桐生院家の花嫁たち

万和彁了

第1話 父のカミングアウト

 俺自体はどこにでもいる平凡な奴だ。だけど家族は違う。姉や妹たちは美しいだけでなく有能で大企業のオーナーである父、玄正の仕事を頑張って手伝っている。俺は甘やかされていると思う。まあ能力がないから父の手伝いとかできないし、父もそういうことはいいと言っているので、それに甘えている。だけどそんな穏やかで温かい生活は父の突然のカミングアウトで崩壊した。


「お前らに知らせなきゃならんことがある」


 俺と姉と妹たちが屋敷のリビングに集められた。


「お父さんがマジトーンなのなんか怖いんだけど」


 四月生まれの俺とはぎりぎり同学年の三月生まれの妹の有栖ありすが警戒感マックスだ。有栖は会社の会計を管理している才女だ。


「パパが真剣な顔してるの変だよねぇ」


 姉の心葉がふわふわだけどやっぱり警戒感露にしている。家の中でも調整役でおっとりしている人当たりの良さがあるのに、顔はきびしい。


「そうだな。なにがあったというのだ?」


 妹の毬奈がめっちゃ父を睨んでいる。家族の中でも生粋の武闘派である過激派だけど、さらに厳めしい。


「まあまあ警戒はわかるけどちゃんとお話し聞きましょうね」


 姉の玲於奈がやんわり注意してきたけど、やっぱりどこか緊張感がある。抜け目ない人だからこそ平静を装っているように見える。


「で、父さん。今日は何が話したいのさ?」


「おう。驚かんで聞いてほしいんや。実はうちの子らは正嗣以外全員俺と血が繋がっとらん。養子や」


「「「「「はぁ?」」」」」


「無理もない。だけど事実や。DNA鑑定してもええで。俺の実子は正嗣だけ」


 父以外の全員の顔が凍り付いた。全く処理できない。みんなと俺は血が繋がってない?嘘だろ?


「ちょっと!?え?!うそでしょ?!うちって超大企業なのだけど!なのに実子がいて養子がいっぱい?!理解できないのだけど!?」


 玲於奈が顔真っ青にしてる。今の事実を必死に否定しようとしている。そんな感じだ。俺だってそう思いたい。


「女の子はええ」


「はい?」


「女の子は他人のためには働かんが家族のためには必死こいて働く。だから養子にしたんや」


 絶句した。何言ってるんだこの人。


「うちの正嗣は可愛い息子だが言っちゃ悪いが普通なんや。会社のこと任せるんは不安なんよ。だから娘たちに頑張ってもらおうと思って養子にしたんや」


 再び絶句。理解の外にありすぎる理屈を開陳されても全く何を言ってるのかわからない。


「え?血が繋がってないの?うそだよね?パパ?」


「血は繋がっとらん。だけどお前らは俺の娘や。それは事実やで」


 普通ならいい話に聞こえそうな言葉なのになんか異次元過ぎてよくわからない。


「まあこれからも家族でなかようしいや。そんで会社を盛り上げてくれ。あと家督は長男が継ぐのが対外的には受けがええからな。まあ仕事はせんでええよ。それは優秀な姉妹がやればええんや」


 父はしみじみ笑顔でいった。だからまったくわからない。なんなの?え?どういうこと?誰も発言できない。


「それと正嗣には嫁はん用意したで、あと別嬪な妾さんもおる。孫の顔たくさん見せてくれ。頼んだで」


 だから絶句しかない。いみわかんない。え?俺が好きなラブコメだってこんなに乱暴に許嫁とか決まらないよね?え?


