5月24日

@SugerLily

5月24日

駅のホーム

始発の構内表示。

客がちらほらと入って来る。

その中にスーツ姿の男が居る。


「……思わず来てしまった。」


男、改札とホームの間にある踊り場の中心に立つ。

すれ違う人々、そんな男をやや遠巻きに避ける。


それぞれの客に変な怪物がくっ付いている。

男の横を割と大きめの怪物が通る。

身近なサラリーマンにくっつくと、しがみついて離れない。

何食わぬ顔のサラリーマン。


「見えてない……のか?」


男、怪物へパンチのポーズをしてみる。

怪物、恐れ慄く。

ニヤける男。

サラリーマン、眉間に皺を寄せて男を大きく避ける。


ホームに向かう若い男、サラリーマンよりも大きい怪物がしがみついている。

若い男、ヘッドフォンで音楽を聞きながら歩く。

男、若い男に気付かれない様に忍び寄る。

若い男に触れるか触れないかの所で怪物にパンチを当てる。

怪物、下にパラパラと落ちて消えていく。


自分の掌を眺める男。

満面の笑み。


男、行き交う人々にひたすらパンチを繰り出している。

避けられても決してめげない。

人の群れに紛れて、髭面がやって来る。


髭面

「やっぱり、おじさんに頼んで正解だったよ。」

「おお、君か!」

髭面

「これからが勝負だな。」

男面

「そうだな。」


男、帰宅ラッシュの列に突っ込む。

女性の悲鳴。


駅員

「何やってるんですか!?」

男 

「君らを助けてやってるんだよ。」

駅員

「何言ってるんですか!? こっちへ来なさい。」


男、駅員に取り押さえられ事務所へ連行される。






駅の事務所

長机と椅子が対面で並んでいる。

叫び声を上げた女性と男を取り押さえた駅員、机を挟んで男が座っている。

女性には、中くらいの怪物がへばりついている。


女 

「……この人が突然パンチを。」

駅員

「身体の何処に当たりましたか?」

女 

「いえ、当たってはいないですけど……。」

男 

「当たり前だよ。」

駅員

「どう言う意味ですか?」

男 

「花粉にだけ当ててるからな。」

駅員

「はい?」

男 

「……この崇高な戦いは分かるまい。」


男、誇らしげに笑う。

女性、恐怖のあまり泣き出す。


駅員

「……。」

男 

「お嬢さん、私は未来を守る戦いをしているのだよ。」

女 

「意味分かんないです!」


ますます泣く女性。

微笑む男。


駅員

「……落ち着いてください。」

男 

「私は落ち着いている。」

駅員

「その……。当たってはいないんですよね?」

女 

「でも、当てようとしてたんです!」

男 

「当てたりなんてしないよ。」

駅員

「今回は、その、、厳重注意、と言う事で……。」

女 

「納得いきません!」

駅員

「……。」

女 

「警察呼んでください。」

駅員

「……と言われましても。」

女 

「殴ろうとしたのは確かでしょ!」

男 

「お嬢さん、冷静になって欲しい。私は貴女に当てる気なんて微塵も無いよ。」

女 

「花粉? 何それ!? 何もないじゃない!」

男 

「今に分かるさ。」 


女性にへばっている怪物、大きく体を揺らし始める。 

黄色やピンクの粉が宙に舞う。

目を擦りながら、くしゃみを連発する女性。

徐々に大きくなるくしゃみ。

鼻水が流れる様に出てくる。

擤んでも擤んでも止まらない鼻水。

顔がぐしゃぐしゃになった女性。 


女 

「何でいきなり……。」


女性、話す所じゃなくなる。

駅員、これはチャンスとばかりに話を終わらせにいく。


駅員

「今後は、ピーク時を避けて……と言う事で。」


駅員、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。


男 

「お嬢さん、私なら助けられますよ。」

女 

「……。」

「まぁ、今回は良しとしましょう。」


男、意気揚々と事務所を出る。


男が去った途端に女性の症状が落ち着く。


女 

「今まで花粉とは無縁だったんですよ……。」

駅員

「……触らぬ神に祟りなし、ですよ。」


暫くの沈黙。

女性、駅員に一礼して去っていく。







夕暮れ時

男の部屋

小さなちゃぶ台には、メモ帳と発泡酒。


達成感を噛み締めながら発泡酒を味わう男。

メモ帳に何かを書く。


『ラッシュ時は止めておく様に。』


「未来のアイツに届くと良いなぁ。」


男、窓に映る夜空を眺める。

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