最終話 妖精人形工房




ルカは模擬戦の後、官吏に王国民権のはく奪と、実家ティナンテ家との絶縁を命じられ、その後王都を退去せよと王からの命令を受け、

「へ?」

ルカの口から、実に間抜けな声が出た。

理由も告げられず、意味が分からなかったから。


アフィリアから模擬戦の話を受けた時。

勝てば妖精人形の悪評を無くす事ができ、フィとルカは賞賛を受けると言外に言われた。

妖精人形の悪評は一部無くせたと思うし、賞賛も受けたと思う。


しかし、ルカが望んだ最大の褒美『世界最高峰の妖精人形工房への紹介』は受け取れなくなった。

商工科を卒業する事もできなかったから、妖精人形工房に弟子入りする事も難しくなった。


ルカは官吏の後ろを今、実家ティナンテ商会へと歩いている。

そして、そこで絶縁の処理を行って支度を整えたら、そのまま王都を退去せねばならないから。

アフィリアに会う機会は、もう無い。


「世界最高峰の妖精人形工房への紹介がぁ………」


手が届きそうだった願いが、虚しく口から漏れ出るばかりだった。


王宮に向かったアフィリアの代わりに、アンがルカの後ろに続くのは、

「アフィリア様から、旅支度をお手伝いせよと命じられています」

との事だった。


実家の離れにてルカは、

「はい、次に絶縁許諾状へのサインを。はい、次は退去命令許諾状へサインを。はい、次は………」

実家の離れの机の上に、次々と上級官吏から書類が並べられ、サインを繰り返した。

その書類の多さに辟易し、途中から何の書類なのか理解するのを放棄して。


「では、退去のための準備を」


官吏に言われ、ふらふらと立ち上がる。


これからこの離れを去る。

いい思い出ばかりではないが、ルカはこの離れと学校しか知らない。

この離れでフィと暮らし、妖精人形作りに没頭してきたのだ。

その場所を、これから去る………ひどく現実感が無かった。

父や継母、異母兄弟への思いや絆は皆無だ、それはどうでもいい。

しかし、トマスとロンドにお別れすら言えないのは辛かった。

ある日突然、明日もあると思った居場所がなくなるなんて思いもしなかった。


「ルカ様。お手伝い致します」


アンが手伝ってくれなければ、何をどう準備したら良いかも分からなかった。

王都から出たことなど無いのだ、準備の仕方など分からなかった。


「ルカ様。素材だけで背負袋が一杯になっていますよ?」

「ルカ様。道具だけで背負袋が一杯になっていますよ?」


そんなやり取りを何度かして。


「ルカ様、まず着替一式とお金、水筒と携帯保存食、必要最低限の道具類、フィ様の補修用の素材のみに絞ってみましょう」


やっと背負袋の中身は、旅支度に足る内容になった。


途中でアンが離れから母屋へ出向き、帰ってきた時。

「ルカ様。ご家族の事情は存じております。アフィリア様から、手切れ金をたっぷり頂戴せよとの指示でしたので、この通り」

アンから金貨が詰まったそこそこ大きな袋を受け取った。


「支度は終わったようですね。ではまいりましょう」


官吏の後を、実にとぼとぼと歩く。


王都を囲む外壁の大門の外。


「ルカの王都退去を確認した」


ルカが大門の外へ踏み出した二歩を確認して、官吏の事務的な声があり、

「ルカ様。あちらの乗合馬車でまず南へ向かわれるのが良いでしょう。必ず南へ。どうぞルカ様の行く先に幸運を。絶対に南へどうぞ」

そう言ってやたらと南へ向かう乗合馬車を勧めてアンが促したから。

ルカは乗合馬車の停留場所へ歩く、やはり実感はないままに。



◆◆◆◆



王都がまだ近い一面の畑の中、踏み固められた街道を進む乗合馬車。

もちろん、アンに何度も勧められた南へ向かう乗合馬車の中で、ルカは膝を抱え。

これからどこへ向かえば良いのか、そこで何をすれば良いのか、どうやって生活すれば良いのかを回らない頭で考える。

「あああふぅぅ………」

口から呻きを漏らしながら。


ルカの不安を感じて、やはりフィがルカの頭に大の字で張り付いていて。

「あら、凄く可愛いお人形?え?動くってことは妖精人形?嘘、これが?」

「ま、まるで小さな人間みたい!」

「すっごい美人さんねえ!」

美人という言葉に反応したのか、フィがルカの頭に張り付きながら手を上げて褒めてくれた女性に手を振る。

「まあ、手を振ってくれたわ!ありがとー妖精さん!」

