いたずらてんしと ひかりのいけ

神月 璃夢【りむ】

いたずらてんしと ひかりのいけ

1

むかしむかし、

そらの ずっと たかいところに、

ちいさな “いたずらてんし” が すんでいました。


てんしは ふわふわのはねで、

かみさまたちの かおを つついたり、

おひげを くるんと むすんだり、

いつも こっそり いたずらばっかり。


かみさまたちは

「まったく、やれやれ……」と こまってばかりでした。


2

あるひ、てんしは

“ぜったいに ちかづいてはいけませんよ” と

いわれていた ひかりのいけ の まえに やってきました。


きらきらゆれる みずのいろが きれいで、

てんしは どうしても

のぞいてみたく なったのです。


「ちょっとだけ……なら いいよね?」


そっと のぞきこんだ そのとき――

いけのなかに、ふしぎな けしきが ひろがりました。


3

そこに うつっていたのは、

ちじょうの まち でした。


でも、まちのひとは

みんな こまった かお。


おそろしい おにたち が あばれまわり、

ひとびとを おいかけまわしていたのです。


「なんで……こんなことに……?」


てんしの むねは

ぎゅっと いたくなりました。


4

てんしは あわてて かみさまのもとへ とびました。


「かみさま!

ちじょうのひとたちが こまっています。

ぼく、どうしたら いいんですか?」


かみさまは、すこし かなしい かおをして

しずかに いいました。


「おまえは いたずらばかりしてきた。

このままでは、いつか あのおにたちのように

だれかを くるしめてしまうかもしれん。」


てんしは はっと しました。


5

これまでの いたずらが

あたまのなかに ぽろぽろと うかんできます。


かみさまの おひげを ひっぱったこと。

ともだちのはねに いろがみを はったこと。

ちょっとした おもしろさで

だれかを こまらせてばかり でした。


「ぼく……

もう だれも くるしめたくない。

ちじょうのひとたちを、たすけたい。」


てんしの ひとことは

とても ちいさかったけれど、

ほんとうの きもちでした。


6

その すなおな こころを みた かみさまは

やわらかく ほほえみました。


「ならば――

おまえが たすけに いってごらん。」


そういって

かみさまは てんしのむねに

あたたかい ひかりを ともし、

“ちから” を あたえました。


それは、

ほんとうの かみさまに なるための ひかり

でした。


7

てんしのはねは

まぶしいほど しろく かがやきはじめました。


「ぼく、いくよ。

ひとびとを まもるんだ。」


てんしは おおきく はばたき、

ひかりのいけにとびこみ、

ちじょうへと おりていきました。


8

まちでは、まだ

おにたちが あばれていました。


てんしは よわむしじゃ ありません。

かみさまから もらった ひかりのちからを

ぱぁっと ひろげました。


すると――

おにたちは まぶしさに まけ、

すがたを けしてしまったのです。


ひとびとは びっくりして、

やがて やさしく ほほえみました。


「たすけてくれて ありがとう……!」


9

てんしは うれしくて、

むねの なかが ぽかぽかしました。


そのひから てんしは

もう いたずらを しなくなりました。


まちの こまったひとを たすけたり、

なくしものを ひろって あげたり、

ときには ながれぼしみたいに

そらから そっと みまもったり。


10

そして いつのまにか、

ひとは てんしのことを

「すくいのかみさま」 とよぶようになりました。


むかし いたずらばかりしていた てんしは、

だれかを おもう やさしいこころを

ちゃんと みつけたのです。


いまでもどこかのそらで

その かがやくはねを

やさしく ゆらしているかもしれませんね。



おしまい

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いたずらてんしと ひかりのいけ 神月 璃夢【りむ】 @limoon

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