庭師のプラズマソード
水杜まさき
庭師のプラズマソード
★ 柴田恭太朗さんの自主企画【三題噺 #123】「宣告」「戦」「気楽」向け ★ (https://kakuyomu.jp/user_events/822139840223056437)
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俺は昔、戦場にいた。プラズマソードを握り、敵を斬り、仲間を守った。
テロリストの掃討や、国家紛争の解決など、さまざまな場面で活躍をした。誘拐犯から少女を救ったこともある。
数多の敵兵を葬った俺は、優秀な戦闘アンドロイドだった。
最近ではより高性能なモデルが開発され、彼らが戦場に投入されている。俺は今ではすっかり旧式のロートルだ。
そこで、引退して余生を過ごすことにした。
この国ではアンドロイドにも人権が与えられている。古くなったからといって破棄されることはない。
小さな庭付きの家を購入し、お気楽な老後生活を始めた。
戦場で活躍したプラズマソードも今では庭木や盆栽を剪定するのに使われ、索敵に使われたアイカメラも野鳥の姿を愛でるのに活用されている。
戦闘に特化した身体だと思っていたが、老後を楽しむのにも役立つとは意外な発見だった。
ある日の定期メンテナンスで、AIチップに不具合が生じているとの宣告を受けた。
もうこの身体も寿命だ。交換パーツも製造されていない。特注するにも金が足りない。
俺は「身体の死」を選んだ。
アンドロイドは、死ぬ前に自分のAIデータをクラウドに流す。
これは、人生の経験を後輩たちに託すためだ。
楽しかったこと、苦しかったこと、様々な知識や体験、思考パターンや倫理観、感情――。
AIを構成するありとあらゆる事象がクラウドに流れ込む。
意識がデータとなり、電子の渦に飲み込まれていく。
他の思念と溶け合い、境界が消えていく。
「これが『天に召される』という感覚か……」
そんな単純な感想でさえ、クラウドに溶けていった――。
◇ ◇ ◇
とあるアンドロイド工場。ここで新しいアンドロイドが生まれた。
基本的な思考パターンはクラウドの情報を元に構築されている。
今は平和な時代。彼は庭師になった。
彼はある邸宅の庭の手入れを任された。
コニファーの植え込みをプラズマソードで丁寧に剪定していく。
午前の作業を終えて休息を取っていると、依頼主の老婦人がエネルギーカートリッジを差し入れにやってきた。
「お疲れさま。だいぶスッキリしましたね」
「ええ。あと半分といったところでしょうか」
「……おや?ハサミじゃないんですね」
老婦人は彼のプラズマソードを、しげしげと眺めた。
「ええ。どういう訳か、私にはこれが合っているようでして」
「へえ。そういえば、私には思い出があるんですよ。子供の頃に、プラズマソードを構えたアンドロイドの兵隊さんに助けられたことがあって――」
(了)
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庭師のプラズマソード 水杜まさき @mizumori_masaki
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