それを見て、他の女性客もきゃっきゃと歓声を上げていたが、ルカには上の空で聞こえていなかった。


その日の夕暮れが近づき、御者が野営の準備を始め。

御者の起した焚火を囲んで、客たちがそれぞれ軽い食事を摂って、外套にくるまって眠る。


ルカは膝を抱えたまま、周りの皆が眠ってしまっても、何一つ考えはまとまらなかった。


夜更けに強盗が出るといった事もなく。

魔獣に襲われる姫や、商人もなく。

ルカは迷いのまま朝を迎え。


その目に、街道の先に邸宅が近づいてくるのが映ったから、

「あ、これは駄目だ。重症だ………」

自分の精神は相当参っているから幻覚を見ているのだと呟いて、

「なんじゃあ、ありゃあ?家が浮いとる!」

御者が呟いて、起き出した客も騒ぎ出したから、どうやら現実のようだと思い直し、

「邸宅が浮いて移動してる?」

よく観察し、

「ん?んん?んんん?…………」

ズゥンと着地したその邸宅に見覚えがあったから、その邸宅から誰が出てくるか分かり、

「ルカ、待たせた!」

「アフィリア様!」

二人の挨拶は同時であった。



◆◆◆◆



―――『浮動邸宅(フロートホーム)』


希少で超高価な、固有魔法【浮揚ーフロートー】を持つ魔獣核をすごい数装着し。

希少で高価な、魔力圧力量倍化系魔獣核を直結しまくり。

高価な、魔力量倍化系魔獣核をこれでもかと装着し。

なんと魔石発動で邸宅を支える台座ごと浮かして移動させる、魔道具に分類される製品だ。


魔道具と呼ぶには、いささか大きさが過ぎるが。

正方形の台座の中心に邸宅が建ち、周囲は芝生で覆われている。

台座の厚さは実に成人の背の半分ほど、台座の淵に階段があってそこから台座上へのと上がれる様になっている。


アフィリアが、エストラート王ハレインドに、

『例の件を大陸連合へ訴えないでやるから、寄越せ』

と強請って得たものだ。

あの時ばかりはハレインドも惜しがったが、そんな事はアフィリアには関係がない。


『浮動邸宅(フロートホーム)』が三年後に届くと聞いたから。

本来なら15歳の成人後、直ぐに王都を離れるつもりであったのに、魔獣もおらず迷宮もないエストラート王都に留まるという、無為な時間に耐えたのだから。

 

そして届いた後、騎士学校内に移動させ、アフィリアの望む施工をさせて。

施工の完成間際に、アフィリアはルカに出会った。

それは、アフィリアの生涯で一番の幸運と言えた。


アフィリアに促され、その邸宅内にルカは入った。

アフィリアの裸体と向き合った、見知った応接室で向かい合う。


「アフィリア様はどうして王都の外に?」

「旅に出ようと思うてな」

「アフィリア様って貴族でしょう?ご実家はどうするんです?」

「いや私に実家はない。家族もクイン以外におらぬ」

「………」

「気を遣うな、今はルカも同じであろう?」

「あ、そうでした。僕も家族はフィだけです」


ルカにとって、アフィリアに会えた事は光明だった。

昨日から今まで、悩み続けた答えをもたらしてくれるはずの。

 

「あの、アフィリア様。僕、模擬戦に勝ちましたよね?」

「うむ、見事であった。騎士とその息子の戦いもな」

「それで、あの。アフィリア様からのご褒美を………」


そこでルカの意図に気づいたアフィリアは、口角を上げ。


「世界最高峰の妖精人形工房へ紹介するという褒美か?」

「そうです!」



ルカは望む。

ルカがまだ知らぬ、妖精人形のための技術、思想、発想を。

それらが先人の妖精人形工房にあるとルカは考え。

妖精人形工房で働きながら、それらを吸収し、最高の妖精人形を作る。

それは、もう明確にルカのこれから生きる道筋を示している。

妖精人形工房への紹介が得られれば、悩みは全て解決されるのだ。


だから期待を胸一杯に、アフィリアの口から工房名や所在地が聞こえるのを待ち、

「付いてまいれ」

と言われて困惑し、

「見せよう」

と続けられて混乱し、連れられたのは邸宅の二階。


玄関エントランスから左右対象の曲がり階段で上がった先に横に伸びる廊下。

その中央に両開きのドアがある。


アフィリアがドアを押し開けて中へ。


ルカは続いて入り、その大きな部屋に複数の机と、数々の道具や材料が揃えられているのを見た。

「………これは、職人の作業場、ですか?」

「そうだ」

特に正面左右、一面の大きな窓の手前に、左右対象に机が並んでいる。

 

