仮面かぶった亡霊さん。

鳳凰

プロローグ 日常生活猫被り、日常会話仮面被り。

第一話 不快な音を発する目覚まし時計


『ジリリリリリ』


 頭上で目覚まし時計が、金属を高速で叩いて不快な金属音を発する。

 一日の始まりがこの不快な音から始まるのは極めて不快だけど、この不快な音を発する目覚まし時計でないと二度寝をしてしまうから、仕方なく毎日この目覚まし時計の発する不快な音で一日の始まりを迎える。

 いつも通り不快な音を発する目覚まし時計のスイッチを切り、冬仕様のふかふかの布団からむくりと上半身を起こす。

 が、疲れがとり切れていないのと眠気が完全に覚めていないせいか、音を立てて顔をふかふかの布団に埋めた。


「んぅう…」


 数分そのまま顔を布団に埋めていると、疲れは取れなかったが眠気は覚めたので、ぬくぬくした暖かい布団を名残惜しいが、ベッドから降りてヘアバンドをつけてから洗面所へ向かった。


 洗面台についたので、お湯が出るほうの蛇口をひねって顔をすすぎ、泡の顔料で洗顔をする。


 こんな単純作業ですら最近は面倒になってきて、無気力感が僕の体を襲い鉛のように体が重くなっている。

 はぁ、まったくどうしたものか。

 鉛のように体が重くなるのは数年前からだが、無気力感は最近でてきた症状だ。

 さて、どう対処したものか…このままだとおそらく、無気力感にすべて飲み込まれて感情が消えていくだろう。

 過去に自分の症状を調べている際に、無気力感についての症状が詳細に書かれていたから分かる。

 いままで〈私〉という仮面を被って自分の”本性”がばれないように演じてきたのだ、新たに出てきた症状によって完全に本性がばれてしまうのは避けたい。

本性を知られて、相手に気づつけられた時の代償はでかい、それは過去の過ちから学んでいる。

その対策として〈私〉を何年も演じていたのに、今ばれてしまえば数年間の努力は水泡に帰すだろう。

過去にちょっとした”ボロ”は何回か出したが、本性が完全にばれるようなことはなかった。


そんなことを考えているうちに洗顔は終わり、スキンケアを部屋に戻って始める。

机の上に置かれた鏡に映るのは、白いふわふわのヘアバンドを付けたベリーショートの”女子”


〈僕〉が居た。


目はぱっちり二重の色白で、顔つきは少し丸く、しかしそこまでまんまるというわけではないという中性的な顔をしていた。

…僕はこの顔が嫌いだ。

この顔のせいで僕は女子と言われないといけないのだ。

いや、そもそもの体の性別もあるのだが…

初対面の人には、髪が長く中性的な格好をしていると、女子と認識される。

だが、僕は”男子”だ。

女子なんかじゃない、男子なんだ。

ただ、体が女子の体で生まれちゃっただけの。

けど、そんなこと”あんな”母親に言えるはずなく僕は女子扱い。

だから僕は髪を切って、声も引くして、スカートもはかないようにした。

そうすれば初対面の人だけだが、僕を男子として見てくれた。

だからそれで我慢していたが、どうしてもヘアバンドをした僕は女子にも見えてしまう。

だからこの顔が僕は嫌いだ。


「…男子に生まれたかった」


いつものようにスキンケアをすませ、ヘアバンドを取った後にブレザーの制服を着る。

もちろんズボンだ。

表向きはうごきやすいだの、冬は暖かいなどの理由でズボンにしたが、内心は女装趣味なんてものはないのでただ単にスカートをはきたくなかったからである。


部屋にある姿見を見つつ、襟やネクタイを整えて通学用リュックを背負い、最後にブラシを使って髪の分け目をしっかり分けて、センター分けにする。


「…よし」


母親が未だ寝ているので、起こさないようゆっくりと玄関の扉を閉めて通学路を通る。

これが僕の朝。

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仮面かぶった亡霊さん。 鳳凰 @houou-husityou

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