「嫁さんはしばらく本家のようがあるからこれへんが明後日には妾はんたちが来るからな。ちゃんとよろしゅうするんやぞ。ええな?新しい家族や。家族を大事にせんやつは屑や!ええな?遠い外国から来るからな寂しいと思うんや。健気な子たちなんよ。幸せにしたれよ」


 どうしよう絶句なんだけど。そして父は言いたいことだけ言って、仕事と言って家を出ていった。残された俺たちは沈黙しかなかった。俺が切り出した。


「俺たちはその家族だよな?それは変わらないんだよな?」


 俺がそう言うと泣きそうな顔していた姉妹たちが頷く。


「うん!私たちはかぞくだよ!」


「ええ!あたしたちは家族なの!」


「そうだよ!たとえ血が繋がってなくても家族だから!」


「だからずっと家族一緒だよ!」


 よかった。俺たちが離ればなれになることはない。それはよかった。だけど飲み込めないまま。その日はやってきた。









「新しい家族を紹介するで!正嗣の妾さんたちや!」


 父の後ろに外国人のとても美しい少女たちがいた。みんなドレス着てる。


「この子はアナスタシアちゃんや!」


 白人の金髪に緑色の瞳のとても綺麗な子が気品ある仕草で俺にカーテシーした。


「アナスタシアちゃんの北欧にある島国ルクスハイム王国はとても貧乏でな!可愛いアナスタシアちゃんがいるのに哀れに思ってうちが経済支援して立て直したんや!アナちゃんは第一王女なんや!かわええやろ?」


 絶句。え?何言ってんのこの人。


「でこの子はラサナちゃん!」


 アジア人のとても可愛らしくて綺麗な女の子だ。奥ゆかしい仕草で俺に頭を下げる。


「この子の御家も大変でな!シエンヤラーン王国の王族なのに過激な共和派テロリストに命狙われておったんよ!こんなにかわえーのにテロやぞ!ほんま可哀そうでな!うちのPMCでテロリストどもしばいてうちの会社が国を立て直したんよ!」


 もう絶句。どういうことなの?はい?


「お次はナディアちゃん!この子も大変やったんや!アフリカの小さい国でな!なのに隣国の民兵共が攻めてきては国を荒らしておっての!ほんま腹立つわ!まあしばき倒しておいたから安心せい。国もうちが経済支援してるからいまやアフリカ一の宝石のような国やぞ!」


 はい絶句。ナディアさんは褐色の肌にくっきりとした顔立ちが太陽のような綺麗な人だった。胸に手を当てながら俺に敬意を示している。


「こちらはイサドラちゃんや。南米では珍しいヨーロッパ系王室のある立憲国家の王女様や!人口一億もいる潜在力ある大国なんやけどカルテル共が暴れて国は荒れててのう。ほんま俺はなきそうやったよ。こんなかわいいナディアちゃんのいる国で暴れるとか人でなしや!うちのPMCでカルテルは葬っといたからもう憂いはなしや!」


 七言絶句。なにやってるの?父さん?なにやってるの?茶髪に琥珀色の瞳のとても綺麗で快活な美人のイサドラさんは俺に華麗な仕草でお辞儀してきた。


「最後はこの子エレネちゃん!この子は本当に、ほんとおおに!大変なこなんや。あのコーカサスで部族や民族長たちが密かに各民族の血を混ぜていって生まれたコーカサスのお姫様なんや。深く感動したんよ。国のために血を繋ぐその偉大なる意思に感銘を受けた俺はPMCいっぱい送り込んで王国独立の手を貸したんや。今はお兄さんが王になってコーカサスは安定と発展の夢の大地に変わったんや。うちも経済支援いっぱいしとるんや!未来は明るいのう!」


 そして絶句。神秘的な美しさを持つ銀髪に蒼い瞳のエレネさんは俺の手を握って甲にキスしてきた。


「ええか?!外国人だっていうっても家族や!ええな!人種民族なんて小さなくくりにこだわるんはクズのやることや!お前らはええ子やろ!この子たちをしあわせにしてやるんやぞ!」


 もう言葉が湧かない。父は本気で善意で言ってるのが質が悪い。そして俺の平穏な生活は崩壊した。俺たち家族の新たなる物語がこうして始まったのだ。

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桐生院家の花嫁たち 万和彁了 @muteki_succubus

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