右側は、衣服を飾るための全身人形、所謂マネキンに。

全身形ではなく上半身のみの胴体、所謂トルソーが置かれ。

机上には、絵具や、色鉛筆などの画材が並んでいる。


左側は、各種素材が並べられ。

机の上に置かれた物がなぜか、かさ張るからと諦めて実家に置いてきたルカの工具や道具に見えた。

「………いやいや」

それは気のせいだと頭を振り。


「右側が意匠師用の机、左側が人形師用の机………ですかね?」

「ふむ。そうだ」


合っていたらしいが、ルカが早く知りたいのはそんな事ではない。


「それで、その。世界最高峰の妖精人形工房の名前と所在をそろそろ………」


ルカの顔をアフィリアが覗く。


「ここが、私の知る世界最高峰の妖精人形工房だ」


アフィリアがはっきりそう言ったから、ルカは首をこてんと傾げ。


「アフィリア様と僕しかいませんよ?誰の工房です?」

「ルカと私のだ」

「え?」

「ルカが妖精人形を作り、意匠全般を私が描く。二人の妖精人形工房だ。今は他に誰もおらぬ」

「あ、あのう………『世界最高峰の』という部分は?」

「お主が世界最高峰の妖精人形師だ。断言する」

「ええ?いや、それはどうかと………」

「どのみち、逃れようはないぞ?なんせこの工房は『ルカフィリア妖精人形工房』で大陸同盟下部機関の工房管理理事会へ届け出済だ」

「いや工房名に名前が含まれるからといって―――」

「工房長ルカで届けておってもか?」

「ええええ!い、いや届け出なんて、僕は了承してないですよ?」

「お主、昨日やたらと書面にサインしたであろう?内容を良く読んだか?」

アフィリアの口が半月に歪む。

「ま、まま、まさか?」

「私の出発が遅れたのは、その届け出と、設立認可証書を受け取るためだったのだ。これを」

「ああ!僕のサイン!それに、『工房長ルカ』うわぁ………」

「諦めて、私と来い」


アフィリアは愉快そうに笑い。


「それにこの妖精人形工房は、ルカを面白い世界へ連れて行ってくれるぞ」

「面白い世界、とは?」

「魔獣討伐に迷宮踏破」

「む、無理ですぅぅ!」


怯えるルカの頭にまたフィがはっしと大の字でしがみ付く。


「言い方を変えよう。妖精に死をもたらすものはなんだ?妖精は、妖精人形や妖精武装が壊れても、宿る魔獣核が壊れて離れるだけ。同じ血の新たな妖精人形や妖精武装を用意すれば再び宿る。しかし、この離れて無防備でいる時に魔獣に食われる事でのみ妖精は死ぬ。問おう。お主にとって魔獣は、何だ?」

「敵ですぅ………」


こればかりはゼットの眼帯無しでもルカは答えられる。

しかし、怖いものは怖いので、嫌そうな表情ではあるが。


「さらに、妖精人形や妖精武装が魔獣を倒すと位階が早く上がる。どうだ?想像してみよ、妖精位階50のフィを、70のフィを」

「それは………くぅ………い、良い!」

「まだあるぞ?魔獣を倒して得られるものは何だ?魔獣素材に、魔石、そして魔獣核だ!想像してみよ、希少な魔獣核で強くなったフィを」

「なんだ、魔獣は獲物だったんだぁ」


妖精の死の原因を排除すると、経験値、素材が付いて来る、一粒で三度美味しい。

問題は、命に係わる恐怖と自ら相対することであるが。


アフィリアはまた薄く笑い。


「各地で魔獣を討伐し迷宮を踏破しつつ、最高の妖精人形を望む同士に妖精人形を作りながら、世界を渡る。この『浮動妖精人形工房(フロートホーム)』で。どうだ、面白かろう?」


これにはルカも納得したような、してきたような、

「そうですね。ちょっと楽しみな気に?なってきた………かな?来た、だろう、か?どう、かな?」

少しだけ、暗示にかかった感もあるが。


アフィリアが手を差し出したから、ルカも覚悟を決めて握手を交わし。

なぜかそのままアフィリアが握った手を離さないから困惑し。


そのアフィリアが握ったルカの手をぐっと引っ張って、アフィリアの方へ引き寄せ。

ルカの耳元で、

「ルカの王国民権はく奪、実家との絶縁、王都からの退去も、エストラート王に勅命を出させたのは私だ」

と囁くように告白するから、

「あええええ!」

大音量で驚きが口から洩れ、

「ルカを、何も知らされぬ、ぬるま湯のような世界から連れ出すために。それに、妖精人形を馬鹿にし続けた者共に、ルカの才能発想の一辺たりとも渡さぬために!………のう、ルカ。アフィリアのお茶目だ。許してくれよう?」

