウルフの複座シート、俺の背中合わせの位置に彼女は座っている。


「……いや。武者震いだ」


 俺は強がってみせた。

 嘘ではない。だが、緊張がないわけではない。

 これは、ただの殺し合いじゃない。「祭り」という名の、政治と利権が絡んだ代理戦争だ。


「第一試合、開始5分前! 各機、所定の位置へ!」


 管制からのアナウンス。

 俺はベオウルフのメインモニターを確認する。全システム、オールグリーン。

 ユキが徹夜で調整してくれた機体は、最高のコンディションだ。


「対戦相手データ、照合……。ノアⅠ代表、アストロ・ガイア」


 アリアがコンソールを操作して情報を読み上げる。


「機体名は『アースブレイカー』。超重装甲と、地熱エネルギーを利用した振動粉砕兵器(クラッシャー)が武器……。真っ向勝負は危険よ、カイトさん」


「わかってる。力比べに付き合うつもりはないさ」


 ゲートが開く。

 眩い陽光と共に、熱気がコックピット内にも伝わってくるような錯覚を覚える。


 その向こう側、陽炎揺らめくフィールドの先に、そいつはいた。


 茶褐色の巨体。岩盤のような装甲。

 ベオウルフより二回りは大きい。ありゃ動く要塞だ。


『ガハハハハッ! よく来たな、貧乏都市の黒騎士クン!』


 オープン回線から、野太い笑い声が響く。

 アストロ・ガイア。

 筋骨隆々の巨漢パイロットが、カメラ越しに不敵な笑みを浮かべていた。


『悪いが、開幕の生贄になってもらうぜ! 俺のアースブレイカーで、その黒い棺桶をペシャンコにな!』


「……よく喋る奴だ」


 俺は操縦桿を強く握りしめた。

 心臓の鼓動が速くなる。だが、不思議と恐怖はない。

 背中に感じるアリアの体温が、俺を現実に繋ぎ止めている。


「行くぞ、アリア」

「はいっ!」


 ゴングが、鳴らされた。

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