密着していた身体を離し、アフィリアがあざといハの字眉でルカを見るから、

「お茶目の範疇を超えてる!」

そんなものには屈さずに、ルカはツッコミを入れ、

「楽しくなるなあ!あっはははは!」

アフィリアも本当は許しなど求めてはいなかったらしく、何のうしろめたさもなさそうに笑った。



衣服を着せられる妖精人形の制作をルカが引き受けた時。


アフィリアはその時点のフィの木製の体に不満を覚えていた。

たとえ、アフィリアの裸体と寸分違わぬ形になろうと、木は木。

アフィリアの描いた意匠の衣服の袖やスカートから覗くのは、木の肌の手足である。

人形を作るのだ、何かしら硬い素材で造形されるのは仕方がないと、ほとんど諦めていた。

それを、ルカは実現してみせた。

「木の肌が不満だ」などと伝えはしなかったのに。


「最初はいつも通り木で造形したんですけど。肌とほど遠いなあと………」

「それに関節の機構が見えるのもどうなんだ?って今さら………」

「アフィリア様の裸体像を作ってから、今までのフィの造形に欠点しか見えなくなって………」

「まず、粘土ではどうだって試して。駄目でした、形を維持できなくて………」

「あれ、なんで僕は粘土を試したんだろう?ああ、柔らかさが要ると感じてたのかって………」

「肌のように肉のように柔らかいけれど弾力もある素材が要る………」

「実家の商会の素材を全部試して、組み合わせて、混ぜ合わせて、時間がかかりました………」

「柔らかく弾力がある素材の混合割合をやっと見つけて、そしたら色味が違うなあ、と………」

「アフィリア様の肌の色を再現するために、色素を混ぜ合わせてですね………」

「肌色も触感も良い物が出来て、やっと木を骨格のようにして組み始めたんですけど………」

「手の部分で、ここまで生身に近い作りで指が動かないのはどうなんだ?って………」

「ただ、指の関節は正直細かすぎて、諦めようとしたんですけどね………」

「思い出したんですよ、妖精は魔獣核から伸びる『霊銀』を伝って体を動かせるって………」

「肉の素材に霊銀を混ぜたら、妖精は骨格の方じゃなくて肉自体を動かせるんじゃないかって………」

「その混合割合にも苦労して。完成品を『霊銀合皮』って名付けたんですけど………」

「結果、指の細かい関節は、適度な柔らかさと、元の形に戻る弾性もある素材を工夫して………」

「芯としてその素材を入れたものを、妖精が指の肉を動す事で動くようにできました………」

「実は『霊銀合皮』には、思ってもみなかった効果があってですね………」

「頭も当然『霊銀合皮』で作るじゃないですか、アフィリア様の顔を作るわけだから………」

「そうしたら、動くんですよ表情が。器用に細かく『霊銀合皮』を動かして………」

「完成が近づくと、もっと完璧にって欲求が。今度はじゃあ足の指も動くようにするかと………」

「駄目だ瞳も要るぞ、髪の毛も必要だと………この髪に関してはまだ不満があるんですが………」

「そうして拘っていたら遅くなってしましました。本当にごめんなさい!」


差し出された妖精人形は衝撃だった。

それを手にしたアフィリアが理解を超えたその造形に思考を数分飛ばした程に。

世の工房製妖精人形が馬鹿馬鹿しく見える程に。

アンがアフィリアと妖精人形を交互に見て「え?え?」と驚きが口から漏れ出るのも当然だ。

そこには黄金の双眸を持つ小さなアフィリアがいたのだから。

クインが宿った妖精人形は、アフィリアの理想を遥かに高く、超えていた。


ルカがアフィリアに衣服を着せられる妖精人形をもたらしたこの時。

アフィリアは、ルカが欲しいと思った。


ルカをアフィリアの所有物とエストラート王に認めさせたのは、保険だった。

ルカの才能に気づき、どこかの工房が横からさらうかもしれないと恐れたから。

ルカの思想、発想の一つすら、盗まれる事を黙って許す気は無かったから。

アフィリアがルカを何が何でも離さないという意思の表れであった。

結果、騎士とその息子に攻撃を受けたことで、主星国王の裏書が手に入ったのは偶々であった。



アフィリアが『お茶目』と言った暗躍の内容に加え、模擬戦もアフィリアの暗躍である。

アフィリアがルカに答えた模擬戦の理由、

『エストラート王が、妖精人形蔑視の風潮に危機感を抱いて、何事か起こる前に、妖精人形使いに復権の機会を与え、妖精人形蔑視の風潮を止めようとしている』

という意味合いのこれも、それらしく作った嘘である。

ルカが戦えるか試したかった、これが一番の理由。

ついでに、妖精人形蔑視をする輩に一泡ふかせて憂さ晴らし、これが二番目の理由。


その模擬戦のルカが、またもアフィリアの想像を超えていたから。

ルカなら自分の隣に立って戦えると確信したから。

多くが離れて戦いたがる魔法戦で、迷わず敵に突っ込んで行くルカに垣間見えた、自分の妖精を守り戦うという強い意思。

限界まで魔法を装備させ、『複現級』魔法まで放てるようにした技術と思想。

その、妖精を守るためならなんでもやるという固い意思が、際限なく妖精人形を強化し続けるだろう。

その未来を想像してアフィリアが、思わず興奮にゾクリと身を震わす程に。

アフィリアの過酷さを伴う願いに、これほどの相棒は二度と現れまい。

アフィリアはルカを見て知らず笑みをこぼし、ルースルに言われて心底驚いた。

自分はそれほどにルカを欲しているのか、と。

 

アフィリアはルカの評価をさらに引き上げた。

アフィリアは、ルカを離さないと決めた。

そこまでルカに惚れ込んだのである。



アフィリアは、自分の隣の机に座って道具類を確認しているルカの横顔を見ている。

実に満足そうに、晴れやかに笑って。



こうして、ルカとアフィリアの『ルカフィリア妖精人形工房』が誕生し動き出した。

アフィリアが断じた、エストラート王都の、ぬるま湯のような世界を離れ。

向かうは複数の迷宮を持つ地、そして魔獣の跋扈する地、はたまた妖精人形を真に求める同士の元である。



―――さて、まだ二人が知らぬ事実が一つ。

ルカの右目が妖精を見る事ができるのは、その目に埋め込まれた異物のため。

異物の正体が小さな魔獣核であり、妖精が宿っているから。

彼の目の魔獣核が特別だからだが、それは横に置き。


その特別製の魔獣核に妖精が宿り、ルカの目を修復したからルカは魔力を見る事ができるようになった。

ルカが見ている紫は、単に妖精ではなく、魔力を捉えたものだ。

そしてその特別な目は、魔獣核の中心核が見える。

魔獣核の中心核こそが魔獣核を魔獣核たらしめているもので、それさえ残せば中心核の周囲を覆う余計な部分は削る事ができる。

講師が言った勘頼みではなく、確実性をもって。


ウィリルとの戦いの際、ルカが魔石式魔法武器で『複現級』の魔法を放てたのは、彼の背架に魔力圧力上昇魔獣核が複数連結されていたから。

彼が削り小さくした魔獣核を。

同じく、フィの妖精人形にもルカが探し出してきた、最も小さく削れる魔力圧力上昇魔獣核を装着していたからだ。


ルカはその目に妖精を宿している時点で規格外の存在である。

しかし、ルカは本当の意味ではまだ完成していない。

ルカが迷宮で魔獣を狩り、魔獣が死んだ時に放出される魔力を浴びてルカの目の妖精が成長し、いずれルカ自身の体に魔力がいきわたるようになった時、ルカは真に覚醒し完成する。

世界で一人、直接魔法を放てる存在へと。



この話は、一旦ここで終わりとしましょう。

実は、アフィリアにも秘密があるが、そちらは機会があればまた―――この話の続きが望まれた時に。







―――――――――――



最後までお読み頂きありがとうございます。


色々匂わせておいてその辺りを回収していなくてごめんなさい。

もともと長編予定にしていたので、色々設定し話の展開を考えたうえで、先々で回収するつもりでした。


『ゲーム世界の戦えない神官に転生したから村娘や魔王を転職させて守ってもらいながら世界平和を目指します ー無双できない主人公、つよつよ女の子に守られるー』


ただ、もっと軽く詰め込んでいない作品として書いたはずの作者の上記作品に読者様からの反応が無い事から、こちらの長編はきっともっと受け入れられないだろうと諦めました。

そういう理由で、仕込み未回収のままです。


一応書いたからには少しでも読んで頂きたくて投稿だけさせて頂きました。

だからごく少人数でもお読み頂けて嬉しいです。

ありがとうございました!


できましたらこのまま、作者別作品をご一読いただけるともっと嬉しいです!



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戦うは妖精人形オタク、暗躍するは黄金姫 @rukafilia8

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